24.奸計
暗闇の中に黄色い光が揺らぎ、書斎のように本棚に囲まれた部屋を照らす。
同じ闇でも、皇帝ノールディンの寝室に広がるそれの印象が冷厳だとしたら、ここに広がるそれは泥濘だった。原因は、葉巻の煙が作る大気の澱みか、それとも集った者たちの腹の内の為なのかは知れない。
一人掛けのソファに深く腰掛けた男が最初に口を開いた。
「皇帝陛下が城を出られたそうだ」
「また御公務で?」
「そうではない。皇妃、いや、元皇妃のフェリシエ殿を追われたとか……」
騒ぎだすような真似こそしないが、集った者たちに動揺が走ったのは確かだった。
「あの、英明なる陛下もあの女のことではよくよく目が曇るようですな……」
しゃがれた声が忌々しそうにそう言う。
「いっその事、…………」
誰かが低く言った。
すべての人間が彼の言いたい事を理解した。幾度この会合で話題に出ただろうか。個人で実行に移そうと思った者もいるだろう。
「けれど」
そう、けれど、必ず誰かが反意を示すのだ。
「あの者は…………」
「そう、そうしてしまう訳にはいかない」
重々しく、苦々しく、断定される。
「なれば」
比較的若い声が言った。
「なれば、本当に消えてもらえば宜しいのでは?」
「消えてもらう?」
「城を出て、何処へ行こうとも、我らの知りうる話ではありません。どこに『雲隠れ』しようとも」
「……生かしながら、消してしまう。否、消えてもらう、か」
「それも、よかろう」
初めの声がそう言って、それはこの会合の総意となった。