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乗組員

スカウトの結果、3名ともに承諾の返信が来て一安心した。

主砲術士はヒョウドウ マコト(29)で副長を兼任してもらう。

機関士と副砲術士を兼任してもらうのは、コミネ アキラ(26)だ。

レーダーと通信は唯一の女性スガサワ ミサキ(23)となる。レーダーとか通信系は女性が多く、艦内での少数派になってしまうのは我慢してもらうしかない。


1週間は艦の内外で補給やシステムチェックに費やした。翌日来たサポートロボを酷使しながらでも一人での作業は大変だったが、システムの把握という面では有意義だったと思う。

艦内にはトイレとシャワーが備わっていて、食事の質にさえ目を瞑ればあの部屋とは比べ物にならない程快適な生活だった。食事は相変わらず、モソモソする固形の栄養食とボトルに入った水のみだ。港内の食堂に行けばマシなものが食べられるとは聞いたが、それでもトレーに乗ったペースト状の何か(味は日替わりらしい)だそうなので、行くほどでもないだろうと艦内で過ごしている。

いつでも無水シャワーが浴びられるのは快適だ。少し強めに殺菌ガスや蒸気が吹き付けられて、皮脂汚れ等も奇麗に落ちるそうだ。原理は分からないが、サッパリするので深くは考えないようにした。予備の宇宙服はあるが、シャワーの間に着ていた物をクリーニングして着ている。クリーニングは装置に入れると、こちらもガスや蒸気を用いていて、乾燥の手間がかからずに直ぐ着る事ができる。それでも臭いや黄ばみも無い、新品のようになるのだから不思議だ。


乗員配属の2日前に初回任務として、初航海の目的地が通知された。火星が太陽の向こうに居るタイミングなので火星軌道側に進路を取り、指定のジャンプポイントで2回のショートジャンプを実行する。ホールニー、クロッシーバーのジャンプポイントを経由して東17回廊に入れば、全自動の高速航行でストームマウンティー中継ステーションまで進んで補給を受ける事ができる。ここまでで問題が無ければ、再度ショートジャンプでスチプール基地まで行き、初回のメンテナンスを受けるとの事だ。


ザックリとした航行プランを組む。理論値からジャンプの消費エネルギーと安全係数を加味して、通常航行時の速度を算出していく。単独航行ならば、おそらくは第三戦速か第四戦速までのテストができるだろう。食料や水、エネルギーが半分以上残る前提での計算だ。


今日は昼前に乗員の配属となるのでキリの良い所で作業を中断し、左舷ハッチの外に出て管制塔の方に目をやる。暫くするとワラワラと人がこちらに向けて漂ってくるのが見えた。あの中に【夕張】の乗員も居るのだろうと待っていれば、3名が纏まってやって来た。


『?』


3人ともに僕と同じような薄手の宇宙服を着てヘルメットを被っているが、宇宙服越しに見える体型が女性のようだ。

アチラはアチラで戸惑ったように少し速度を落とし、それでも止まることなく僕の前に並んだ。バイザーは開いていて顔が確認でき、部下全員が女性であることに戸惑いを感じた。そして彼女たちが戸惑っている理由も推測できた。


「兵頭真琴以下3名、軽巡洋艦【夕張】乗組員として集合しました。乗船の許可を頂きたいのですが、後藤艦長でお間違いないでしょうか?」

「お互い誤解があったようだ。艦長の後藤勝己だ。勝利の勝に己と書いてマサミと読む。昔から女のような読み方だと言われていた。おそらくカナ表記であったため、艦長が女性と思っていたのではないかな? 実を言えば、コチラは勝手にアキラとマコトを男性だと思い込んでいた。もちろん、性別ではなく能力でスカウトしたのだから歓迎はするが、もし女性艦長の艦が良いのであれば僕の方から掛け合ってみるがどうか」


3人は顔を見合わせたが、直ぐに兵頭さんが代表して宣言した。


「いえ。問題はありません。元々、私たちは男性乗組員ひしめく艦の中に女性一人で放り込まれることも覚悟していました。それに、今更ココに残されるよりも乗船した方が良いと考えます」

「僕もそうだ。流石にあの待遇は堪えた。ここで艦長を代われと言われてあそこに戻るのは勘弁願いたい。では、問題無いようなので乗艦を許可する。艦首右舷の個室は僕が使っているので、その他の部屋を君らで使って欲しい。各自に箱ひとつ分の貸与品が届いているので、部屋の確認と荷の整理が終わったら操縦室に集合を」

「「「了解しました」」」


彼女たちを先に入れ、『性別くらい表記しろよ』と心の中で愚痴をこぼして管制塔側を一瞥し、一抹の不安を抱きながら操縦室へと向かった。


操縦室はシートが五角形に配置されている。艦首側に操縦士の席が有って僕が座る。中央の右が主砲撃士の席で左が機関士兼副砲術士の席となる。艦尾側左が通信士兼レーダー士の席で、右は予備席となっている。今はサポートロボがそこに居て、艦全体の状況把握と乗員サポートを行ってくれる事になっている。

ロボットと言っても完全な人型ではない。円筒形のボディーの下から細い足が8本生えていて、小型の頭には小さい目が2個ついているだけだ。アラクネだったか? 蜘蛛のモンスターを思い起こさせる容姿をしていた。手は2本あり、指は其々に5本あるので計器の操作などは問題無く出来る作りをしていた。


皆が集まったので、皆シートを中央に向けるように回転させてブリーフィングだ。


「改めて自己紹介をしようと思う。艦長の後藤勝己だ。艦長・操縦・砲術の課程を取っていた。今回はスカウトに応じ、乗艦してくれたことに感謝する。こんな事になって気苦労を掛けるかもしれないが、よろしく頼む」

「兵頭真琴です。砲術士兼副長として頑張りますので、よろしくお願いします」

「小峰亜紀良です。機関士と砲術士を兼任します。よろしくお願いします」

「通信とレーダーを担当します、菅沢美咲です。よろしくお願いします」


役割は正しく通達されていたようだ。前職など役に立たないだろうからと省略すれば、皆も一様に省略した。このメンバーで問題無くやって行けるのであれば良いのだが……。


「さて、最初の任務はテスト航行となった。出発は3日後だ。補給は一応完了していて、システムの起動も全て終了済みとなっている。今のところ問題は起きていない。航行プランのラフはこういった感じだ」


命令書と航行プランを中央スクリーンに表示する。


「何か不備等気付いた点は無いだろうか」

「問題は無いと思いますが……」

「第三戦速だと最大船速に対して70%ですが、加速時間は通常ですか?」

「戦闘加速は、最大船速までの確認がとれてからが良いと思うが」

「そうですね。転換炉が2基有るとはいえ、1基でも不調になると火器類へのチャージが難しいので」

「レーダーはアクティブもパッシブも常に最大値で使いますか?」

「他の艦と足並み揃えてと言う訳ではないが、おそらく同じようなプランになる筈だ。であれば僚艦の巡航戦艦あたりが最大出力で索敵するだろうから、こっちは合間でテストする程度で良いだろう」

「了解です」

「ではシステムや操作に慣れるため、出向までの間に砲塔及びアンテナ群の格納と展開の練習をしておいてくれ。システムの再立ち上げ等の訓練も必要だと思うが、その際は全員に確認を取ってから行ってほしい。また、当直はサポートロボに一任するので、各自で時間を決めて行動すること。また、食事は艦内でも良いし食堂に行っても良い。以上だ」

「「「了解です」」」


先ずは女性同士で親睦を深めてもらおうと、僕は部屋に引っ込んで当直シフトをどうするか悩むことにした。

今のところサポートロボが居るので、それとペアを組むことで2人体制とするか、時間をずらしつつも人が2人は詰めるようにするかだ。それに、1回あたりの時間も悩ましい。



艦長が出て行くのを確認した兵頭が、バイザーを降ろしてグループ通信を繋げるようにハンドサインを送る。


「たぶん、艦長は誤解しているよね」

「性別のことですか?」

「そう。私たちが驚いたのは彼が若かったことだし」

「そうよね。あれだけの成績を叩き出したのだもの、退役したベテランの自衛官とか思うじゃない」

「でも事前配布の資料には、一般職から見つかった逸材だと書かれていましたよね」

「ココに連れてこられたメンバーの97%は自衛官よ。3%が一般からだけれど、その中から艦長に選ばれたのは彼一人だけ。もっと言えば、各課程の25位までに入れたのも彼だけよ」

「1020名中の29名ですよね。大半の自衛官が一般人より成績が劣るって、この国は大丈夫なんですか?」

「専守防衛だもの。もっとも必要知識の半分以上は宇宙人たちの知識だし。それに私たちはもう日本人ではないわ。一応は帝国人(仮)よ」

「艦長は私たちが、『艦長の成績を知っている事』は知らないんですよね」

「と思う。私でさえ複数の艦長から打診があったから、艦長課程の成績を知っただけだし」

「私は立場上、閲覧の権限が有ったので見たけど。驚きよ。艦長課程で5位、操縦課程で4位、砲術課程で9位だもの」

「どっかの国のスパイだと言われても驚かないわね」

「でも、私たちが自衛官だって知ったら驚くでしょうね」

「彼が居た環境は一般選出だけだって知ったら、私たちも妬まれそう」

「それはそうでしょう。私たちは毎日シャワーを浴びて、清潔な服を着て、研修期間だって彼らより長いんですから」

「それでも今後の艦の運用を任せられるだけの人材が、自衛隊内で調達できなかった。一般から少し集めたのは、『一般人には無理だ』って言うデータ取りとしてのはずなのに、彼だけが想定外の結果を残してしまった」

「今頃地上では、報告書の作成に天手古舞でしょうね」

「ざまぁ見ろ、ね。でも彼、引きが良さそうね」

「それって私たちに目を付けたこと?」

「そう。だって宇宙に上がった女性自衛官は2割弱よ。リストをフィルタリングしたとして、100%女性を引く確率って有りえないと思わない? 名前から女性ばかり集めたって感じではなかったし」

「上が、彼に送付した資料に手を加えていなければだけど」

「それは疑い出したらキリがない。だから私たちは、彼の期待に応えなくてはね。『やはり男の方が良かった』なんて言われないように」

「諸々は初回の航行中に判断しましょう。特に、私たちの命を預けられる存在なのかを」


そこまで話して、私たちは通信を切ってシステムの習熟に入った。


私は駆逐艦の艦長として内示を貰っていた。そこに割って入ったのが後藤さんだ。彼が軽巡【夕張】の艦長を選んだことで、当艦の艦長内示を受けていた二階堂三佐が駆逐艦の艦長になり、二尉の私が外された形になった。悔しくはあったが、建造に入った次の生産艦でも良いかと気持ちを切り替えた矢先に副長兼砲術士としてスカウトされたわけだ。

彼の成績は当然確認していた。そして、これなら仕方ないと諦めたのだ。その彼に副長として能力を買われたのだから、即了承の返信をしたのは当然の流れだろう。

小峰曹長とは砲術の座学で知り合った。彼女は計算が速く、夾叉の取り方が上手い。それでも機関士として、その能力を発揮したいと言っていた。小型艦である軽巡や駆逐艦なら需要があるので、同じ艦になれたらいいねと話をした事があった。それは私が選ぶ立場を前提としたものだ。それが選ばれる立場になったのに同じ艦に乗ることになって驚いた。

菅沢二曹は海自の時、同じ護衛艦に乗ったことがあった。飲み過ぎの彼女を介抱したことも有ったが、几帳面で少し真面目過ぎる彼女にココは辛いのではないかと心配になる。

面識のあった2人と同じ艦に乗る縁を結んでくれた、そんな年下の彼に年甲斐もなく運命を感じてしまうと言ったら、2人に笑われてしまうだろうか。


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