第1舞 初ミッション
これは大学に入る前に文芸社様のほうへ送ってみたgdgd作品です。
いつか改善してみたいです。
第1舞:初ミッション
ことの始まりは、親父が亡くなってから13回忌を迎えた高校3年生の冬休みのことだった。
法事を終えた後、母さんに呼ばれて親父の仏壇の前に二人して並んで1つの箱を向かい合うように見ていた。
その箱は、生前親父が忙しくて家に帰れない時期があった時、母さんに預けられていたもので、俺が大きくなってから渡すように頼まれていた品だそうだ。
「いつ渡そうかと思っていたんだけれど、昶ももう十分大きくなったことだし、渡してもいいかなって思ってね。まぁ、父さんからの大学合格祝いとでも考えて受け取りなさいよ。」
笑顔で母さんは畳の上に置かれた箱を、ぽんと叩くと、はやくあけて見せてとせがんできた。
俺は箱を受け取り、そっとその蓋を開けてみる。中には綿花がぎっしりと敷き詰められており、その下にビニールが隠れているのが見えた。
邪魔な綿花を除けると、そこにはビニールに包まれた片方だけのピアスが入っていた。
「うわ・・・綺麗ね。」
確かに、綺麗である。単に綺麗というのではなく、そのデザイン性と繊細な技術が。
雫のような形の上にファントムの仮面と、その下から覗かせる別の仮面。これが何を意味しているのか俺には理解できないが、親父はこれを俺に残しておきたいと思ったらしい。
「まぁ、ピアス丁度なくしたし、しておくよ。」
俺は親父のそのピアスを右耳につけた。今までジュエル系しか身に着けていなかったが、シルバーピアスなので、やたらと光に反射して落ち着かない。でも、黒髪の下で輝くそれに違和感がなく、なんとなく気に入った。
「・・・じゃあ俺そろそろ友達と待ちあわせしてるから行って来る。」
「ちゃんと晩御飯には帰ってきなさいよ。」
母さんの声に「わかった」と一言だけ返して俺は出かけた。
家からバス停まで向かい、バスで駅前公園まで向かう。そこから交差点を越えた先に駅があり、そこから5つ先の町へ向かい友達と待ち合わせ場所で落ち合う約束をしているのだが・・・。
「なんだよこの人ごみ。」
駅前公園まできたのはいいが、いつも以上の人ごみに俺は動くに動けないでいた。
「畜生・・・遅れちまう。」
何とか人ごみを掻き分けて、駅へ向かおうと必死に前進する。
とりあえず、潰されそうになりながらも何とか駅のホームに辿りついた。
切符を買っていざ電車へ乗り込む。
不思議なことに、いつもぎゅうぎゅう詰めになるはずの車内は随分と空いていた。
とりあえず席に座ってあたりを眺める。
俺のほかにスーツの男性が二人。女子高校生が一人。男女の中学生が二人。OLらしい女性が三人。子連れの親子が二組。それぞれ子供は一人ずつ。
うん、きっと普段ならこんな風にゆっくり回りの様子すら伺うことも出来ないだろう。
友達の待つ町まであと4つ駅を越えていかなければならない。
ガタンゴトンと、音を立てて揺れる電車に体を預けて座っていると、いつの間にか意識が吹っ飛んで眠りの世界へ飛びだってしまっていた。
* * *
誰かに揺さぶられる感覚に、はっとして意識は覚醒した。
しかし瞼が重い・・・俺はそんなにも疲れていたのだろうか。
ゆっくりと目を開けると、俺の目の前にものすごいドアップで一人の男性が覗き込んでいた。
「うおわっ?!」
「おはよー。」
思わず驚いて奇声を上げながら仰け反るように男性から離れたが、男性はさほど気にしている様子でもなく、笑顔で挨拶をしてきた。
「・・・お、おはようございます。」
「いやー、もう本当参っちゃうよね。寝るでもしてないとやってらんないよねこの状況。」
「この状況?」
この男性が一体何を指して喋っているのか理解できなくて、俺は辺りを見渡した。
すると、乗客の中に一人だけ銃器を持った男性が、挨拶をしてきた男性の後ろで彼に銃口を突きつけて立っている。
「・・・もしかしてジャックってやつですか。」
「おぉ!大正解!悪いけど、ちょっと起きてもらわないといけない状況になっちゃったんだよね。ごめんけど、起きててくれる?」
申し訳なさそうに俺にそう告げた彼の黄緑に染めた髪の下には、俺と同じデザインのピアスがきらりと光っていた。
どうしてこの人も同じものをしているのだろう。
でも、これが大量生産されているとすれば、持っていてもおかしくはない話だけど。
あれこれ考えていると、彼は立ち上がり、突然背後にいた男性を蹴り飛ばした。
綺麗に吹き飛んだ男性は壁に強く叩きつけられ、意識を失った。
辺りの乗客が歓声を上げようと口を少し開いた瞬間、すかさず人差し指で「しー。」と、乗客に声を出さないように注意した。
男性は相手から銃器を奪い、靴紐を解いて男性の腕を近くのポールにくくりつけて動けないようにすると、にっこりと微笑みながら俺に近寄ってきた。
「・・・な、何?」
「ファントムをしている・・・貴方、機関にいましたっけ?」
「機関?」
「おや?機関ですよ。わかりません?」
俺の耳で揺れているピアスに触れながら男性はそう聞いてくる。
だが俺には彼が何について喋っているのか全然理解できないし、機関について全く知らない。
さっきからこの男性、少し変だ。
その時、丁度倒された男性の通信機に彼の仲間であろう人物から通信が入った。
『おい、異常はないか?』
俺に質問をしていた男性は倒した男性からインカムを奪い、通信に答える。
「はい、異常ありません。」
絶対声色でばれる。そう思ってヒヤヒヤしたが、男性の口からは彼の声色ではない、先ほどまで銃器を向けていた男性と同じ声色が飛び出してきた。
彼は通信機の向こう側の相手を騙し、信じ込ませてしまったようだ。
通信を切ったあと、彼は「簡単に騙されちゃったね」と言って笑いながら、突然自己紹介をしてきた。
「・・・僕の名前は雅。春風雅。君の名前は?」
「は・・・?えと、喰牙昶。」
「あぁ、やっぱり。喰牙さんの息子さんでしたか。それならファントム所持の意味も理解できる。」
「え?親父を知っているのか?」
「ええ、喰牙竜馬さんでしょう?ならよかった。私一人ではこの状況を改善することはできません。手伝ってくださいませんか?」
そう言って雅さんは席に置いていたトランクケースを開けて、なにやら色々と取り出し始めた。
「状況を改善するって言ったって・・・俺何もできない!」
「大丈夫。貴方は必ずお父さんの力を受け継いでいるはずですから。」
「受け継ぐも何も・・・!」
雅さんは俺に小さなポーチを渡して一言。
「ふぁいと!」
いい笑顔で俺に電車の上に上がれと宣言した。
本当にこれ、何の罰ゲームだ。
「・・・マジかよ。」
雅さんに無理矢理窓から電車の屋根に上らせられて、今俺は間違いなく突っ込まなくてもいいことに首を突っ込んでしまっていると悟った。
正確には巻き込まれたのだが。
とにかく、俺だってこの状況を何とかしなければ、友達に合うことが出来なくなってしまうため困るし、なにより、この状況からなんとか抜け出したい。こんなところで死にたくなどない。
だから今は、まだ未だに信じられる仲ではないが雅さんを信じて彼の作戦に乗ってみる。
雅さんの話ではこうだ。
ジャック犯の目的は電車の永遠運転により、俺達乗客を人質として警察に渡せないようにする状況をつくること。
しかし、このままでは決まった時間帯に停車している電車にぶつかってしまう恐れがある。
なんとかその最悪の事態は避けなければならない。
今まで俺がいた車両は最後尾のため、運転席には誰もおらず、あの車両にはただ一人敵がいただけ。
つまり運転しているのは前の方の運転席になる。
二人して車内から前方へ攻めるのは効率も悪く大変危険であるため、上と下二手に分かれて運転席へ向かい主導権を奪い返そうというわけだ。
「だからって俺が上じゃなくても・・・。つかピアスのことまだ詳しく聞けてねぇし・・・。」
結局あの人親父とどういう関係なんだろう。仮面を被ってそそくさと下から攻めに向ったしまったけれど。
さくさくっと車上を進んでいくと、なんか二人ほどジャック犯が上ってきた。
こちらに気がついたようで、一人が襲い掛かってきたんでつい避けてそのまま蹴り落とした。
ああ、後方に転がってどんどん小さくなっていく。
残ったジャック犯から「酷い。」といわれたが、もっと酷いことをしているのはこいつらのような気がするのだが、確かに酷いことをした気がするのでその発言に否定は出来ない。
さっき蹴り飛ばしたジャック犯が落としたらしい通信機を相手に投げつけてやると、見事にクリーンヒットしたらしく、よろめいている所可哀想だが思いっきり殴り飛ばした。
幾度となくこの拳で不良を潰してきたことか。まさかこんな喧嘩用の重い拳がこんなところで役立つとは。
「うわ・・・。」
相手の顔が血に濡れている。これは俺のせいらしい。
・・・普通の喧嘩でこの拳使うの、やめよう。
その時、こいつの胸ポケットに入っていた通信機がなった。
『おい、何か上が騒がしいようだが、お前ら何かあったのか?』
どうしよう。雅さんみたいに声色を変えられるだろうか。
しかし、ここで返事をしないと、他のジャック犯が不審に思って動き始めるだろう。
「いえ、ただ仲間とふざけてただけですよ。」
『そうか。』
・・・なんか出来た。倒したこいつの声を真似してみたら、以外と出来た。
どうゆうことだ?俺今までアニメキャラクターや芸能人、色んな人の声色の真似をしてきたけれど、どれも上手くはいかなかったのに。どうして突然できるようになったんだ。
「・・・そういえば、渡されたポーチ。」
雅さんから渡されたポーチを開いて驚愕。
「・・・リロード用の銃弾と仮面だ・・・。」
** *
「なんか・・・おかしい気がする。」
「そうですか?リーダー気にしすぎなんですよ。」
「警察が乗り込んでて仲間倒してたりしてな。」
先頭車両までくると、乗客を後方に集めて前方の方に二人。乗客の前に一人のジャック犯がおり、雑談していた。
しかし、相手は銃器を持っている。ここからは本気でやらせてもらおう。
俺は仮面を被って、先ほど倒した二人から奪った銃を両手に、俺は前方にいたジャック犯の一人を蹴り飛ばしながら飛び込んだ。
すぐ目の前にいたジャック犯の手に握られていた銃がこちらに発砲される前に相手の手首を自分の銃器で強く叩き手から銃を落とさせると、太ももを打ち抜いて立てないようにしてやった。
そして足元で未だもがいているジャック犯の腹を蹴り飛ばし、後方にいたジャック犯にぶち当てる。
見事にジャック犯の腹にヒットしたと同時に、彼らの背後にあった扉が開いてそのまま後ろの車両へ吹き飛んだ。
扉の向こう側からは雅さんが入ってきた。
「ほう。見事な仕事のこなし様ですね。しかも二丁銃使いですか。とても頼りになります。」
「親父の友人にならっただけだ。」
「さ、運転席にいる彼をつまみ出して止めますよ。」
「ああ。」
そう返事をしたときだった。
辺りに響く連射される銃声。
激しい音を立てて窓ガラスは粉砕。
驚いて振り返ると運転席から最後のジャック犯が出てきた。
「畜生!一般人のくせに!」
気を抜いていた俺はあっさり捕まってしまい、背中に銃口を突きつけられた。
そして、打ち抜かれた。
上手く足に力が入らずに俺はそのまま崩れ落ちた。
畜生?そりゃこっちの台詞だっての。
なんでこんなことに巻き込まれなけりゃいけなかったんだよ。ただ普通にいつもと変わらない日常を過ごしていただけなのに、神様はなんて酷な真似を。
最初から神様なんて信じちゃいねぇけど、やっぱこういう時怒りのぶつけどころは神様っていう架空の人物になっちまう。
ああ、何を間違ったんだろう。
ただ普通にしてたのに。
・・・・・・いつもと、変わらない日常・・・?
俺は、本当に変わらない日常の中にいて、それで満足しているのか?
それって、とても悲しいことじゃないのか?
親父のピアスを貰ってから、今日はいつもは目にしない状況が多発している気がするし、実際ジャックにあっている今しているのだ。
もしかしたら、親父が俺にこのピアスを託したのは、俺に変わらない日常から抜け出させるためだったのだろうか。
「・・・くっ・・・。」
雅さんに襲い掛かり、組み敷いているジャック犯の姿がぼやける視界に入った。
腕力では勝てないらしい雅さんはどうすることもできず、首を絞められている。
死なせない。
最後の力を振り絞って、俺はジャック犯に狙いを定め・・・・・・引き金を引いた。
放たれた銃弾がジャック犯の何処に当たったのかよくわからない。
次第にぼやけていく視界の中、赤が少し見えた。
隙を見て雅さんがジャック犯の体の下から抜け出したところまでは確認できたが、そこで俺の意識は完全にブラックアウトしてしまった。
** *
誰かに髪を撫でられているような気がする。
こんなこと小さいとき以来かもしれないな。
それより、今俺は生きているのか死んでいるのか、はっきりしない。
ただ、意識だけが何もない空間に一人でいるといった感じだ。
あの後ジャックされた電車どうなったのかな。
せめて乗客だけでも解放してあげたかったな。
「・・・・・・。」
目を開けると、白い天井。鼻を刺激する匂いは薬品だろうか。
視界に入る情報だけでここが病院だと認識する。
「・・・助かったのか・・・?」
「ええ、助かりました。僕も君も乗客も。」
声がした方へ視線を向けると、雅さんが隣に座っていた。
どうやら今まで俺のことをつきっきりで見ていたらしい。
「貴方がいてくれたおかげです。ありがとうございます。・・・・・・しかし、僕は貴方がまだ機関に属していないのにも関わらず、今回の事件に巻き込んでしまい、挙句怪我を負わせてしまった。ほんとうにすみません。」
申し訳なさそうに雅さんは不覚頭を下げて謝罪してきた。
「そういえば、まだ機関について、話聞いてないんだけど・・・。」
「・・・お聞きになりたいんですか?」
「できれば。親父も関係しているみたいだし。」
俺がそういうと、雅さんは知っている限りを話してくれた。
今回雅さんは親父の子孫である俺を探していたという話から始まったのには少々驚いた。
ピアスの件については、どうやら雅さんと親父がこのピアスを持っているのはある機関に属すると与えられる支給品らしく、機関に所属する者の証であるとこを意味するらしい。
機関の名前は【演じ屋】。その名の通り演じる能力を持った人物達が集まった機関らしく、機関にはまだ雅さんのほかにも多くの演じ屋が所属し、世界各地に散らばっているという。親父が所属していたのは演じ屋・日本支部と中国支部だと聞かされた。
演じ屋では色んな人に変装したり声色を真似たりして今回のように敵を欺いて事件を解決したり、何か怪しい動きをしている会社や組織が存在すれば、社員の一人などになりすまし、内部情報を掴んだりすることをしていると聞かされた。
「・・・そうか。でも、驚いたな。親父がそんなことしていたなんて。」
「でしょうね。僕も昶くんと同じで、父親から継承された身なので、その気持ちわかります。」
「継承・・・それじゃあ親父が俺にこのピアスを渡すよう母さんに頼んでいたのって、俺に後を継いでくれってメッセージつきのプレゼントだったのか。」
「機関内部では自分の子供に継承することを認められています。親が演じ屋の子供は特に特殊能力を持ち備えている子が多くて、未来の演じ屋の有力候補とされているので。・・・ただ、貴方は継承を望んでいますか?」
捜し求めていた親父の子孫である俺を目にして雅さんは判決を下さなければならないといった。
継承を望むのならともに演じ屋の道を歩もうと。望まなければ、ピアスを返還し、つまらない日常を。
「演じ屋・・・か。」
今までダメだった声真似も出来るようになったのは、演じ屋としての能力が開花したってことを意味していたんだ。
「演じ屋稼業は、人を救うことが出来るのか?悲しませずに、済むのか?」
「少なくとも、悪ではありません。」
「・・・俺、立派に演じきれるかな。」
俺のその言葉に雅さんは微笑んで見せた。
「ええ。立派に演じきれますよ。」
今はまだ声真似しかできないけれど、きっと立派に演じきってみせるから。
こうして、俺の演じ屋生活は始まった。