第23話 私の選択の先
まさに窮地に立たされていた。
リカさんとアオイが交代するなんて。
リカさんの代わりはノリちゃんが出場することとなった。
さきほどまで、リカさんがコートに戻り安堵していた様子だったが、再びこのヒリヒリと張り詰めたコートの中でプレイしなければいけない。
全身から不安が滲み出ており、ノリちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。
膝は疲労と恐怖からか諤々と震えていた。
「…大丈夫。ディフェンスはゴール下で手を高く上げる。オフェンスはゴール下にポジションとって、パスがきたら振り向いてシュートする。これだけで大丈夫だからね。練習してきたことに自信を持って!」
私は必死に落ち着かせると同時にノリちゃんが果たすべきプレイを再認識させた。
「はい!」と泣きそうな声で返事をくれる。
相手はファウルによって得たフリースローを2本ともきっちり沈め、点差は4点と広がる。
私はスローインでパスをもらう前に時計をチラッと見る。
(残り50秒…。あと2回は攻撃しないと追いつけないけど、2回も攻める時間あるのか…?)
パスを受け1秒でも早くシュートを決めたいため、勢いよくドリブルをするが、これまでとは違い、ミズキちゃんは自陣に戻ることなく、私の前にすぐに立ち塞がる。
相手チームも疲労困憊ではあるが時間を稼ぐために、コートの前の方から距離を詰めてディフェンスをしてくる。
前に進みたくてもなかなか進めない。
目の前にいるのはミズキちゃんで気を抜くとすぐにでもスティールされそうだ。
ドリブルを左右斜めに切り返しながら進み、なんとか相手陣地までボールを運んだ。
進んだのは良いが、相手のディフェンスで気を抜いている箇所がなく、パスコースが見当たらない。
アイナも攻め手がないと思ったかさっきのようにポストの位置から降りてきてミズキちゃんに向かってスクリーンをかけに近づいてきた。
(マークを外して3Pを打つか…)
アイナがミズキちゃんの側面にピタリとつき、私がアイナの背中の方向にドリブルする。
しかし、アイナをマークしていたディフェンダーが私へのマークに上手く切り替わり、3Pシュートを狙おうにもブロックされる位置にいる。
(まずい…攻め込めない…)
と思った瞬間だった。
「先輩!」
声が聞こえる方向に目を向けると、自陣から走ってくる巨体が視界に入った。
ノリちゃんだ。
息切れしながら、足を踏みしめる度に体を左右に揺らしてリングに向かい、ペイントエリアに入った。
この機会を逃さず、ノリちゃんの頭より少し高い位置に目掛けてパスを出す。
走った勢いをゴール下でなんとか踏ん張って殺し、ボールを受け取るとすぐさまジャンプシュートを繰り出した。
対峙していた相手ディフェンダーは圧倒されたのかその場に尻餅をつくように倒れ込んだ。
「ピーッ!」
ボールはボードに当たりリングを潜ったが、同時に審判から甲高い笛が鳴り響く。
(まずい!ノリちゃんのファウルか…!)
「ディフェンス!ブロッキング!」
審判のコールを聞くや否やすぐにでも胸を撫で下ろした。
幸運にもゴール下で待ち構えていたディフェンダーはノーチャージサークルエリアに足を踏み入れており、オフェンスのファウルはなかった。
そして、ノリちゃんは着地をうまく踏ん張れず、よろけながらコートにうつ伏せになって倒れ込んでしまった。
「ノリちゃん!」
喜びと心配が混じった声でみんなが駆け寄る中、ノリちゃんは自らゴロンと仰向けになるように転がった。
胸が上下に大きく動きながら呼吸をしている。
「ハァハァ…もぅ…走れないですぅ…。」
虫の息のような声で話すノリちゃんには少しでも休んでもらおうと、寝転がった体制のままにしていた。
しかし、審判が確認しに歩み寄ってきたのでみんなで励ましながら、ノリちゃんの両腕を掴み、重い体を勢いつけて引っ張り起き上がらせた。
(あと2点…。残り30秒……!)
時計を見て時間がないことを認識すると心臓の鼓動が速くなったことを感じる。
次のノリちゃんのフリースローの結果次第で残り時間の戦い方が大きく変わるため、どのような展開になるか予測がつき辛い。
よろよろとしながらフリースローラインに向かい、リングに正対して立ったノリちゃんは、審判からボールを受け取り慎重にシュートを放った。
ボール一個分左にずれたシュートはリングに弾かれたが、幸運にもリバウンドしようと構えていたアイナの方に弾んだ。
アイナはジャンプして素早くキャッチしマイボールにした。
アイナはすぐにでもシュートをしようとリングに対して、正面を向けようとするが、相手ディフェンダーがすぐに反応し、両手を大きく上げてブロックしようとする。
攻めあぐねている状況をみて、「アイナ!こっち!」と私は助け舟を渡す。
残り時間の焦りも相まってアイナは私に向かって強くて速いパスをする。
私が立っていた位置からずれたところにボールが飛んできたが、素早く反応しなんとかキャッチをすることができた。
このボールがとれなかったかと思うと間違いなく負けていただろう。そう思うと肝を冷やした。
ボールをとった場所は3Pから大股一歩ほど下がった位置だった。
リングに向かってドリブルしようと思ったが、ミズキちゃんがすぐに目の前に来て腰を落とし、気圧されてしまうほどの鋭い眼光でこちらを見る。
しかし、私はもうミズキちゃんのプレッシャーによりたじろぐことはなかった。
(ミズキちゃんと小さい頃からよくやった1on1…。)
すぐにドリブルができる低い姿勢でボールを持ちながら、頭の中から無数の経験を引っ張り出し、この状況でどの選択をとるべきか考えた。
そして私が出したのはこれだった。
ミズキちゃんは虚を衝かれたのか、面食らった顔をした。
それもそのはずで、私は初めて1on1でこのプレイを見せた。
フェイントもいれず、すぐに両手で3Pシュートを放った。
ミズキちゃんはブロックに反応することもできず、頭だけを動かし、放ったボールを見上げボールを追いながら私に背を向けリングを向いた。
会場のみんなは時が止まったかのようにボールを一心に見つめ、応援の声も止まり会場は静寂に包まれた。
ボールは放物線の頂上に到達後、重力にしたがい、スピードを増して落下する。
そして、リングの内側に一度ガコンという音をさせてリングを潜り抜けていった。
先ほどの静寂が嘘のように、会場は堰をきったように驚きや歓喜の声が放たれ、会場の熱は一気に上がった。
「ヒカリ!!」
「ナイシュー!!」
チームメイトが私に向かって歓喜の絶叫を投げかけてくる。
今すぐにでもみんなと抱きついて喜びたいのだが、まだ試合は終わっていない。
「ディフェンス!集中!」
私の興奮も後押しして、今まで一番気迫のこもった声はみんなの集中力を深めるには十分だった。
試合開始時以来のリード。
最後の攻撃を守り切ればこの試合に勝てる。
残り時間は20秒もない状況だが気を抜くと状況をまたひっくり返されてしまう。
私は、頭は冷静になるよう努めて、すぐさまミズキちゃんのマークをするために走った。




