第2舞 少女の思い出
第2舞:少女の思い出
あのジャック事件から数日後、表向きは相変わらず代わり映えのしない普通の高校生活を送っていたが、裏では演じ屋稼業でボディガードを行なったり、社長令嬢に化けて変わりにパーティに出たりと相変わらず変な依頼ばかりをこなしていた。
最初の頃は先輩の演じ屋や雅さんがそばについていてくれたが、次第に上達してきているから単独行動でも大丈夫だろうと宣言されて二週間前くらいから仕事は全て一人でこなし始めている。
最初の頃は声色を変えることしかできなかった自分にとって考えてみれば、よくここまで変装の技術やメイクの技術やらと上達したものである。
女性に扮装することも少なくはないため、仕草や女装まで得意分野になってしまった。
気を抜くと、たまに女性らしい仕草で行動してしまうことも多々ある。
「昶、ほらまた女みたいな仕草してる。」
「へ?」
丁度現在は昼休み時間のため、学生はお弁当を貪る時間であり、俺は屋上で親友の達也と一緒にお弁当を食べていたんだけれど、やっぱり仕事病というか、最近女装が多かったためか。
一口、口にしては手で口を隠したり、男子は皆胡坐かいて座ってるのに何故か1人だけちょこんと女子みたいに座ったり、話を聞き流してる時の女子がよくやる髪の毛をいじる仕草をしたりなどなど。
なんだか女子っぽい行動を気づかないうちにしているという最悪な症状が止まらない。
病気だ。もうこれ病気確定。しばらく女装のある任務は入れて欲しくないな・・・。
「・・・女子じゃない。俺は女子じゃない。言うな達也。」
「食べ方もなんだかちまちま綺麗に食ってさ、マジお前女みたい。もしかして女になりたいの?」
「ないね。俺は男だ。男なんだ。女子なんて苦労するだけじゃないか。」
否定してお弁当を食べる手を進めるけれど、なおも達也が女子っぽいというから俺はお弁当を食べ終えた後、達也を蹴り飛ばした。
その後は午後の授業をいつも通りに受けて、達也と下校をした。
しかし、その際に通っていた公園で1人の少女がベンチに座ってなにやら深く考え込んでいる様子だった。
周りの友達と喧嘩でもしたのだろうかと思ったけれど、周りには人は誰もいなかった。
現在の時刻はもう午後六時半であり、正直、こんな小さな子がこの時間に外に出ていること自体正直おかしい。
母親がいるわけでもなさそうだし・・・。
「ごめん、達也、先に帰って。俺、あの子が気になる。もしかしたら迷子かもしれないし。」
「え?あ・・・わかった。」
達也とはそこで別れて、俺は少女へ駆け寄って声をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
「・・・・・・。」
少女は警戒したような目で俺を睨んできた。
でもその目は涙で濡れていて、寂しさと悲しさをあらわしていた。
けれど、少女からは可愛い腹の虫の音が聞こえてきて、少女は顔を真っ赤にして伏せた。
「ぷっ・・・。」
おかしくて思わず笑ってしまったら、少女が小さな手で俺の体を叩いてきた。
「ごめんごめん。調理実習でクッキー作ったけど食べる?」
「・・・男の人が作ったお菓子なんて食べれるの?」
「うわー。結構お兄ちゃんグサッてきたな今の一言。これでも家事全般は得意なんだからね。」
「・・・ごめんなさい。」
「ふふ。謝ることある?ほら、食べなよ。」
俺がクッキーを渡すと、少女は素直に受け取って頬張った。
一口、口にすると一瞬動きが止まった。
不味かったか・・・?それは失礼なことをしてしまったな・・・。
何か口直しになるものはないかと思い、俺が鞄の中を漁っていると、少女が一言呟いた。
「・・・お兄ちゃん、これ、おいしい。」
とっても素敵な笑顔で感想を言ってくれた。
それが嬉しくて、思わずこっちまで笑顔になってしまう。
しばらく少女が空腹を満たすのを待ち、俺は後から少女から何故こんな時間にこんな場所にいたのかを聞いた。
すると、少女はゆっくりと答えてくれた。
「お母さんがね、ケーキ食べたいって言ったの。前にね、2人で買ったお星様の乗ったケーキ。もうすぐお母さんの誕生日だからね、お父さんとお店を探してケーキを買って、食べさせてあげようと思ったの。だけど、お店見つからないの。何処だったのか覚えてないの。」
「・・・そうだったんだ。それじゃあお兄ちゃんも探すの手伝ってあげるよ。」
「本当?!」
「ああ、本当!だから、もうこんな暗い時間になるまで外を歩くの禁止な!」
「うん!」
俺とちゃんと約束をしてくれた少女は、明るく笑って見せた。
それにしても星の乗ったケーキか・・・この辺りで買ったのかよくわからないけれど、この辺りにあるお菓子屋ではみかけないけれど・・・やるだけやってみよう。
「あ。1人で帰るの危ないから、送っていくな。」
「うん。」
少女はベンチから降りると、差し出した手を握り返してきて、隣を一緒に歩き出した。
少女の家は丁度俺の通学路の途中にある高層マンションの3階らしく、迷うことなくたどり着くことができた。
3階の一番手前のドアの前に立ち、インターフォンを鳴らすと、ドタドタと騒がしい足音を立てながら、スーツ姿の男性が出てきた。
「お父さん!ただいまー!」
「理沙!お前今まで何処に行ってたんだ!」
どうやらこの少女・・・理沙のお父さんらしい。
理沙が飛びついていくと、お父さんは理沙を抱き上げて頭を撫でていた。
「君、理沙を連れて来てくれたのかい?すまなかったね。」
「いえ、別に。丁度俺の帰り道の途中でしたし。」
そう言い、理沙に「ちょっとお父さんとお話したいんだけど、いいかな?」といって、席を外してもらい、玄関の外で2人で話すことをお父さんに了承してもらった。
「えっと・・・私に話ってなんだい?」
「理沙さんのお父さん、理沙さんはお母さんと一緒に食べた星が乗っているケーキを探しているようですが、ご両親方はケーキを売っていたお店を知らないのですか?」
俺がそう質問すると、お父さんはこう説明した。
その時お母さんと理沙さんがケーキを買いに行った場所は、徒歩で行ける範囲で、初めて行った場所だったらしくお母さんもよく覚えていないらしく、幼い理沙には道すら覚えられていないという。
お父さんはその時はまだ就業時間のため帰宅はしていなかったという。
「そうか・・・なら誰もわからないんですね。」
「ええ。でも、ケーキは間に合うかわからないんです。」
「わからない・・・とは?」
お父さんは顔を伏せて、重たい口を開いた。
「妻は、もう長くないんです。いつ死んでしまっても、おかしくないと・・・。」
「・・・ご病気なんですか?」
「ええ。現代の技術では治療は難しいといわれました。」
「・・・・・・あの、俺もケーキの件、手伝いますから。」
それだけ言うと、俺はお父さんに頭をさげて、理沙にも挨拶をして足早にその場を後にした。
理沙のお母さんの命のタイムリミットはもうそう長くは待ってくれない。
ケーキ屋さんの所在地は不明。
「・・・やるしかないよな。」
俺はパソコンの情報や聞き込みでこの街にあるお菓子屋さんを数件調べ上げ、一軒一軒見てまわった。
けれど、どこにも星の乗ったケーキなんて存在しなかった。
「はー・・・。」
昼間、学校をサボって調べてを進めてみたが、どうも駄目だ。
流石に昨夜から調べ物と調査・聞き込み・移動をするのは正直しんどい。
疲れて思わずその場に座り込む。
それと同時に肩をトントンと叩かれたので、振り返ってみると、そこには雅さんがいた。
「雅さん?」
「お星様の乗ったケーキを探しているんだって?」
「うー・・・見つからないんです。雅さん、知りません?」
「・・・もしかしたらなんだけれどね、一軒だけお菓子屋さん潰れてるんだよ。そこだったりしないかな?」
「潰れた?!」
「うん。ちょうど3ヶ月前くらいにかな。どうも家庭内事情が理由だったらしいけれど・・・。これだけ調べたんだから後の総仕上げは君の仕事だよ。」
そう行って雅さんは俺に一枚の紙を手渡して去っていった。
俺はその紙を広げて、中に書かれている文字を目で追っていくと、そこには今の俺に必要なことが書かれていた。
理沙さんと彼女の両親に俺が唯一してあげられるささやかな希望。
俺は、迷うことなく、一目散に走っていった。
たどり着いた場所は、ごく普通の民家。本当に何処にでもあるような、普通の一軒屋。
その家に近づいていき、俺はインターフォンを押した。
『はい、猿渡です。』
「すみません。猿渡さん。私は喰牙昶といいます。猿渡さんにお願いがあってきました。」
雅さんが渡してくれた一枚の紙。あれに書かれていたのは、潰れてしまったお菓子屋を経営していた猿渡さんの現在の住所だった。
猿渡さんは、突然やってきた俺に何の不信感も抱くことなく、気持ちよく受け入れてくれて、家の中で話しを聞こうといってくれた。
リビングについて、ご丁寧にも紅茶とお菓子までだしてくれた。
「で、昶くんだっけ?私になんのようかな?」
「はい、あの、私が今回猿渡さんにお会いに来たのには理由がありまして・・・長くなるのですが、聞いていただけるでしょうか。」
「ああ、かまわないよ。」
いい笑顔でそう答えてくれた猿渡さんに、俺も安心して今回ここにお願いをしに来た理由を話した。
理沙が星の乗ったケーキを探していること。お母さんにそれを食べさせたいという2人の気持ち。
お母さんの命の残量がそう長くないこと。猿渡さんがケーキを作ったのではないかという不確定な情報を掴んで、ここにやってきたこと。
ありのまま全てを正直に話した。
俺の話したことを聞いて、猿渡さんはしばらく紅茶の入ったカップを見つめながら、考えていたが、ふっと笑って俺にこう提案してきた。
「残念ながら俺はもう職人じゃない。だから作ってあげることはできない。けれど、その理沙ちゃんに作る気があるというのなら、私も手伝うし、彼女が作って、プレゼントしてみたほうが思いがこもっているから私が作るより何万倍も良いプレゼントになると思うが?」
「・・・猿渡さん・・・俺今、怒涛の感動の嵐にさらわれて溺れかけてます。すごい格好いいです。」
「はは。それじゃあそういうことで決まりだね。理沙ちゃんによろしく伝えてよ。」
「分かりました。」
俺は猿渡さんにお礼を言った後、すぐに理沙のところへ向ってそのことを伝えた。
彼女はとても喜んでおり、明日は彼女も学校が休みだということなので、あの日出会った公園で待ち合わせをして、猿渡さんの自宅で3人でケーキ作りをすることとなった。
** *
「猿渡さん、今日はよろしくお願いします。」
「おじちゃん、よろしくお願いします。」
2人で挨拶を交わして猿渡さんの元へ行くと、猿渡さんは笑顔で迎え入れてくれて、自宅用ではない業務用の厨房に俺たちを特別に入れてくれた。
大きな厨房に入ると、そこにはケーキを作るために必要な材料がすでに準備してあり、理沙にも作業がしやすいようにと、安全性にも配慮されている小さな台が作業台の下に置かれていた。
本当に猿渡さんって優しい人だなぁ・・・。こういうお父さん欲しいかもしれない。
「理沙ちゃんの作りたいのは、お星様の乗ったケーキだったよね?ここに一応レシピも置いてあるからお兄ちゃんに読んでもらいながら、ケーキを自分たちで作ってみようね。ちょっと難しいところは、おじさんもお手伝いしてあげるし、わからないところは教えてあげるからね。」
「うん!おじちゃんありがとう!」
理沙の元気のいい返事を合図に、俺たちは作業を開始した。
理沙には飾り付けるためのお星様を先に作っていてもらうことにして、俺はケーキのスポンジを作り、猿渡さんは次の準備を進めていく。
スポンジ生地をトレイに流し込み、オーブンで焼き始めると、丁度俺の携帯がなり始めた。
ディスプレイに表示されるのは理沙のお父さんの名前だ。理沙の送り迎え等のこともあるので一応電話番号を聞いておいたのだけれど、一体何の用だろう・・・まだ作業を開始してからそんなに時間もたっていないのに。
俺は通話ボタンを押して、電話に出た。
「はい、喰牙です。」
『もしもし、赤城です。理沙の父ですが・・・。』
電話越しに聞こえてきたのは、何処か落ち着かない様子の声の理沙のお父さんの声だった。
俺は一旦厨房からでて、猿渡さんの家の外まで出ると、受話器に耳を再度あてがって話しを続けた。
「・・・どうかしたのですか?」
『それが・・・妻の容態が急に悪くなってしまって・・・。』
「・・・・・・はい。」
他の家のことなのであまり深くは聞くことは出来なかったが、なんでも昨夜から容態が悪くなり始めていたようで、病院側が迅速な処置をして一晩を越したのだが、昼間になってから容態が一気に悪くなり始めたとか。
理沙を俺に預けてから病院へ向うと、奥さんは結構ヤバイ状態だったらしい。それで今は付き添っているということ。
流石に理沙に奥さんの苦しんでいる姿を見せることが出来ないとのことで、今日は俺に理沙を預けたいという。
俺は了承し、電話を切ると、俺の母さんに連絡を入れておいた。
「・・・なんとか、保って欲しい・・・。」
せっかく理沙が一生懸命になってケーキを作っているのだから、せめてそれだけは受け取って欲しいと思う。
一緒に食べて欲しいと思う。
それが彼女の夢でもあり、奥さんの夢でもあるのなら、せめてそれだけでも。
俺は携帯を閉じて、厨房へ戻るとケーキ作りを再開した。
「もー!お兄ちゃん何処に行ってたの!」
「ははっ。ごめんごめん。ちょっとコンビニで立ち読みしてた♪」
「もー・・・。」
厨房に戻ると理沙はご立腹のご様子で俺の前に仁王立ちして、頬を膨らませていた。怒っている様子だったけれど、すぐに頬を緩ませて微笑んでいた。
「さ、ケーキ作り再開だよ。スポンジも焼けたようだし。生クリームも作って置いたから生地に綺麗に塗れるかな?」
「任せて!」
理沙は丁寧に生クリームを塗り始めた。
その日の作業が終了し、俺は理沙にお父さんがちょっとお仕事で遅くなるから俺の家で一晩だけ泊まってほしいと伝言を預かったということを伝えると、一瞬瞳が揺らいだが、頷き返した。
本当は、お父さんともお母さんとも一緒にいたいのだろうけれど・・・。
その日は俺の母さんに多少の甘えを見せていた。きっと、いつもは自分の母親とは触れあう機会が少ないからか、こうして他人の母親に触れることで寂しさを補っているのかもしれない。そう思った。
「・・・理沙ちゃんもかわいそうだね。」
「雅さん・・・いきなり窓から登場しないでください。」
1人自室でぼーっとしていると、いつの間にか雅さんが机の横の窓から身を乗り出して不法侵入してきた。まぁ、こうして家に来ることが少なくないので結構慣れてしまったのだけれど。
「・・・君も母親と父親に会いたいと思ったことがある?」
「・・・何処まで俺のこと調べたんですか。プライバシーの侵害で訴えますよ。」
「うーん、それは嫌だな。組織内での反発なんて。まぁ何処まで調べたのかと言うと、君が引き取られる前くらいかな。」
「うん。とりあえず一度逝ってしまえばいいと思います。はい。」
「わかった、わかった。もう二度としないから僕に麻酔銃向けるのやめてくれないかな。いくら麻酔銃とは言え0距離でも結構痛いから。仮面なしじゃなおさらだから。」
演じ屋家業故、任務中人様に素顔を見せることはタブー。そのため演じ屋1人1人模様も形状も違う仮面を被って任務に出撃するのだけれど、プライベートで俺の元に来ている雅さんは今仮面などしていない。もちろん痛いだろうな。頭に注射するだけでも皮膚が硬いから相当痛いらしいし。
まぁ仲間同士で打ち合いする気など微塵もないので、早々に銃をおろした。
ほっとした様子で胸をなでおろした雅さんは窓の縁に腰掛けたままの状態で話始めた。
「赤城さんの奥さん、今夜が峠かもしれないって。」
「・・・理沙のケーキ食べれないのかな・・・。」
「・・・さぁ・・・どうだろう。そこはもう奥さんの生命力にかけるしかないよ。」
何も言えなくなった俺たちの間を冷たい夜風が通り抜けた。
俺の黒髪の下で揺れるファントムが鳴く音を聞いて、何故か切なくなった。
しばらく俺たちは、そのままの状態で夜空を眺めていた。
翌日、理沙と出来上がったケーキを持って病院へ向った。
理沙のお母さんのいる病室の前まで行くと、病室の前に雅さんが壁に寄りかかっていた。
「雅さん。」
「・・・理沙ちゃん。そっちのお兄ちゃんとちょっとお話あるからお兄ちゃん借りてもいいかな?」
雅さんが理沙に視線を合わせてそう問うと、理沙は俺の足にしがみついてきた。多分、雅さんのことを警戒しているのかもしれない。まぁ、そりゃそうだ。よく考えれば今日初めて雅さんと顔合わせたんだもんな。
「理沙ちゃん。大丈夫だよ。この人は俺の友達なんだ。」
「・・・うん。」
「そう。友達。」
「・・・お兄ちゃん、絶対返してよ?」
「うん。ちゃんとお兄ちゃん返すからね。」
そう雅さんに約束を交わすと、理沙は渋々俺の足から手を離した。
「中でお父さんとお母さんが待っているから、ケーキ渡しておいで。」
「うん!」
そう聞くと、扉を開けて両親が待つ病室へ入って行った。
「・・・ここから先は、赤城さんと理沙の問題だからな。」
「そういうこと。まだお母さんのほうは大丈夫みたいだよ。」
「そっか。よかった。ケーキが無駄にならなくて。」
そう言葉を交わしていると家族の楽しそうな声が聞こえてきた。
きっと理沙のケーキを食べてもらえたんだと思う。
互いに顔を見合って微笑むと、俺たちは早々にその場から立ち去った。
理沙が病室から出てくるまでロビーで待っていた俺は、いつもより輝いた笑顔で出てきた理沙を見て、今回理沙と出会えてよかったと思った。
あれからはこちらから連絡を取ることもなく、いつも通りの学校と任務の生活に戻ったのだけれど、時々理沙が公園で学校から帰宅する俺を待ち伏せしていることがある。
その時は一緒に公園で遊んだり、またお菓子作りをしたりしている。その時理沙が母親の状態を報告してくれるのだけれど、あのケーキを食べて以来、徐々にではあるが母親の病状は回復しているらしく、まだ外出ができるわけではないが、喋ることも多くなり、笑顔を見せてくれるようになったそうだ。
「よかったじゃないですか。任務では味わうことの出来ない経験が出来たわけですし。」
「そうだな・・・。」
「まぁ、任務でも味わえない経験はするといえばしますけど、ね?」
そう言って雅さんは瞳を瞑った絵が描かれた仮面を被った。それと同時に俺も片方だけ涙を流した絵が描かれた仮面を被ると、二丁銃をホルスターの中にしまい、2人でビルから飛び降りた。
今宵も人知れず演じ屋は舞台に舞い降りる。
しかし、この時はまだ俺も知らなかった。
俺に危険が近づいてきているということを。