表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜  作者: 水上 空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/75

伝説の終焉? と、ある受付嬢の乾いた日常


「た、た、大変だぁーーーっ!! 勇者様が、勇者様が死んだぞ!!」


ギルドの重厚な扉が、蹴破らんばかりの勢いで左右に弾け飛んだ。飛び込んできたのは、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした初心者一行だ。彼らはあまりの恐怖と罪悪感に、入り口で派手に転びながらも受付カウンターへ這い寄る。


「受付さん! すみません! 俺たちが、俺たちが不甲斐ないばかりに……勇者カイト様が、スライムに飲み込まれて、その、……死んじゃいましたぁ!!」


その絶叫に、館内の喧騒がピタリと止まった。

酒杯を傾けていたベテラン冒険者が吹き出し、武器を磨いていた戦士が愛剣を床に落とす。

「おい、今なんつった? 勇者がスライムに……?」

「嘘だろ、あの『不死身のバカ』が、よりによってスライムに……?」

ざわつきが波のように広がる中、初心者たちは床を叩いて号泣した。「俺たちの付き添いなんて頼んだばっかりに……伝説が、終わっちまった……!」


だが。

カウンターの奥から、ガサリと書類を束ねる音が響いた。

そこにいた受付嬢は、初心者たちの悲痛な訴えを耳にしても、眉一つ動かしていなかった。それどころか、彼女はメガネを指でクイと押し上げると、深く、深ーい、底知れないため息をついた。


「……またですか。あのバカ」


その冷ややかな一言に、泣き叫んでいた初心者たちがピタリと止まる。


「え、……あ、あの、受付さん? 勇者様が死んだんですよ? 歴史的な損失なんじゃ……」

「いいですか、あなたたち」

受付嬢は事務的な手つきで、引き出しから一冊の「分厚いファイル」を取り出した。表紙には『カイト様・死亡届(今月分)』と書かれている。


「あなたがたが気に病む必要は、これっぽっちもありません。あれは……そうですね、このギルドにおいては一種の『定期的自然現象』のようなものです。雨が降るのと同じ、あるいは縁石に躓くのと同じレベルの出来事です」


「自然現象……? でも、スライムですよ!?」

食い下がる初心者に、彼女は乾いた笑みすら浮かべず、淡々と告げた。


「気にしなくていいから、さっさと次の依頼に行ってきなさい。薬草採取でも、溝掃除でも。あんなのと関わって、これ以上あなたの貴重な冒険者人生の時間を無駄にする方が、よっぽどギルドにとっては損失ですから」


「は、はい……すみません……」

受付嬢のあまりに冷めきった、しかし「日常」として処理しきっている態度に毒気を抜かれ、初心者たちは首を傾げながらもトボトボと出口へ向かう。


彼らが去った後、受付嬢は手慣れた手つきで新しい死亡報告書に判を捺した。

「……さて、今度はどんな言い訳で蘇生してくるのかしら」


ギルドには、何事もなかったかのように、またいつもの喧騒が戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ