神託は、自動ドアと共に
「……選ばれし魂よ。目覚めなさい」
真っ白な空間に、鈴を転がすような甘い声が響く。
青年カイトが薄目を開けると、そこには、中世の王侯貴族が纏うような、精緻な刺繍と宝石がちりばめられた豪華絢爛なドレスを纏った美女が浮いていた。
カイト:「……えっと、お姉さん誰? ここ、天国?」
スティア:「私は管理神スティア。おめでとう、カイト! あなたは栄えある『不滅の勇者』に選ばれました! どんなに無残に死んでも、たちどころに元通り! これで魔王討伐も楽勝ね!」
カイト:「不滅……? 強そうだけど、痛いのは嫌だなぁ」
スティア:「大丈夫、死ぬのは一瞬よ! ほら、あそこの『光の門』をくぐれば、運命のパートナーである聖女が待っているわ。さあ、異世界ライフの始まりよ!」
女神スティアは、豪華なドレスの裾をエレガントに揺らしながら、手元のタブレットで「配信開始」のボタンをポチッと押し、意地悪く微笑んだ。
「……予言の時間は過ぎたわ。本当に今日、勇者様が降臨されるのかしら」
聖女ノアールは、祈りのポーズをとりながら、重厚な大聖堂の正門を見つめていた。
彼女は、王国でも指折りの聖魔力を持つエリート聖女。その清楚な立ち振る舞いと美貌から「神の愛し子」と称えられていた。
ノアール:(魔王軍の攻勢が強まっている今、どんなに厳格で、不撓不屈の精神を持った英雄が現れるのか……ドキドキするわ)
その時。
ガコンッ! という、石造りの門からはおよそ似つかわしくない「機械的な作動音」が響いた。女神の悪戯か、空間が歪み、そこにはなぜか現代風の「自動ドア」が出現していたのだ。
カイト:「おおっ、あれが光の門……って、これ自動ドアじゃん! 懐かしいなー」
光の向こうから、のんきな顔をしたカイトが歩いてくる。
ノアールは目を見開いた。
ノアール:「あ、あなたが……勇者様……?」
カイト:「あ、どうも。カイトです。よろしくね、聖女さん!」
カイトが爽やかに手を振った、その瞬間。
「閉まりまーす」という無慈悲な電子音声(女神の声)と共に、自動ドアが猛烈な勢いで閉まった。
ギチギチギチィィッ!!
カイト:「……あ、ぶ、ぶへぇっ!?」
カイトの首が、正確にドアの間に挟まった。
ノアール:「えっ……? ちょっと、勇者様!? 大丈夫ですか!?」
カイト:「だ、だいじょ……げふっ。これ、意外と……圧が……強い……」
カイトの顔がみるみる土気色になり、舌が飛び出す。
そして、パタン。
勇者の身体から、キラキラとした魂が抜け出し、空へと昇っていった。
ノアール:「………………は?」
沈黙。
世界を救うはずの勇者が、異世界に降り立ってからわずか3秒。
魔王軍の先兵にすら会わず、「自動ドアの不具合」で絶命したのである。
ノアール:「嘘……でしょ……。いや、えええええええ!? 勇者様ーーーっ!!」
清楚な聖女の悲鳴が響き渡る中、彼女は反射的に、まだ見ぬ魔王を打ち倒すために温存していたはずの神聖魔力を全開にした。
ノアール:「『超・広域蘇生』!!」
白い霧の中、16歳ほどの可愛らしい少女――冥界の受付嬢カロンが、面倒くさそうにスタンプ台をトントンと叩いている。
カロン:「はい、次の方ー。……あら、見ない顔ですね」
カイト:「どうも、初めまして。カイトです。死因は……自動ドアの挟まり事故です」
カロン:「……。なるほど、新しいですね。不条理枠ですか」
カロンは、カイトの真っさらなカードを取り出し、記念すべき一個目のスタンプを「ドン!」と力強く捺した。
カロン:「おめでとうございます。スタンプ1個目です。100個貯まると、あの女神スティア様の直筆サイン入り色紙がもらえる予定になってますけど……まあ、頑張ってください。……あ、もう蘇生魔法が飛んできましたね」
カロンが指指す先、現世からのまばゆい光がカイトを包み込む。
その光と共に届いたのは、清楚な聖女のイメージを粉々に打ち砕く、切実な「叫び」だった。
ノアールの声:「いい加減にしろよこのバカイトォォォ!! 冥き底より這いずって門を開けなさぁぁーい!!」
カイト:「……あ、聖女さん、もう怒ってる。しかも蘇生されるの、意外と普通なんだな……」
これが、後に伝説(笑い話)となる、勇者カイトと聖女ノアールの「受難」の幕開けであった。




