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クロスアーチ  作者: nit


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第24話 光と影

私は先ほどのお返しと言わんばかりに、ドリブルをするミズキちゃんを厳しくマークする。

だが、ミズキちゃんの鬼気迫る勢いと巧みなドリブルによって、センターラインを超えられてしまう。

まだまだドリブルの勢いは止まらない。

私は抜かれることだけは絶対に嫌だと必死で喰らいついてく。


体を懸命に動かす中、頭はこの後の攻撃を予測していた。

責任感の強いミズキちゃんは必ずこう選ぶだろう。

もし仲間がシュートをして外したときの悲しみを背負わせるくらいなら自分で背負うと。


「10!9!…」


会場からカウントダウンの声が響き始めた。

私は必死にミズキちゃんのドリブルに喰らいついていた中で、横からスクリーンをかけに近寄る相手が視界に入った。


(まずい、フリーを作られてしまう!)


スクリーンに合わせて、マークをスイッチすることも考えたが、間に合わないかもしれないと思い、少しミズキちゃんから距離を開けてスクリーナーをかわすようにした。


「6!5!…」


終わりが迫るにつれて、会場のカウントダウンの声がより大きくなり熱気を帯びていく。


ミズキちゃんはスクリーナーの背後に向かうよう、右へ素早くドリブルした後、ミドルシュートの距離でぐっと踏み込み急停止すると、力強く高らかとジャンプしシュートモーションに入った。

私はスクリーナーをかわして追いかけていたが、ミズキちゃんがシュートをすると山を張っていた分、わずかな遅れで済んでいた。


(なんとか届きそうか…!)


私は必死にジャンプしてボールが飛ぶ方へ手を伸ばした。


(これなら届く…!)


ボールに触れそうと思った瞬間、ミズキちゃんは私の手を避けるように両手から右手にボールを持ち替えてワンハンドシュートを放った。

片手にし、右手を少し引き上げるようにボールを放った分、私の必死に伸ばした手はボールに触れることができなかった。


(え………)


ブロックが届かなかったこともそうだが、こだわりを捨て両手でシュートを打つようになった私の前で、ワンハンドシュートを放ったことによって、これまでバスケをしてきたときの様々な感情が濁流になって流れ込み、処理しきれず私の心は虚無になった。


私は着地と同時にうつむき、リングに向かうボールを横目で追っていた。

目は光を失い、眼球の奥ががたがたと揺れているのを感じ、ボールがリングに近づくに連れて心はどんどん絶望で塗りつぶされていく。


(ダメ…ダメ…ダメ…。)


ボールはリングに到達し、一度リングの奥に当たり、跳ね上がった。

私の中で時間がゆっくりと流れていき、目には軌道に沿ってボールの残像が映る。今度はリングの手前に当たった。


会場の静寂と共に私は息を呑んでただただボールの行方を眺めていた。


そして、ボールはリングから離れながらコートに落ち、鈍い音とともに跳ねた。

それと同時に試合終了を告げるブザーが鳴った。


「ヒカリ!!」


直前の3Pシュートを決めた分も合わせてチームメイトは歓喜とともに私に向かって勢いよく走り抱きついてくる。

しかし、私はまだ呆然とした表情でいて、何も抵抗することもなかったため、みんなの勢いに流されコート外に押し出されてまで揉みくちゃにされていた。


「ヒカリ、マジでよくやったよ!」


リカさんは声高らかに叫び、私の頭を手でくしゃくしゃにしながら撫でてくる。


「ヒカリ!勝ったんだよ!どれだけ3Pきめちゃうのよ!」


アイナは私に抱きつきながら小刻みに飛び跳ね、興奮しながら喜びを伝えてくる。


みんなの歓喜によってフリーズしていた私の心は徐々に解けていき、そして、次第に熱を持ち始め、顔は綻び笑顔に変わっていく。


対象的にミズキちゃんはシュートを放った位置から動いておらず、両手を腰に添え、姿勢よく立っていた。

ただリングを一点に見つめ、深刻な表情をしており、唇は噛み締め震えていた。

しばらくはその表情のまま立ち尽くしていたが、ミズキちゃんはチームメイトから背中に手を添えられて、センターサークルに向かうよと促されていた。


私たちは興奮冷めやらぬままセンターサークルに向かい、相手チームと対面した。

ミズキちゃんは先ほどの深刻な表情とは違い、清々しい表情に変わっていた。


「ありがとうございました!」


両チームともにお辞儀をして、顔を上げた。


「おめでとう、ヒカリちゃん。」


すぐにミズキちゃんは私に歩み寄り称えてくれた。

試合に負けて悔しいはずなのに。

そして、ミズキちゃんは続ける。


「最後にこんなに白熱した試合ができて嬉しかった。」


(最後……?)


「しかも負かされたのが、ヒカリちゃんで良かった。これで心置きなく受験に集中できるよ。」


「…最後って、大学でもバスケ続けるよね…?」


「ううん、やってもサークル程度かな。競技としてはこれでお終い。大学生になっても良い医者になれるようにしっかり勉強しなきゃね。」


言葉に淀みなく落ち着いて伝えてくれた言葉から、決意の固さが伝わる。


「…寂しいな…。」


私は受け止められず俯く。


「私のバスケ人生が終わった直後に、こうして会話できるのは嬉しいよ。今の気持ちを真っ直ぐに伝えられる。」


ミズキちゃんは私の右手を包み込むように両手で優しく握った。

影を落としていた私の心に日が当たったかのようにぽかぽかと温かくなり私は顔を上げた。


真っ直ぐ私を見つめているミズキちゃんの目は美しく輝いていた。


「ヒカリちゃんと出会えて、小さい頃から一緒にバスケができて本当に幸せだったよ。ありがとう。これからも応援してるね。」


私の頬には涙が伝っていた。

私の空いた左手はミズキちゃんの手に添え、ミズキちゃんからの温もりを大事にしていた。


「感謝しないといけないのは私の方だよ…。私の方がいっぱい幸せをもらっていたよ。ありがとう。ミズキちゃん…。」


私たちはどちらからとも言わず、自然と手を離し抱き合っていた。そして涙が止まらずミズキちゃんの胸を借りながら伝えた。


「…私も応援してるよ。…絶対に…いいお医者さんになってね…!」


最後の方は震えた声になっていてちゃんと発声できていたかは定かではなかった。

ミズキちゃんはいつものように私の頭をポンポンし離れると、私に一度笑顔を見せて、ベンチに向かっていった。


荷物をまとめ顔を伏せながらコートを去ろうとしていたところ、ハヤトくんがコートに降りてきていた。

ハヤトくんを見た瞬間、今日の試合の報告をすぐにでもしたかったが、視線はミズキちゃんの方を向いており、今日は私の番ではないことを察した。


ハヤトくんはミズキちゃんに近寄り、頭をぐしゃぐしゃっと撫でながら、「お疲れさま。よくやったよ。」と言い、 2人並んで出口の方へ振り向いた。

その直後、ミズキちゃんは俯き肩を震わせると、ハヤトくんはミズキちゃんの肩を寄せた。


きっと泣いてるんだろうか。

いつも気丈に振る舞うミズキちゃんの姿ばかりが脳裏に甦り、泣く姿なんて見た記憶はなかった。


「ミズキちゃんも泣くことあるんだ…。」


そう呟くと、私の口は自然と真一文字になり唇を震わせ、また目の奥が熱くなった。


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