異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
短編を書いていたら終わりが見えなくなり1万文字を超える執筆量になりました。
少し長いですが楽しんで頂けたらと思います。
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どうして私が?という疑問はあるけれど、私は地球で死んでこの異世界スフィアで生まれ変わりました。
この異世界では魔法が当たり前にある世界で、人が国を作り、魔物などと戦いながら暮らしています。
しかし、魔物の多いこの世界で人の活動できる土地は限られており国同士の戦争も多かったのです。
そして私は定番の神様にチートを貰いました。
それは、『器用度MAX』という名前だけ見ると微妙なスキルである。
だがチートと言うだけあってかなりの優れたスキルであった。
スキルの性能といえば、『全ての技術がプロレベルで行える』というものでした。
剣術の修行をすれば、すぐに騎士団長レベルの戦いができ、魔法の力も宮廷魔導師クラスで扱える。
細かいところでいえば、掃除や洗濯、芸術、馬術などなど、なんでも高いレベルでやれるのだ。
さらに私は、クラーク王国の第一王女として地位もお金もある勝ち組として生まれました。
特に神様からは使命などなく好きに生きろと言われたので、前世では無かった魔法の研究などしながら過ごしていた───
・・・・かったのですが、諍いの多い世界で王女と言えども剣術や攻撃魔法など、自衛が出来るように武術も叩き込まれました。
貴族や王族のマナーは器用度MAXスキルですぐに完璧に覚えたので、私は武術や魔法の勉強を中心に学ぶことになったのでした。
そして、月日は流れて──
私の生まれたクラーク王国は大陸の真南に位置しており、北にはうちより大きなザキエル帝国が存在していました。大陸の中央に位置するザキエル帝国は周囲を敵国に囲まれており、強大ではあるけれど、周囲の国が連携して抑え込んでおり、大陸は一定のバランスを保っていました。
それでも諍いがない訳ではなく、小規模な小競り合いは続いていました。
そして『なぜか』第一王女である私、シオン・クラークが戦争に参加したのは14歳の時でした。
王家の権威を保つために、王族は戦に参加しなければならないという通例に従って参加しました。
私には兄妹がおり、長女の私の下には弟の王子2人と妹が1人います。
ここで私がやらかしたのです。
普通は安全な後方の本陣から名目上の総司令官をやるだけで、本来はベテランの将軍が指揮を取るはずでした。
しかし、本陣が敵の奇襲にあい、その将軍が戦死したのです。
奇襲した敵は撃退したものの、指揮を取る将軍が死んで浮き足立った本陣の官僚達に私は指示を出しました。
「落ち着け!敵の奇襲は失敗した!これより総攻撃を仕掛ける!突撃の準備をしなさい!」
普段ならこんな初陣の小娘に従う訳がありませんが、奇襲してきた敵の兵士の多くを切り捨て、返り血を浴びた私に畏怖を感じた官僚達は素直に従い、私の初陣は大勝して幕を閉じたのでした。
それからです。
盗賊退治や戦争が起こると駆り出されるようになったのは。
数年経ち、弟の王子や妹も戦争に参加しましたが、みんな目の前での人の殺し合いに泣き出して逃げ出してしまったそうです。
しかし、常勝不敗の私の存在で王家の権威は落ちませんでした。
私は多くの戦に勝ち続けて、なんと北の帝国の領地まで勝ち取ってしまいました。
──クラーク王国──
「この度、シオン・クラーク王女殿下は数多くの戦績を積み上げたことにより、将軍の位を授けるものとする」
「謹んで拝命いたします」
私は金色の長い髪に翡翠の目の色をしていることから『金獅子』(きんしし)の異名で敵国に恐れられる存在となっていました。政治に貴族マナーに戦争に精通している私に、世論は次期女王として私を期待していると言われていました。王子や妹は(私から見れば)凡人と言われて肩身の狭い思いをしていて、いつからか私を目の仇にしていました。
はぁ、王位には興味が無いので仲良くしたいのにね。
転生してから人を殺すことに抵抗がありませんでした。恐らく器用度MAXスキルのおかげで、心の平穏も保たれているのでしょう。
それから私は小競り合いの多い地域に行くことが多くなり、その都度戦果を上げてくるので弟や妹も文句が言えないのでした。
そして──
18歳になりました。
そろそろ女性なら婚約者がいて結婚する時期になっていましたが、私には婚約者がいません。
一応、昔はいたのですが、私の活躍に相手が尻込みして婚約解消となったのです。
いいですか、解消ですからね!
巷の婚約破棄の物語ではありませんから!?
またいつもの日常的に、小競り合いのあった地域に飛ばされました。
今度は北西の帝国との国境付近です。
そこで私はハメられたのです。
敵側の戦力は100人程度と聞いていて300人の兵士を連れて応援に駆けつけましたが、敵側は1万の兵力を集めて、私が切り取った領地を取り戻しにきていたのです。
高台から敵の兵力を見てすぐに撤退の指示を出しましたが──
兵士の半数近くが弟の息のかかった兵士で、私を殺しにきたのです。
「まさかここまでするとはね」
私は弟の息のかかってない兵士をまとめ上げ反撃しました。
人数はほぼ同数でしたが、私が前線に出て反乱の隊長を討ち取ると反乱軍は散り散りに逃げて行きました。
「負傷者の手当てを!それとこの事態を早馬で知らせろ!」
伝令の者を数名走らせ、仲間の傷の手当てを行いました。
「将軍!大変です!帝国の軍がそこまできています!」
!?
確かにこれだけ騒げば気づくでしょう。
しかし負傷者は動かせません。
私はすぐに決断しました。
「私が捕虜となる。みんなは心配するな」
「いえ!将軍が逃げて下さい!将軍さえ生きていれば王国は負けません!」
「そうですよ!今回だって将軍を殺すように国王が動いたに違いありません!」
薄々は気付いていました。
弟を国王にしたい父上が邪魔な私を戦地へと送って死なそうとしていることに。
まぁ、私が戦果を上げ続けたお陰で、余計に話がややこしくなったのは否めませんが。
「大丈夫。私を思ってくれているお前達がいるなら私は戦えるから」
部下の兵士達は泣きながら頭を下げた。
そして1万の帝国兵が到着した。
「まさか本当にいるとはな」
敵の将はザキエル帝国の王子であるキース・ザキエルが自ら率いていました。
「まさかとは思ったけど、愚弟とそちらが内通していたとはね」
「『金獅子』(きんしし)殿は、余りにも戦果を上げ過ぎたようで疎まれているようではないか?」
「はぁ、まさか敵国と手を結んでも私を殺したいとはね」
私は諦めた様子で言った。
この男とは戦場で何度も戦った仲だ。相手の実力も知り尽くしている。
「見ての通り、こちらは負傷兵ばかりで抵抗の意思はない。私が捕虜となる。この者達は見逃して欲しい」
目の前に剣を置いて頭を下げた。
「・・・よかろう。我々としては金獅子──いや、シオン・クラーク第一王女殿下の身柄を確保できれば問題ない。せめてもの情けだ。縄はかけん」
「感謝する。皆の者も達者でな。今回の様な売国奴の様な非道な行いを絶対に許すな!絶対に内部の膿を出し切ってやれ!」
部下達は泣きながら敬礼を取ると私はキース王子に連れて行かれた。
帝国軍の基地に到着すると、馬車に乗せ替えられてキース王子と同じ馬車でそのまま帝国の首都へと向かった。
「私は拘束されていないのに、2人っきりになっていいのか?」
「別に構わないさ。シオン殿も敵地で1人で何かするほど無謀ではないだろう?」
「まぁ、私も死にたくはないのでね」
窓の外を見ながら答えた。
「そう言いながら外の兵士の数や陣形を見ているのは何故なんだ?」
ちっ、バレていたか。
「先に聞いておきたいのだけれど?」
「俺に答えられることなら」
少し言葉を選びながら聞いた。
「私の処遇はどうなる?」
「君の価値は計り知れないよ。君の身柄と交換で奪われた領地を取り返すこともできるし、多額の身代金を請求することもできる」
「あー、それは無理ですね」
「なぜだ?」
父である国王が私を死なせたいからだと伝えた。
「・・・信じられんな。君ほどの逸材を消したいとは」
「出る杭は打たれるというやつですよ」
諦め顔で言った。
「なら、帝国からの要望も聞いていないのか?」
うん?何のことだと首を傾げた。
「マジか・・・これは予想していなかった」
キースは手を顔に当てて落ち込んだ。
「どうしたんだ?」
「い、いや、その・・・詳しくは城に着いてから伝える」
「あ、ああ?」
歯切れの悪いキースに疑問を持ちつつそれ以上は追求しなかった。
そして数日かけてザキエル帝国の城へと辿り着いた。
「初めて見るが大きいな~」
王国は綺麗な外見重視の城に対して、ザキエル帝国城は実用性重視の質実剛健という印象だった。
「しばらくの間は少し不自由させると思うが、少しの間でいいからバカなマネはしないでくれよ?」
「部下を助けてもらったんだ。しばらくは大人しくしているよ」
しばらくはか。
キースはシオンを部屋に連れて行った。
シオンは悪くても通常の牢屋に閉じ込められると思ったが、貴族牢に入れられた。
貴族牢は、基本的に普通の部屋と変わらない。家具やベッドまで普通にあるのだ。
「ここまでの好待遇とは思わなかった」
中に入ると女性の騎士達に鎧まで剥がされて、普通の綺麗なドレスを着せられたのだ。
「最近、着ることがなかったから落ち着かないな」
シオンは暇を持て余して、ドレス姿で腕立て伏せなどの筋トレを行なっていると───
「・・・・お前は何をやっているんだ?」
呆れた顔でキース王子が立っていた。
「やあ、キース王子殿。暇だったから筋トレをしていたんだ」
「ブッハ!アハハハハッッッ!!!!!!キース、このお姫様、最高じゃないか!」
キースの後ろにいた人物が大笑いした。
「笑いすぎだ。兄上」
「く、くくくっ、面白すぎてお腹痛い。まさか牢の中にいて、私を笑い殺そうとしたんじゃないのか?」
そんなに面白かっただろうか?
「えっと、このような格好で申し訳ない。私はシオン・クラーク第一王女だ」
腕立て伏せをしながら自己紹介した。
言葉遣いは軍人生活が長かったので男っぽい口調になってしまっていた。
(これはもう直らんなぁ)
「く、クククッ、わ、私はキースの兄で、レオン・ザキエルだよ。この帝国の王太子だ。ってか、そろそろ立って欲しいのだが?」
!?
「これは王太子殿下。失礼しました。このような場所へどのようなご用件でしょうか?」
「いや、キースの愛する女性がどのような人物か見てみたかったんだ」
「兄上!?」
キースは慌てて大きな声を出したが遅かった。
「はい?愛するとは???」
「えっ、聞いていないの?」
レオンはキースを見て眼光を鋭くした。
「・・・どういう事だキース?説明しろ!」
急に雰囲気が変わり口調も強くなった。
「俺も帰る途中の馬車の中で知ったんだよ。王国に送った書簡もシオン姫殿下には全く教えられていなかったようだ」
!?
「ほぅ?正式に使者を送って【王印】まで押してある書簡を当事者に伝えてなかったと?」
「そのようだ。どうやら王国はシオン姫殿下に死んで欲しいようだ」
舐められたものだ!とレオンは石畳を足で踏み砕いた。
「ふぅ、シオン王女殿下失礼した。実はここにいる愚弟のキースが貴殿に惚れていてな。何度も求婚の書簡を送ったのだが色良い返事をもらえなく苛立っていたんだ。しかも、シオン王女殿下に嫁いでもらう見返りに、南部の土地を割譲する用意もあった。まぁ、これはそちらに割譲するという話で準備のために、兵を引かせた所を掠め取られたがな」
「そんな!私は帝国の防衛が甘くなったと報告を受けて進軍したんですよ!あ、いや、えっと、キース王子が惚れているというのは・・・?」
言ってから、あ、惚れているって何の話?とようやく脳が理解したのだ。
「えっと、俺は戦場でシオンに出会ってから心を奪われてな。確かに国同士の諍いはあっただろうが、個人的に恨んでいる訳でもないから求婚の書状を送らせてもらった」
キース王子は顔を赤くしながら言った。
「ああ、それとね。君たちが結婚してくれたら、あの奪い取った領地をあげるつもりだったんだよ。王国の人気の高い姫が嫁いだ領地なら、国同士の衝突も軽くなると思ってね。今回の王国の動きも、うちに打診があったんだよ。シオン王女殿下を殺すチャンスだと」
「兄上!それは聞いていないぞ!俺はシオンが暗殺者に狙われているというから、敵の注意を引くために出ろって話だったろ!」
「ごめん、ごめん。本当のことを言ったらキースは単騎で向かっただろう?流石にお前が敵に捕まって捕虜にでもなったらまずいから黙っていたんだよ」
レオン王太子は腹黒のようだ。
そしてシオンもようやくキース王子が惚れているという言葉の意味に気づいて赤くなった。
「わ、私……!?」
キースとシオンがお互いに赤くなってなんとも言えない空気になった時、レオナが咳払いをして場を取り持った。
コホンッ
「まさかシオン姫殿下がこちらの想いを知らなかったとは誤算だったけど、その反応からしてまんざらでもないのかな?」
「あ、あの!私はこんな経験なくて……その、どう反応していいのか分からなくて」
『やばっ!かわいい!?』
ボーと見つめるキースにレオンが頭を叩いた。
「おーい!キース帰ってこーい!」
「はっ!?余りの可愛い破壊力に我を忘れてしまった!?」
「はぁ、取り合えず暫くはここにいてもらうが、すぐに客人としての対応に変えるから少し我慢してほしい。それと出来る限り融通するから何か必要な物はあるかい?」
「それなら暇なので、何か書物を差し入れして頂けるならお願いしたいです」
「それくらいなら今日中に持って来させよう。それと、わかる範囲でいいから教えて欲しいのだが」
「何でしょう?」
「王国では飢饉とかあっただろうか?帝国が輸入している『塩』の関税が少し前から値上げされて困っているんだが?」
帝国は内陸で海に面していないのが弱点なんですよね。
「いえ、そんな話は聞いていませんが?」
「ならやはり帝国の嫌がらせか。はぁ、今代の国王は傲慢過ぎて対応に困るな」
レオン王太子は深くため息を吐いた。
「あの、地図をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「帝国の問題を解決できるかも知れません」
!?
「何だって!すぐに持ってくるよ。キース、シオン姫殿下の相手を頼む!」
レオンをバタバタと走って言った。
「シオン姫殿下、本当なのか?」
「シオンと呼び捨てで構いません。それに絶対とは言えませんが解決できると思います」
少しして大きな地図を持ってきたレオンがテーブルに地図を広げた。
「それで、これで何がわかるのかな?」
地図を見ながらシオンはとある場所を指差した。
「この割譲予定の領地は私を捕まえたとき、帝国の領地として取り戻しているんですよね?」
「ああ、そのための1万の兵だったからな」
それならとシオンは地図を指で叩いた。
「なら、ここの小さな山脈に宝が埋まっています」
南側は王国で北側が帝国になっている、そこまで険しくない山脈だった。
「この山がどうしたんだ?宝とは?」
「この山から『岩塩』が取れるんです」
!?
「何だって!?」
「王国は海に面しているので塩は容易に取れます。帝国に近い北側では輸送料もかかるので現地消費で岩塩を取って生活しているんです。同じ山の南側で取れるんです。きっと北側でも取れますよ。確約はできませんが、確率は高いと思います」
「岩塩か。まさか帝国で取れるとはな」
「多少色が違いますが食用の場合、煮詰めて不純物を分離させれば海水から作るのとそう違いはありません」
「しかし、いいのか?我々にそんなことを教えて?」
「えっ、私はキース王子と結婚するんですよね?なら私は帝国の王子妃になるのですから帝国の利益になることをしなければならないでしょう?」
レオンとキースはお互いに顔を見合わせて頷いた。
「シオンは少し感性が違うのかな?」
「う~ん、確かに他とは違うようだな。それが国王や他の者達との不和を生んでいるのかも知れない」
まぁ、その本人に自覚がないのが問題なのだが。
首を傾げるシオンにキースはしっかりと伝えた。
「俺としては嬉しいのだが、シオンはそれでいいのか?急に敵国に嫁に来いと言われて?」
「・・・どの道、王国には私の居場所はありません。それに私は捕虜の身です。選択がありそうで私には選択がありませんので」
そこまで言ってシオンは知らず知らずのうちに涙を流していた。
「すまない。事を急ぎ過ぎた。俺との婚姻は気持ちの整理がついてからでいいから。今はゆっくりと休んでくれ」
「そうだね。私も婚姻の話を聞いていないとは思っていなかったから。シオン姫殿下の気持ちを優先すると約束する。それと岩塩の件ありがとう。すぐに調査して、この恩には必ず報いると約束するから」
「ありがとうございます」
自分でもこんなに心が弱かったのかと思い知った。
不安だったのだ。自分の身がどうなるのか怖かったんだ。
キースは優しくシオンを抱きしめて泣き止むまで待つのだった。
その間にレオンはそっとその場を後にして2人きりにした。
それからキースは毎日の様にシオンの元に通い親睦を深めていった。
その過程でわかったことがあった。
シオンは自分で何でもできてしまうので、他人の仕事までやっていたのだ。余り自分から喋るような性格ではないため、仕事を取られた者は自分より正確に仕事をこなすシオンを嫌煙していった様だった。
「なるほど。自分でやった方が早く正確にできるからと、何でもやらなければよかったのですね」
「シオンが凄いのはわかる。自分でやった方が早く正確にできるのもわかる。だがそれでは下の者が育たない。間違えても、それは上の者が教えて直していけばいいんだ。何より任せると言うのは下の者を信頼しているという証にもなる。シオンの同列の者が疎んでも、実際にもっと下の兵などに慕われているのは、シオンの正しい仕事ぶりと性格のおかげだな」
「・・・いつからか、王族の仕事を丸投げされて、自分でもとにかくやらないと家族として認められないと思い込んでいました」
「そうか。嫌がらせのつもりでそんな事を・・・うん?王族の仕事というのは国王の裁決が必要なヤツも?」
「うん。余り大きな声では言えませんが、ここ数年の仕事は私が政策とか考えていたよ」
それを聞くとキースはニヤリッと笑って、シオンに断ってレオンの所へ向かった。
「兄上、実は──」
「なに?なるほど。そういう訳だったか。ようやく合点がいったな」
今代の国王と次代の国王は愚王と呼ばれる者だ。
今代の国王はシオンの父親は強欲が過ぎる国王で、自分が贅沢する為とシオンとの婚姻を求めている嫌がらせに『塩』の関税を3倍にも引き上げた。しかし、ここ最近は善政を引いているので多少の贅沢は見逃されていた。
それがシオンの考えた政策だったとは皮肉な話だ。
そして次代はシオンの弟が国王になるのだろうが(国王にしたい)無能である。父親よりは強欲ではないにしても、戦場では泣きながら逃走するし、調べた情報では最近は国王になる勉強もしてなく、遊び呆けているらしい。
「まぁ、優秀な部下に仕事を任せるのも上に立つ者の資質ではあるな。シオンの様に全て自分でやるのも問題だが、自分の能力を把握して、部下に任せるのも必要なことだ」
「ええ、でもこうも極端なのも珍しいですが」
「いや、国王達はできないからではなく、自分が楽したいから仕事をただ丸投げしているだけだ。誰かに頼るという資質とは関係ないだろう」
「なるほど」
「これから王国の政務は滞るだろう。チャンスだな」
「兄上、シオンの母国を滅ぼすのですか!」
キースの怒りを見て言った。
「流石にそこまではしないよ。少し内部工作を行うだけさ。我が帝国も父の代になってから内政に力を入れて侵略行為は控えているからな。今なら奪い返した領地の報復で多少の土地の奪取ぐらいは問題ないだろう?」
「少なくともシオンの悲しむ事をするのであれば、命令には従えませんよ?」
「わかっているって。シオン姫殿下にも確認を取るから心配するな」
その胡散臭い笑顔が信用できないとキースは思うのだった。
それからレオン王太子の読み通り、王国の政務が滞って混乱が生じた。
帝国はすぐさま進軍を開始して王国の領地を刈り取った。王国騎士団は帝国の進軍までは察知したが、出発できなかった為、守る兵士のいない領地を刈り取るのは容易だった。
どうしてか?
出兵に対しての兵站や軍馬の枯草などの準備ができなかったからだ。
軍を統括していたシオンがいなくなったせいではあるが、本来の仕事を担当する者も、ここ数年はシオンがやってくれるからと仕事を丸投げしていて、どこに書類があって、誰にどうやって発注するのかわからなくなっていたのだ。
そのため応戦に軍の出発ができず、帝国軍は王国の王都までそのまま真っ直ぐ進軍していた。
進軍は順調なのに、総司令官のレオンは真っ青になっていた。
「・・・兄上」
「わ、わかっている、王国は滅ぼさないから剣を向けるな!私も予想外だったんだよ!まさかここまで進軍されて王国軍が出てこないなんて普通は考えられないだろうがっ!」
レオンはヤケクソ気味に吠えた。
「まぁ確かに」
「でも、どうして応戦に出てこないのでしょうか?」
シオンはフルフェイスの兜を被って素性を隠しながら同行していた。
「さぁ?」
「事務処理できるヤツがいないんじゃないか?軍を動かすには前もって兵糧の準備や武具の用意など必要だからな」
レオンはやり投げっぽく言った。
「いやいや、兄上流石にそれはないでしょう」
「そうだよな?」
アハハハハッと笑ってから、2人は本当にマジでそんなことないよな?と真顔で考えるのだった。
その頃クラーク王国の王都では──
「どうなっている!どうして騎士団は出撃しないのだ!!!」
玉座で国王が王子と共に怒鳴っていた。
「何度も申し上げておりますが、軍の兵糧が準備できておりません。何百、何千の兵を出陣させるには兵站の用意が必須です」
「だからどうして準備できていないのだ!」
「シオン姫殿下がいなくなったからです」
!?
「なぜ!アイツの名前が出てくる!」
「これも何度もお伝えしておりますが、シオン姫殿下が全て1人で軍の運用を管理されていたからです」
「たかだか1人いなくなっただけで軍が出撃できないとはどういう事だ!」
これは国王の言い分が正しい。
「はっ!シオン姫殿下が何でも1人でやられるので、ここ数年は物資担当の者など全てシオン姫殿下に丸投げしていたようで、手続きのやり方などわからなくなっている次第です」
「ふざけるな!職務怠慢ではないか!なにをやっておるのだ!」
「申し訳ありません。すでに担当の者は更迭済みです。しかし新しく後についた者も勝手がわからずに時間が掛かっているのです」
(お前もシオン姫殿下に仕事を丸投げしてただろうが!お前の方が職務怠慢だろうが!)
報告している軍の高官も顔に出さず心の中で悪態を吐いていた。
「しかし、幸いにも王都にはほぼ全ての戦力が揃っております。王都には巨大で頑丈な城壁もありますし撃退は容易でしょう」
「確かにそうだな。守り切って帝国が撤退した所で奪われた領土を取り戻せばいいのだ。全兵士に言っておけ!命に代えても王都に帝国兵を入れさせるでないとな!」
「はっ!かしこまり───」
「大変です!!!!王都の城門が破られました!」
!?
「「はっ!?」」
言っていたそばから破られていた。
「な、なぜこんなに早く破られるのだ!?」
「内部から城門を開けた兵がいるとかで、帝国兵が雪崩込んできています!」
「裏切り者がいるのか!それとも帝国の工作員の仕業か………早く迎撃せぬか!」
「それが、指示を出す司令官達がこぞって逃げ出してしまい、指示を出す者がいなくて一般兵は投降しています!」
!?
「巫山戯るな!そのような敵前逃亡は死刑だ!早く逃げた者を捕まえるのだ!」
「今はそのような事を言っている場合ではありません!帝国兵がすぐそこまで迫っているんですよ!?」
「そ、そうだ!国王であるワシは死ぬ事は許されん!お前達ワシが逃げるまで時間を稼ぐのだ!」
そう言うと、国王は肥った身体を揺らしながらドシドシと逃げていった。
残された者達はこの国が終わった事を悟るのだった。
そして、そう時間の掛からないうちに、この謁見の間に帝国兵達が入ってきた。
「………なんて言うか、王国軍ってシオンだけで持っていたのかな?」
「いや、上に立つ人間がシオンに仕事を押し付けて楽していた弊害だろう。自業自得だ」
「人は楽を覚えると責任を取ることも忘れるんだよな」
不機嫌気味にキースは言い放った。
「それでどうするんだ兄上?」
「それ聞いちゃう?本当にどうしようね。攻め落としちゃったよ。頼んでもいないのに、内部から王国兵が裏切って城門を開けるし………はぁ~ここまでするつもりなかったんだよ!だから、私に剣を向けるなキース!」
最近のブームになっている2人の漫才をよそに、シオンは部屋の中を見渡していた。
「…………まさか、責任を取るべき王が逃げたのか?」
シオンは酷く落胆していた。
自分を殺してでも継がせたかった王位を、敵が攻めて来たからと簡単に逃げるのか。
なら、私は何のために───
「レオン様!大変です!」
「お、おお良いところに。どうした?」
キースの剣を白刃取りしている所に伝令が慌ててやって来た。
「そ、それが、クラークの国王達が秘密の抜け道から逃げ出したようなのですが………」
「それは織り込み済みだ」
ふふふっ、王城の周囲を囲んでいるからな。出てきた所を捕まえてやる。
「い、いえ!その秘密の抜け道が魔物の巣窟になっており、後を追った兵が追い付いた時には、国王を始め、王妃や王子や王女達の全員の死亡が確認されました」
!?
「それは予想外だよっ!?」
ひぃっ!?と、レオンを悲鳴を上げた。
「そうか。私の家族はみな死んだのか」
真っ青になりながらレオンはギギギッッとブリキの玩具のようにシオンの方を向いた。
「し、シオン殿。この度はなんと言っていいのか、本当に申し訳ない」
「そ、そうだ。本当に申し訳ない!なんならお詫びに兄上の首でもどうだろうか?」
「兄を売るな!バカ者!?」
兜を脱いだシオンは力無く首を振った。
「いえ、元々私を殺そうとしていた家族です。何も思うことはないです。ただ──」
もう少し家族と歩み寄れたのではないのか?
何か心の中が空洞になったような感じがする。
「本当に大丈夫か?」
「ええ………」
そんな時、投降したクラークの兵士達がシオンの存在に気付いた。
「ま、まさかシオン姫殿下!?」
「死んだのでは無かったのか?」
「それよりなんで帝国と一緒にいるんだよ!?」
「シオン姫殿下が裏切ったのか?」
キースはイラッと勝手な事をいう王国兵に苛立ちを覚えた。
「お前ら!!!」
「よせ、王国兵から見たらその通りだから」
キースは拳を握り締めた。
「シオン姫殿下、お戻りお待ちしておりました」
!?
クラーク王国の宰相が代表としてやって来た。
「宰相殿、1つ聞きたいのですが?」
「何でしょうか?」
「私は帝国の捕虜となったはずですが、王国兵に知られてないのはどうしてでしょうか?」
宰相は深いため息を付いて話した。
「シオン姫殿下が捕虜になったと、戻ってきた兵から聞きましたが、国王陛下はそのまま帝国で死刑になると思ったらしく、シオン姫殿下は死んだと公開したのです」
「確かにシオン姫殿下の身柄の返還に、領土返還か身代金を払えと言っても払わらなかっただろうしね」
レオンは呟いた。
「それでこのクラーク王国をどうなさるおつもりですかな?完全に征服された今、我々に反抗する気概はありませぬ」
「それは私ではなくレオン王太子の判断に委ねられます」
!?
『えっ、私が決めるのかよ!?』
いや、確かに不可抗力とはいえ、王国の王都まで攻略して、国王達は自滅しちゃったしな。
マジでどうしようか。
レオンは腕を組んで考えた。
チョイチョイとキースを呼んだ。
コソッ
「どうすればいいと思う?」
「なんでオレに言うんだよ」
「何から何まで想定外なんだよ!」
まぁ、兄上の言いたい事はわかるけどな。
「あ、シオン。宰相殿は信用できるヤツか?」
「えっ、ああ、国王の暴走を止める役割りを担ってくれている人物だよ」
なるほど。
あの強欲な国王よりはまともか。
「なら、宰相殿も交えて今後について話し合いましょうか」
レオンは調子が戻ってきたのか、黒い笑顔で答えるのだった。
それから宰相を交えて話し合いが持たれた。
「まずはシオン姫殿下の生存を広める事と名誉回復だ」
シオンは国王達に疎まれ、殺されそうになったので帝国で保護したと言う事にした。国王達に真意を確かめる為に帝国兵の力を借りて王国に進軍したこと。王国兵にも話は伝わっており、応戦せずに王都まで帝国兵を招いた事など、筋書きを作った。
まさか、戦の準備が出来ず応戦出来なかったなどの不名誉を隠す意味もあった。
ただし、小心者の国王達が逃げ出して不慮の事故で亡くなったとした。とても情けない死に方である。
レオンはクラーク王国の民がこの嘘を受け入れるのに時間が掛かると思ったが、元々誠実で民に寄り添った行動をしていたシオンは民に人気があったのと、国王がシオンを疎んでいたのは周知の事実だったことから、すぐに受け入れられた。
そして───
シオンはクラーク王国の女王となり、キース王子は王配としてシオンの補佐として結婚することになりました。
「帝国からの干渉は最低限に抑えるから安心してくれ」
「ええ、助かるわ」
戴冠式には多くの国民が王都へ集まった。
帝国のレオン王太子も招かれていた。
「まさか、あの進軍が両国の軍事練習という話になったとは驚きだ」
「指揮官クラスが軒並み逃げましたから下級兵士には情報が伝わらず、わからなかったようですね」
まぁ、敵前逃亡した指揮官達は殆どが牢屋の中だけどな。
「そのおかげで対等な同盟を結ぶことができたとは皮肉な話ですね。本来なら属国か国名が消えても仕方がなかったのですが」
「国を攻め滅ぼすのはリスクが高いんだよ。扱いが酷いと叛乱を起こされるし、ぶっちゃけめんどくさい。だから元の統治者に任せるのが楽なんだ」
「なるほど。そんな見方もあるのですね。勉強になります」
頷くシオンに苦笑いをしながらレオンは手を出した。
「出来れば末長く良き関係でいられますように」
「こちらこそ」
同じ為政者としてしっかりと握手を交わした。
「さて、シオン、早く除菌しような。兄上の腹黒菌が移ったら大変だ」
「おい!人をバイキンみたいにいうなっ!」
いつもの2人の漫才を見てシオンは笑った。
「フフフッ、本当に仲が良いのですね。・・・・本当に羨ましい」
「いや、別にそんなことは・・・いや、シオン、これからはもっと周りを頼って欲しい。何でも自分でやろうと思うなよ?」
「うん、十分に思い知ったから。1人が優れていても組織は回らない。それは国も同じ。足りない所を補って世界は動いて行くんだ。これからはキースと一緒に相談しながらやっていくよ。同じ過ちは繰り返さないから」
「それでいい。俺もシオンを支えていくからな」
「ありがとう。キースがいてくれて、求婚してくれて本当によかった」
照れくさそうに笑うシオンに、多くの人々が祝福してくれるように、外から大勢の歓声が聞こえるのだった。




