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クロスアーチ  作者: nit


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第9話 躍進のコートと届かなかった手

1月の新人戦が目の前に近いた2学期の終わりに、ミズキちゃんから、「3年チームと練習試合をやろう!」と、突拍子もない言葉が出てきた。


「…え?いいの!?先輩たちとバスケできるの!?やったー!」


私の胸は踊っていた。

何せ全国大会に出場したメンバーを相手にPGとして培ってきた力がどこまで通用するのか知りたかった。

そして、肘を怪我していて一緒にプレイすることができなかったとき、一緒にプレイしたらどんなに楽しいだろうと妄想を巡らせていたからだ。


「みんな勉強ばっかりでね、鬱憤たまってるのよ。もうコーチにも話通してあるから、冬休みの初日に行うよ!」


当日になり、体育館には引退していた先輩たちが練習着姿で集まっていた。


「うわー、久しぶりで体鈍っているよ。」


リカさんが少しだけダッシュをし終え、息が上がりながら言った。


「オレもミズキみたいに練習に顔出してれば良かったな。」


「リカには声かけてたでしょ?そのときは、『これでしばらく走らなくて済む!』って言って断ってたじゃん。」


「あれ?そうだったっけ?」


「もう、リカったら。今日はいっぱい走ってね。」


「えー、ゴール下で構えておこうかな。」


先輩たちは久々に集まることができてテンションが上がっているのだろう。

至る所で笑い声が聞こえてくる。

その笑い声が絶えないまま、まずはランニングでウォームアップを始めていた。


(今日は胸をいっぱい借りよう。こんなに強い人たちとプレイする機会ないからな。)


私はこの後の展開を考えるとワクワクし、心拍数が上がってきているのがわかった。


先輩たちは、ランニングやサイドステップで体を温め、ドリブルやシュート練習を行い、全国まで進んだバスケの感覚を取り戻していった。


「アイナちゃんは3年生のチームに入って。」


「…あ、はい。わかりました。」


とミズキちゃんに返事をする。

アイナは予想外だったようで口は半開きになっていた。

ミズキちゃんはアイナが新人戦に出ないことも想定して、現役メンバーは本番さながらのチームで組まれた。


(アイナも大会に出るのであれば、すごく戦力になるのにな…。)


改めて、アイナが私たちのチームにいないことを惜しく感じてしまうが、いなくても私たちのチームは強いんだと見せつけてやりたくもなった。


いざティップオフが始まり、リカさんが勢いよくジャンプしてボールを3年生チームへはたいた。

私たちはディフェンスからのスタートだ。


リカさんはすぐにゴール下を陣取り、ユウコさんからのパスを受けると難なくシュートを決めた。


「ユウコ!ナイスパス!」


引退したとはいえ、さすがのポストプレイによってあっけなく点を取られた。


「リカさんにパスが入らないようにまずはパスカットを狙っていこう!リカさんにボール入ってしまったら、2人でディフェンスしよう!」


リカさんの動きを見てすかさず、作戦を修正する。

私たちは現役の強みである体力を活かし、足を使って勝負することを事前に話し合って決めていた。

先輩たちのディフェンスの戻りの遅さを突き、私が速攻でバックコートの底からフロントコートまで一気にかけ抜けていき、一気にレイアップシュートまで持ち込んだ。


(もらった!)


しかし、私のボールははたかれてエンドラインを割った。

シュートを阻んだのはアイナだった。


「ヒカリ速すぎ…!でもギリギリ間に合って良かった。」


「次はもっと速くいくからね!」


このブロックによって私の闘志に火がついた。


最初の1,2分は試合展開としては悪くないように見えていたが、その後は先輩たちは勘を取り戻して行ったのか、先輩たちの巧さによって、次々にシュートを決められ点差を広げられていく。

そして、追い討ちをかけるように、アイナは要所で先輩たちのフォローをするように強みの走力と守備力でピンチになる場面を防いでいった。

蓋を開けてみると10分で24-10と大きく点差を広げられて、前半は終了となった。


休憩後、試合は現役チームのスローインから始まる。

私はボールを受け取りコート中央の方へみんなの配置を確認しながらドリブルをしていると、マークについてきたミズキちゃんから指摘される。


「マークとの距離気をつけて、スティールされるよ。」


思わずミズキちゃんを見て、素早く大きく一歩後退し距離を空ける。


(たしかに、スティールが上手い人がマークしてくると、さっきの距離感は危ないかもな…。)


そこからは都度、側でマークしてくるミズキちゃんからアドバイスをもらった。


「ディフェンスに詰められたときはもっとボールを後ろに遠ざけてドリブルして。」


「サイドに押し込まれたら、ターンしてコート中央に戻って。視野広くなるよ。」


「パスする前は、できるならワンフェイク入れてみよう。相手のパスカットの反応が一瞬遅れるよ。」


その都度必要なタイミングで適切なアドバイスをくれるため、頭の中にすんなり入ってくる。


他の先輩たちも現役チームの弱点がわかり始めてきたのか、私たちのプレイについて都度アドバイスをしてくれる。

ミズキちゃんが3年生との練習試合を組んだ狙いはきっと私たちのレベルアップを図ってのことだったんだろう。


試合も終わりに差し掛かり、両チーム共に体も頭も疲れきっている様子が見てとれるころ、私はコーナーの位置でパスを受けた。

ディフェンダーが詰め寄ったため、(3Pは打てないんだけどな…。)と思いつつ、シュートフェイクを入れる。

目の前のディフェンダーは大きくジャンプし、見事に隙が生まれたため、相手の脇からドライブしてゴールに向かった。


得点の危機を感じ、反対方向を注意していたアイナがフォローするように移動し目の前に立ちはだかった。

私はすでにリングに向かってジャンプしシュートモーションに入ろうとしていた。このシチュエーションやアイナの目を見た瞬間、肘を怪我した時のプレイが脳裏に映し出されこれから先に起こり得そうなことと重なる。


(この勢いだと……!)


私は脳裏の情景を振り払うように、急いでボールを手放しアイナをかわすようにコートに倒れ込んだ。

あの時とは違い、ちゃんと受け身が取れたから怪我はなかった。


「ヒカリ、大丈夫!!?」


倒れ込んだ私にアイナは直ぐに向かってきて、手を差し伸べてきた。

しかし、私の脳裏にはまたもや怪我したときの場面が映し出された。

アイナがミズキちゃんに付いていく姿が甦り、その後の私は独りで心細くうずくまっていた。


私は差し伸べた手に捕まることなく、自分の手を地面につき腰を起こし立ち上がった。

それを見たアイナはゆっくりと手を引いている。


「…大丈夫だよ。続けよう…。」


私は頭ではこのような行動は良くないと思っているが、心が追いつかないため、せめて笑顔で返そうとした。

しかし、口元は引きつっていて、声も少し低い声での返事となってしまった。

アイナのことを真っ直ぐ見れず、どんな表情をしていたかは定かではない。


私が立ち上がるとすぐに試合終了のブザーが鳴った。


得点だけ見ると、18点差と前半の14点差と違い、後半は4点しか差はついてないが、アドバイスしながらプレイしていた先輩たちは手加減していたには違いない。

ましてや現役引退からまともに練習をしていない様子を見ると、スタミナの低下は否めないのに、後半も結果的には負けている。


(全国に行くチームってこんなに強いのか…。)


試合終了後、中央に整列し向かい合って、「ありがとうございました。」と礼をした。

全国を目指すというのはこれくらいの実力が必要なんだということを肌で感じれたのは大きかった。

この試合のありがたさは私の深々とした丁寧な礼に現われていた。


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