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第3部 クライシス

第3舞:クライシス


最近頻繁に見るようになったよくわからない夢。

いつもそれは水面に落ちる一粒の雫から始まる。

儚い音を立てて雫は水面に落ち、一気に視界は広がり、湖の周りを木々が囲んでいる風景。

その湖の上に1人の女性は白いワンピース着て、ヴェールのようなものを被っているためその素顔はよくわからない。

けれどいつも何かを呟いている。

『          』

貴女は誰?どうしていつも俺の夢に出てくるんだ?俺に何を言いたいんだ?

そう問いかけようとするけれど、俺の口からは声は出ない。

強い風が吹き始め、視界が悪くなる。

その時が現実に戻るとき。

「・・・また、か。」

結局誰なのかわからない。ただ、何処か懐かしいと思うんだ。

「昶―!今日は昶が朝の当番だったでしょー!」

「・・・ヤバッ!!」

すっかり忘れていた。今日の朝食の当番は俺じゃないか。ちなみに俺の家では俺と母さんで交互で食事当番をしているんだ。ここのところ任務を詰めに詰めて働いていたため疲れていたのか、かなり熟睡してしまっていた。

普段起きる時間は7時でそれから朝食を作るようにしているのに今日はもうすでに8時。よかった学校休みで。

素早くその辺りに放置していた洋服に着替えると、キッチンへ向い素晴らしい速さで朝食を作り上げた。

今日のメニューは麦ご飯に切干大根の味噌汁、ほうれん草の胡麻和えにこの間作り置きしておいた一文字のぐるぐるがあったからそれを。うーん俺主婦に勝てる気がする。

「昶料理上手くなったわよねー・・・もう私料理放棄していいかしら?」

「止めてくれない?そういうの止めてくれない?母さん一度放棄すると他のことにも連鎖していくから嫌なんだよね。」

「もう、冗談よじょーだん。」

「母さんが言うと冗談に聞こえないんだよ・・・目がマジだしさ・・・。」

他愛もない朝の会話。これが成り立つまでにどれだけの時間を要しただろうか。

振り返れば、俺には親など存在しない。

出会った頃には喰牙の息子だと雅さんに言われていたけれど、親父は俺の実の父親ではないし、今目の前で幸せそうに朝食を食べている彼女も俺の実の母親ではない。

俺は元々孤児だ。施設に入ったのは物心つく前であったので自分の両親の顔とか全く持って知らない。つか、覚えているわけもない。

ママ先生がいる施設が俺の本当の家で、そこにいる子供とママ先生とパパ先生が自分たちの両親だと思っていたけれど、幼稚園へと通わせられている時、他の子供の母親から発せられた言葉を聞いて初めて分かった。

『あの子、捨てられていた子らしいわよ。』

『じゃあ両親もいないのね。』

俺には両親がいないということを。捨てられたという事実を。

それから塞ぎ込んだ俺にママ先生もパパ先生も手を焼いていたけど、ある日今の親父が来て、俺を引き取って、この家に連れてきた。

その時すでに母さんもこの家にいたんだ。普通なら男女間で夜の営みで子供を授かればいいのにと今では思うけれど、彼女にはそれができない理由があった。

なんでも元から子供が授かりにくく、授かっても流産が続いたそうだ。

そんなある日、親父が施設の前を通りかかった時、遊ぶ子供たちの中でただ1人、何処を眺めているのかわからないといった様子の俺に目が留まったらしい。

引き取られた当時は他にも子供はいただろうにと思っていたけれど、今では引き取られて良かったと思う。

きっと親父との出会いがなければ母さんとも出会えなかったし、雅さんにも、理沙にも、クラスの皆にも会えなかっただろう。

「・・・明日か・・・昶の卒業式。」

「あ・・・そうだったね。明日か・・・。」

早いものでもう高校を卒業しなければならない。

冬休みくらいから本当色々あったなー・・・とか思っていると、携帯が鳴った。

着信は雅さんからだった。

「最近携帯よく鳴るわねー・・・彼女?」

「うーん・・・彼氏?」

「うそっ!?昶いつからソッチの世界に飛び込んでたの!?」

「冗談だってば。ごめん、後片付けお願い。」

母さんは頷いて了承したので、食べ終わった食器を水につけておいて俺は急いで外へ出て電話に出た。

『おっそーい!!』

「すみません・・・。あの、それで何か?任務でしょうか?」

『うん。今回はもしかしたら苦戦するかもしれないんだけど・・・。』

今回の任務は大手ゲーム会社の裏事情を探るというもの。なんでも今夜がその会社の50周年記念らしく、パーティーが都心部のツインタワーで行われるということで、雅さんとの任務となった。

『ごめんね、明日卒業式なのに。うちの家業はたとえ表向きの仕事で明日重要な会議があろうと、取引先との打ち合わせがあろうと、関係ないらしいから・・・。』

「いえいえ、大丈夫ですよ。それじゃあまた夜に。」

俺はそこで電話を切り、自宅に戻って準備でもしておこうと踵をかえそうとしたのだけれど、聞きなれた声に呼び止められた。

「あっきらー♪」

「達也・・・!」

3年生だけは卒業式までしばらく休み期間に入っている常態なので、久しぶりに達也の姿を見た気がする。

しばらく見ないうちになんだか髪の毛のセットの進化が進んだ気がする。

何故Bボタンを押さなかった達也。

「なぁなぁ、昶今暇?暇だよね?引きこもり自宅警備員の昶くんは暇に決まってるさ!つーわけで、後ろに乗りなッ☆」

「俺何も言ってないよね。一言も暇なんていってないよね。つか引きこもり自宅警備員ってなんだよ馬鹿にしてんのか?別に引きこもってるわけじゃないパソコンで株の推移を見ているだけだ。」

「・・・普通の高校生はそんなことしませーん。もう早くしろよな!!」

痺れを切らしたのか達也は俺の腰をガッチリホールドすると、担ぎあげた。

流石の俺もこれは恥ずかしい。嫌だ!近所の奥様方が見ている!!ほら、ヒソヒソなんか言ってるじゃん!回覧板で口元隠してなんか言ってるじゃん!

「ちょ!馬鹿、止めろ!馬鹿達也!!」

「嫌よ嫌よも好きのうちってな?さぁお嬢様、しっかり掴まってないと落ちますよ、と。」

ゴーグルをして、達也はエンジンをかけ、バイクを運転し始めた。

流石に降りれないので、仕方なく、俺は達也の腰に掴まったのだけれど、掴まると同時に後方から奥様方から黄色い悲鳴が・・・否、雄たけび声が聞こえた。あれだ。多分あの人たち貴腐人だ。なんか受けとか攻めとか聞こえるもん。

なんだか嫌になってきた・・・。もう俺この町から消えたいかもしれない。

はぁ・・・と、大きなため息をついて俺は仕方なく達也に掴まって、流れに身を任せた。

しばらくして、体を揺さぶられている感覚がして、目を開くと、呆れた様子の達也が背中で眠りこけていた俺を片手で支えていた。

「おいおい、いくらなんでも眠り姫にはなるなよな。急に体が傾いたからビビッたぞ。」

「ごめん、なんか最近疲れててさー・・・。」

「俺は子供を向えに行ったお母さんじゃないんだぞ。ったく。」

バイクから鍵を抜いて、達也が降りたので、もう着いてしまったのだろう。

辺りを見渡せばなんだか見慣れたような場所だけれど、暗くてよくわからない。

きょろきょろと辺りを見ていると、突然後ろから目隠しをされたものだから、ビックリしてバイクから落ちそうになったが、達也が受け止めたらしく衝撃はなかった。というか、なんか抱き上げられているのかな・・・体浮いている。

「達也?なにこれ?ドッキリ?ドッキリなのかな?つか降ろして欲しいなー・・・みたいな。」

「まぁまぁ。ちょっとしたサプライズ?」

意外と達也は力が強いな・・・腕から抜け出せない・・・。

仕方なくそのままの状態でいると、何処かの扉がガラガラと音を立てて開かれるのが聞こえた。

降ろされたのは多分椅子。うん、多分これ椅子だよ、パイプ椅子かなんか。

「さて、じゃあ目隠しさん取り外しまーす!」

何処か楽しそうな達也の声と同時に目隠しは取り払われた。

若干ぼやける視界がしだいにはっきりしてくると、そこは学校の教室だと分かった。

「そんじゃーこれより、喰牙昶ちゃんのー!お誕生日をお祝いしちゃいまーす!!」

そう達也が叫ぶと同時に、廊下からクラスメイトが雪崩れのように入ってきて、クラッカーを鳴らしたり風船を飛ばしたりしてきたものだから、すぐに状況を理解できなかった俺はクラッカーの音にビックリしたまま固まってしまった。

「・・・た・・・誕生日?」

「そう。お前今日誕生日だろう?」

「・・・あ、ああ、そっか。忘れてた。」

任務続きの日々だったもんだから、今日が何日なのかすらよくわかっていなかった。

よく考えたら明日が卒業式なんだから、2月の最後って今日だもんな。そうだよ。俺今日誕生日だった。

「昶、誕生日おめでとう!!」

「・・・ありがとう。」

まさか皆で祝ってくれるとは思わなかったから、嬉しさは倍増だ。

思わず知らず知らずのうちに微笑んでしまう。

「そんじゃ、今日の主役は昶だかんな。Happy Birth Day!!My Sweet Honey!!」

「俺お前の愛人とかじゃないから。」

相変わらずふざけたままの達也に一発グーで頭を殴った。が、正直嬉しくて照れ隠しなのは多分達也にはばれているだろうな。くくっ、と変な笑いを漏らしながら、達也はなんだか随分不恰好で甘ったるそうなケーキを切り分けてくれた。

最初は俺の誕生日を皆祝ってくれていたけれど、やっぱり久々に皆会ったものだから、休み期間中にあった様々なことを話したくて、まるで休み時間のようになっていた。

その様子をまるで遠足にでて遊んでいる生徒を見守る先生みたいにしばらく眺めながら、他愛もない話を友達としていると、雅さんから着信が入った。

「・・・春風雅?何々彼女?」

「いや違うから・・・。」

否定した俺の声は女子の黄色い悲鳴でかき消された。

まぁ・・・とりあえず電話に出ることにした。

「はい、喰牙です。」

『さっき言い忘れていたんだけど、受付が午後6時からなんだけどさ、流石にそこから都心部に向うには時間かかるから早めに準備して。落ち合い場所は・・・――』

落ち合い場所を言おうとした雅さんの声が遠のくのを感じ、携帯が手から奪われたのが分かった。

横を向けば達也とその他男子が興味津々といった様子で耳を傾けている。

「雅さんですか!?昶の彼女ですか!!?」

『・・・・・・。』

電話越しに感じる雅さんの微妙な感じの気配というかなんというか。すごく怖い。後で起こられそう。

「あの・・・電話かえしt・・・」

「彼女ですか?!」

『ええ、私昶の彼女なのー♪』

えー?!この人乗っちゃったよ!声色女性に変えてこいつら騙しちゃったよ!ついでに俺の心もブレイブブレイクされちゃったよ!!

「ちょ・・・返せ!!」

達也から携帯を奪うと俺は足早に教室から出て、人気のない鶏舎の裏まで走って逃げた。

「彼女にされちゃったねー。」

「・・・!なんでここにいるんですか・・・。」

鶏舎の裏には何故か雅さんが黒のスーツをびしっと着込んで立っていた。というか、何故こんなところにいるんだ?

しかも何か準備万端といった様子でアタッシュケースが足元に2つ置いてあるし。

「何でといわれても・・・受付に間に合わなくなるから迎えに来たんだよ。ほら。」

ほら、といわれて投げ渡された片方のアタッシュケースを慌てて受け取る。なんだろう。アタッシュケースの重さを引いたとしたらかなり軽い。

「早々に着替えてください。近くのショッピングセンターの駐車場に車を待たせてあります。中身はスーツです。貴方の体形に合わせて作ってありますのでサイズはぴったりのはずですよ。」

「うわ・・・すげぇ。」

ケースを開けると俺専用らしい黒のスーツと仮面が入っていた。素早くそれに着替え終わると同時に雅さんが携帯で車を呼んでいるらしく、すぐに裏門に回るように促されて、荷物を持つを足早に移動した。

裏門に待っていたのは黒のリムジンで、今の俺の格好からぱっと見周りからはマフィアか何かじゃないのかと疑われそうだなとか思ったのは心のタンスにしまっておこう。

背中を押されてリムジンに乗り込み、俺たちはツインタワーに向って車を走らせた。

「・・・昶・・・?」

その時、1人の生徒が俺の後ろ姿を見ていたなど露知らず。


* * *


二時間後、丁度6時からの受付に間に合った俺たちは、偽名をスラスラと書き終えると、ホールへと足を向けた。

ホールへ向えばそこには豪華な料理と豪華な家具、貴族っぽいいかにも上層クラスの人間がうじゃうじゃと蟻のように群がっており、社長が訪れるのを今か今かと待っている。

なんつーかもう下心丸見えなんだよな。汚いよな上層クラスの人間は。

とりあえずまだ人気が少ない二階へ移り、互いにワインのグラスを片手にいかにも楽しそうに話をしていますよ。と、いった雰囲気をかもし出しながら、これからの流れを打ち合わせした。

この後社長が出てくると、しばらくの演説があり、その後ステージでは新作ゲームソフトの体験等が始まるそうだ。それと同時に1人はこのツインタワーの6階にあるメインコンピューターの中にアクセスし、情報を入手する。もう1人は会場にいる招待客の中からこの会社のことを色々聞き出す。そういうことになった。

後はどちらが会場か、本社6階かということだ。

「よし、僕が会場で情報を収集しよう。僕の女装で魅了されない人なんかいないんだから。それに君はハッキングできるだろう?」

「そうだな・・・じゃあ俺が本社へ乗り込もう。」

ワイングラスを鳴らす。それがミッションスタートの合図。

雅さんはすぐにスーツを翻し、女装した状態になるとホールへ降りていった。俺も、本社の入口手前までくると、トイレの中ですぐにビジネススーツに着替え、他人に扮装して本社へ乗り込んだ。

本社の社員が普段入ってくる正面玄関があるのはビルの3階だ。それ以下は先程のホール会場と、会議室・倉庫等があるだけで普段は使用しない。

一応一般社員に扮装しているのでこのままエレベーターで上がった際見つかってしまっては不味い。屋外の階段があるようなのでそちらから3階まで上った。

ちなみにこのツインタワー・・・屋外階段で登る1階分の階段の量は通常の2倍らしく、2階分登ってやっと1階らしい。

ある意味登るのが苦行だった。足が死ぬって。どういう構造してるんだよこのツインタワー。違法建築だろ。そうなんだろ?社員に対する優しさが感じられないよ。

ぶつぶつ文句を呟きながら3階・・・およそ6階分の階段を上り詰めると、扉に『Ⅲ』と書かれた扉がやっと現れた。

扉の向こうからは人の気配は感じられない。辺りにいる様子でもないようだ。

そっと扉を開けて、中へ入ると、俺は6階を目指して足を進めた。

なんというか、流石ゲームソフト会社というか。オフィスでは真面目にゲーム製作に取り組んでる様子の人もいれば、なんか・・・恋愛シュミレーションゲームをしながら「フラレタ・・・。」とか呟いて落ち込んでる様子の人もいる。

あ、あの背景グラフィック描いてる人のTシャツすごくシュールだな・・・『肉食獣?いいえ、草食獣です。』だって。ベジタリアン宣言のつもりかなあれ。

「・・・。」

かなりのほほんと通り抜けてエレベーターの前までたどり着いてしまった・・・。

いや、だってね、社員の皆さんオフィスから出る気配すらなければ、動く様子もないんだよ。

むしろ・・・皆さんゲームに熱中してるんだよね(;´∀`)

・・・まあ、とりあえず乗ろう・・・。

一方その頃の雅さんだけれど・・・―――

「ねぇ、社長の何処に貴方は惹かれていらっしゃるの・・・?」

艶やかな声色で男性共を魅了し、惜しみもなくふつくしい美脚をさらけだして女性を演じきっていたそうな。

その間に俺はもう6階についているわけでして、今現在メインコンピューターのある部屋を探しています。

廊下の左右に立ち並ぶ扉は3階のオフィスのように中が見えるような仕組みにはなっておらず、なんだかちょっとワンランクアップしたような素材の扉です。あれです、校長室の扉並みのレベルだと思います。

「・・・。」

とりあえずそれっぽい部屋を2、3開けていくうち、いかにもメインコンピューターといった感じのパソコンを発見した。

なんで分かるのか?そりゃそうだろ。だって学校のパソコン質にあるような普通のパソコンとは違い、一台だけなぜかタワーの部分が透明で中の部品見えてるし。

パソコンの電源を入れてしばらくいじっているとパスワード認証が出てきた。

俺は改造したプロスタイルの携帯とメインコンピューターをリンクさせてハッキングを始めたのだけれど・・・誰かの気配がした。

振り向けばそこには、1人の男性が立っている。整った顔に薄い青の瞳と灰色の髪の毛がとても印象的だったが、今はそれ以上感想を述べている場合ではない。見つかってしまったのだから。

「・・・部外者確認。排除します。」

「?!」

なんとも機械的な言葉を呟いたかと思えば、目にも止まらぬ速さで俺の懐まで踏み出して、拳で腹に重い一発を打ち込まれた。受身も取れずに俺はそのまま吹き飛ばされて、後方にあった別のデスクに強く体を打ち付けた。

「・・・っ・・・なんだ・・・アンタ・・・。」

「・・・私はこの会社の警備員、ライトだ。IDを持たない社員を1人認証した。それが君だったから排除しにきたまで。」

ID・・・?IDってなんだよ。ってか・・・スゲー痛い。人に殴られるのってこんなに痛くて、殴る拳もあんなに重いものだっただろうか・・・。何か変だぞこいつ。

ふらふらした状態で立ち上がり、俺は二丁銃を構えた。それを見てか、ライトの表情は変わることはなかったが、若干瞳が揺らいだように感じた。

「銃刀法違反です。」

「いやいや、アンタも何気に腰に真剣さしてるっぽいけど?」

「・・・そうですね。でもそれは私には関係ない。私はそうマスターに命令されているにすぎない。」

そう言うと、ライトは真剣を鞘から抜いて構えた。

俺も銃を構えなおして、戦闘態勢に入る。それと同時にライトは構えたままの状態で俺のほうへ物凄い速さで踏み込んできた。

それに対して俺は一発発砲をする。音を光り、それと多少の衝撃だけであったがそれだけでも十分だ。

俺は動きにくいビジネススーツを脱ぎ捨てて、戦闘用の動きやすいスーツに早着替えをし、顔を見られないように仮面を被った。

流石にメイクで他人の顔をしているとはいえ、さっきの衝撃で少々メイクがはげかけている。素顔を見られては大変だ。

「・・・貴様何者だ。」

「ナマモノだが、何か。」

そう言ってやると再び切りかかってきた。俺は二丁銃に仕込まれている近距離用のナイフを出して、刃を受け止めると、驚いた様子のライトの腹に蹴りをお見舞いしてやった。多少吹っ飛びはしたものの、やはり何か違和感がある。

人間の体ってこんなにも重いというか・・・。

「変わった武器なんだな。」

「そりゃどーもー!!」

余裕の表情でこちらを見ているライトの太ももに一発銃弾を打ち込んで、立てないようにしてやろうと発砲したのだが・・・ライトは平然とした表情でこちらをみている。

「・・・な・・・っ・・なんだと?!」

普通なら足の力が抜けて崩れ落ちるか、悲鳴を上げてのたうちまわるところだろうが、ライトはどちらでもない。

むしろ、弾は当たっていないとでも言った状態。

何なんだ。さっきからこいつなんかおかしいぞ。それに、銃弾を打ち込んだところから一切流血すらしていないだなんて・・・・・・・・・流血しないだと?

「お前・・・人間じゃないな?」

「やっと気がついたか。」

そう言ってライトは自分の腕の皮膚を剥いで見せた。

なんとも痛々しい光景に思わず目を瞑りたくなるが、そうも言っていられない状況下。

だが、見せられて驚いた。皮膚の下から見えたのは、筋肉でも流出する血でもない。鉄で出来た腕。

「・・・ロボットか・・・!」

「私は、マスターに部外者の排除を命令された始末用のアンドロイドだ。」

そう言ってライトは真剣を構えてこちらをじっと見つめてきた。

何だ。俺に何が言いたい。

「よかったな。私を見ることができて。」

「良かったなんて思ってないね。むしろ不運だ。最悪だ。つか、ロボットのくせにナルシストなんですか?」

なんだか・・・ナルシスト発言のように聞こえたのでそう言ってやったんだけれど、それを聞いてライトは何故か微笑していた。なんだか気持ち悪い・・・。あんまりいい気分はしないな。

「・・・私は・・・」

そうライトが主語だけ呟いたと同時にピアスに仕込まれていた通信機から雅さんの声が響いた。

『昶!今すぐそこを離れて!そいつは!昶の目の前にいるそいつは・・・――!!』




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