サイズ違い
当直前の食事で出たごみを捨てに部屋を出たところで、当直明けの兵頭さんと会った。
「おはようございます」
「おはようございます。当直、お疲れ様でした」
「問題はありませんでした」
「了解しました。ゆっくり休んでください」
「ふふっ」
「何か変、かな?」
「いえ、口調が。艦長として引っ張って行こうとするのも良いですけれど、少人数ですし、折角なので今みたいに砕けた口調で良いのではと思って」
「確かにそうかもしれないな。うん、ありがとう」
「いえ、どういたしまして。そうだ、呼び方は真琴で良いですよ。戦闘配備中は難しいでしょうけど、勝己さんと呼ばせてもらいますから」
「分かったよ。それじゃ、ゆっくり休んでください。真琴さん」
確かに眠気が抜けきらず、口調が戻っていたようだ。偉ぶりたいわけではないけれど、艦の最高責任者として不安を与えないようにと硬い口調を心がけていたが、成れない事はしない方が良いのだろう。
他の乗員とも、許されるならば砕けた口調で話をするかな。
「おはよう」
「おはようです。聞こえてましたよ。私も勝己さんと呼ばせて頂きますので、美咲と呼んでください」
「分かったよ。問題は無かったかい?」
「はい。少しレーダーのフィルタリングについて調べていましたが、除外条件はかなり設定できそうですよ」
「そうだね。その辺は追々かな。ところで、後続の僚艦が随分と離れている様だけど」
「あぁ。駆逐艦が1隻加速をミスりまして、その後に隊列を合わせるのを各艦手間取ったようです」
「こちらへの追加指示は?」
「無いです。ですので、そのまま進んでも構わないでしょう」
さて、僚艦とはずいぶんと離れてしまった。彼らが追い付いてくるには、コチラが停止しても減速時間を含めて半日以上の時間がかかりそうだ。それなのに彼女たちは不安そうにしていない。
『太陽系内で安全域だから? それとも安全と分かっているから? 僕が知らされていない情報を持っているから?』
乗艦した初日から普通すぎた。拉致されてきた割には不安そうな表情は見せないし、宇宙での生活に慣れている感じがしている事に違和感を覚えた。もしかすると、彼女たちは僕とは違うのかもしれない。
考えられるのは彼女たちが地球人ではない事。似た容姿ではあるが、宇宙育ちだと言われれば納得できるかもしれない。後は自衛官や警察官である可能性も捨てられない。もしかすると、僕は彼女たちに監視されているのではないか?
「月にも重力が有るからか基地内も低重力圏だったけど、艦内にもずっと低重力がかかっている原理が分んないんだよね。マニュアル見ても『そういう物だ』って表記だけで」
「そうですね。地球の半分くらいって聞きましたけど、技術提供してくれた星では『コレ』が普通なんでしょうかね」
「流石に慣れたけど、最初のうちはフワフワした感じで寝付けなかったよ」
「そうですか? 流れるプールでゴムボートに乗っている感じだと思えば違和感ないでしょ」
「言われてみればそうかも」
時間になって菅沢さんが操縦室から出て行った。そして1時間後に小峰さんが当直にやって来た。
「おはようございます」
「おはよう。兵頭さんから口調も砕けたものにして、名前で呼び合おうと提案があった。菅沢さんも了承したけれど、小峰さん的にはどうだろうか?」
「私も問題無いですよ。亜紀良って呼んでください、勝巳さん」
「分かった。ところで、重力発生装置へのエネルギー供給は一定であっている?」
「いえ。発生させる重力の大きさによって入力値が違いますよ。ですので、惑星などの重力圏に入ると減少しますし、戦闘機動などで振り回すと増します。もっとも、戦闘中の優先度は低めなので、切れる恐れもあります」
「なら、『シートベルトは忘れずに』だね」
「はい。命にかかわりますからね」
「1Gまで上げることは出来る?」
「出来ないんですよ」
「それだと筋力が落ちそうだね。いや、落ちない食事になっていたっけ」
「です……、たっけ?」
「僕には開示されていない情報、かな?」
「あの。えっと。……、はい」
やはり彼女たちは僕とは違う様だ。
本来であれば、重力が少ない所で生活をしていれば筋力は落ちる。仮に彼女たちが僕なんかよりも長期にわたって低重力下に居るなら、食事か何かに細工しなければ痩せ細っていても不思議ではない。
そこで、カマをかけてみたわけだが……。
話しを聞いていたのか、私室から他の2人が出てきた。
「亜紀良、流石に早いよ」
「真琴さん、ごめん。で、どうしよう」
「話すしかないでしょうね。どこで気付かれました?」
「違和感は君たちの乗艦からかな。僕のように拉致同然で連れてこられたにしては、不安そうではなかった。返答が揃っていたことから、軍か自衛官ないしは警察官あたりだろうと感じた。そうすると、いろいろ腑に落ちたのでね。で、君らは僕の監視役って事で合っているだろうか?」
「私たちは艦長に選ばれてこの艦に居ます。決して監視だとかではありません」
そうして話してくれたことに、少々驚いた。
地球は異星人の兵士培養星のひとつらしく、何度か種を一掃して育てなおされているのだと言う。今回の種もある程度文明が発展したので、宇宙へ出す準備に入ったそうだ。その一環として宇宙船の基礎技術が提供され、各種艦艇の設計が異星人のサポートを受けて行われた。
勿論大々的に発表できる内容ではないので、極秘裏に人が集められることになる。
日本は自衛官に対して適合テストを行ったが、適合者が予定の1割にも届かない。そこで艦の設計を見直すとともに、東部方面第1警備地区で東京と埼玉に在る駐屯地より、実験的にナノマシーンが散布された。このナノマシーンは適合者の体に入り込むと脳に移動し、言語中枢等に睡眠学習を行ったり思考速度を上げたりするそうだ。それによって帝国の言語を読み書きできるわけだが、その改造過程で熱が出る。
ちなみに、非適合者の場合は即排出されて終わるらしい。
散布から1月の間に熱で通院した者のうち、ナノマシーンの着床が確認された者を拉致して月へと上げた。それは戦闘艦に乗せるためではない。訓練を受けていない者では落第点ばかりで、一般に広く募っても宇宙での活動は無理であり、ココに来られる適性者は自衛官が適任なのだと言うデータを取るためだったそうだ。
なのに、イレギュラーな者が現れた。
僕だ。
「今回出航した艦の乗員の中で、一般から来たのは勝己さんだけです。我々自衛官だった者は半年以上前から適合の選別がなされ、適合者はナノマシーンの着床安定を待って月基地で実地や学科の訓練に勤しんできました。それなのに貴方は、短期間でも3課程でTOP10入りして軽巡航艦の艦長に任命されました」
提示されたリストに手は加えられていないだろうが、艦長によっては男だけを集めた人も居たようだ。問題の回避なのだろうと思うが、女性蔑視も有ったのかもしれない。
で、彼女たちは顔見知りだったとはいえ、この艦に乗ったのは偶然であり、その偶然を演出したのは僕なのだと言う。
「もしかして、各艦の搭乗者数が少ないのは適合者が少ないからか?」
「当初は海自の艦船を参考に乗員区画を設計したそうです。それでも異星人の艦艇に比べれば少人数なのですが、多くの艦種をテスト運用したいとの異星人側の意向もあって、急遽最少人数で運用できる仕様とサイズになったそうです」
「わかった。ならば僕は君たちの協力を得て、与えられた任務を遂行しようと思う」
ちなみに、アメリカ・中国・インド・EUは適合者が多かったことから、それぞれを管轄する異星人の支配地域で訓練及び艦の建造が行われているそうだ。もちろん、艦のサイズも異星人同等の物らしい。月では中国以外のアジア圏とアフリカ圏の国が基地を設け、火星基地にはそれ以外の国が基地を持っているのだそうだ。
適合者の少ない国は何処も厳しい立場に立たされているらしい。出航に漕ぎ着けた日本はまだ良い方なのだろう
我が【夕張】は順調に進み、予定通りに最初のジャンプポイントであるホールニーへと到達したので全員が操縦室に揃っている
「デカいな。何倍あるんだ?」
「どうでしょう。レーダーの輻射反応では7倍ほど大きいようですが……。識別信号は味方を示しています」
「先ずは通信だな。所属と艦名、目的を送ってくれ」
「了解です」
暫くすると返信が来た。
「返信きました。彼方はあのサイズで駆逐艦だそうです。こちらのサイズに驚いているようですよ。連絡艇かと確認されました」
「この艦でさえ、当初の乗員数は120人ほどのはずでした。居住区は今の50倍近いですし、物資貯蔵庫もそれだけ大きなものが必要でした」
「居住区が大きくなれば隔壁が複数必要で、生命維持装置関連も大きく且つ複数必要となるだろう」
「そう言えば、砲塔類は格納中でしたよね。余計に小さく見えるのでは?」
「確かに。でも、今更展開するのも変だよな」
「ですね。攻撃の意志ありなんて勘違いされたくないですから、止めておきましょう」
モニター越しなので実感は無いが、前方と後方の両カメラに写り込んでいる事から、相手がこちらよりも大きい事が窺える。
後続の到着を待ってからのジャンプかと思ったが、先に行くようにとのお達しが来たので準備に入る。
ショートジャンプは2点の空間をつなげて移動する方法だ。周辺の重力場に大きく影響を受けるので安全圏をジャンプポイントとして設定してある。艦に積んである跳躍装置がジャンプポイント間の空間を繋げて瞬時に彼方側に移動できる。時間の短縮にはなるが大きなエネルギーを必要とするので、今のままでは長距離移動は難しい。
「跳躍装置のエネルギー充填100%に達しました」
「座標の入力完了です。カウントダウン5、4、3、2、1」
「跳躍。復帰、したか?」
「現在地、ホールニー・ジャンプポイントの中心から7光秒です。進路を仰角13度、取舵20度へ」
「了解。仰角13度、取舵20度へ半速転進」
「各機関正常。跳躍装置への再チャージを開始します」
「当て舵。強速前進」
「付近に艦影無し。クロッシーバーの座標設定終わりました」
「再チャージ完了。いつでもジャンプできます」
「跳躍へカウントダウン。5、4、3、2、1」
「跳躍。復帰」
「現在地、クロッシーバーのブイから3光秒です。東17眼回廊へは俯角4度、取舵3度です。艦影多数、全て識別信号に問題なしです」
「機関問題無し。エネルギー残量72%で許容内です」
「各砲塔展開します。安全弁はそのまま」
「お疲れ様。何の問題も無く来られたね」
「ですね。この後はどうしますか?」
「予定通りに移動しよう。第一戦速まで上げて回廊に入り、第三戦速でステーションまで自動航行だ」
回廊は船に影響を及ぼす全ての物が排除された空間で、高速航行が可能な高速道路みたいな場所となる。船の速度によって進む位置が指定されていて、全自動航行のみ許されているのは事故を起こさない為の処置だ。当然ながら軽巡航艦である【夕張】にも自動航行装置は付いていて、速度を指定しておけば管制局と通信しながら指定のルートを進んでくれる。
そうなればサポートロボに任せっきりにしても問題はないだろうから、皆で少し楽をしたいとこの時は考えていた。




