第22話 手を伸ばすと届きそうな距離で
試合も残り10分。
最後の第4Qは相手ボールから始まった。
相手のオフェンスを必死に守り、アオイのスティールから攻めに転じる。
ボールを奪ったアオイはそのままリングに向かって全速力でドリブルするが、相手の戻りも早く立ち塞がってしまう。
アオイは少しペースを落とし、間を空けた。
その頃には相手全員はディフェンスの体制を整えていた。
相手の整ったディフェンスの中、相手を崩して点をとるためにアイナが仕掛けた。
私のマークをしているミズキちゃんにスクリーンをかけて、私をフリーにした。
フリーになった私を見逃さずにアオイはパスをし、ボールを受け取った私はディフェンスが詰め寄る前に、すかさず3Pシュートを放った。
次はリングに一度は当たるもシュートはリングを潜り抜けていった。
「アイナ、ナイス!アオイ、よく見てた!」
「7点差!逆転できますね!」
「どんどん決めていこう!」
私たち3人は喜々として親指を立て合いながら、声をかけ合う。
2連続で3Pシュートを決めたことでさすがに私の3Pは警戒され、ミズキちゃんは3Pラインの位置でも距離を詰めてディフェンスするようになった。
これだけ近いとドライブできそうだから仕掛けてみたが、ミズキちゃんを抜き去っても、周りのヘルプが早く、リングまでは到達できない。
試合は点差が詰まってはまた放される一進一退の攻防になり、時間が刻一刻と過ぎていく。
なかなか追いつけない状況が私たちに焦りを生み、体力や気力を奪われていく。
◇
残り5分で6点ビハインドのまま4ファウルのリカさんがコートに戻った。
すぐに私は駆け寄り声をかける。
「ファウル厳禁ですからね。」
「おう、当然だ!」
リカさんは両手で顔を叩く。
表情から集中力が増しているのがわかる。
スローインで私はボールを受け、目の前のミズキちゃんに向かってドライブを仕掛ける。
ミズキちゃんは少し間合いを広げつつも必死でついてくる。
3Pライン辺りで、少し振り切りシュートするために両手でボールをもち膝を曲げて構えた。
ミズキちゃんはシュートを防ごうと急いでジャンプして手を突き上げブロックしようとする。
しかし、これは私が仕掛けたフェイクだ。
これだけ3Pシュートを警戒されていれば間違いなくひっかかると予想していた。
ミズキちゃんのブロックを半身になってするりとかわし、ポストを張っていたリカさんへパスをする。
ボールを受け取ったリカさんは素早くゴールに向かってターンし、ゴール下に侵入してシュートを放つ。
相手もあわくって止めにきて思わずリカさんの手をはたいてしまった。
ディフェンスファウルを告げる笛が高々と鳴り、
2、3回リングにバウンドしながらもゴールが決まった。
「よっっしゃーー!」
リカさんが拳を突き上げて喜んでいると、国立第一がとったタイムアウトのブザーがコートに鳴り響く。
両手の拳を突き上げた状態で真っ直ぐ立つリカさんを目掛けてみんなが勢いよく体をぶつけにいき、歓喜を表現していった。
コートから離れていた分、チームに貢献したかったんだろう、リカさんの口元は緩んでいた。
「いける!あと4点!絶対逆転できる!オレにボールを集めて。」
タイムアウト中のリカさんの声がチームに勢いをつかせる。
リカさん自身もその言葉の勢いに乗り、タイムアウト後のフリースローを2本ともきっちり決めた。
(あと2点…!)
チームは勢いをつけたかのように見えたが、国立第一のタイムアウトでの作戦が適切だったのか、あと2点がなかなか追いつかない。
リカさんがコートに戻ったことでより中のディフェンスがタイトになる。
相手も相当きつい時間帯の中、交代を駆使させつつ、しっかり足を使ってディフェンスしてくる。
リカさんにボールが渡らないまま、他の選手に確率が下がる難しいシュートを打たされる。
一本でも沈めると楽になるのだが、私たちは焦っているせいか打たされたシュートがなかなか入らない。
残り時間が減るにつれて、焦りがどんどん増していき、体力も限界に近く苦しさがピークに達する。
第4Qも残りわずかの時間になったところで、相手からコーナーの位置でドライブを仕掛けられた。
マークについていたアオイは反応して右足を踏み込み動き出そうとした瞬間、足に痛みが走ったようで、ひきづるような形になった。
それを見逃さずドリブルで抜きペイントエリアに侵入され、シュートに持ち込まれる。
「くそ、間に合え!」
遅れながらもリカさんがシュートブロックしようと飛びつく。
飛びついた勢いで体ごと相手にぶつかりディフェンスファウルをとられてしまった。
痛恨の5ファウルによる退場だ。
リカさんは両手を膝につきうなだれた。
そして体を起こすと、苦虫を噛み潰したような顔で、私たちに向かって頭上で両手を合わせて大きな声で叫ぶ。
「みんな、本当にごめん!………アオイ!大丈夫か!」
リカさんを先頭にみんなが慌ただしく駆け寄る。
アオイは右足を伸ばしつま先を手で掴みながら座り込んでいる。
「足が攣ってる、貸して。」
ユウコさんがすぐにアオイの右足をとり、足の裏を天井に向けるようにアオイをコートに倒れこませ足を伸ばす。
足が攣るのも無理もない。
慣れない高校バスケの中、私が出場できていない間はずっとミズキちゃんと対峙していた。
疲労は大きく積み重なっていたはずだ。
「…ごめんなさい…私が足を攣ったばかりにリカさんを退場させちゃって…。」
痛みより悔しさと不甲斐なさからか、口元はすぼみ、歪んだ顔をして今にも泣きそうである。
「よく頑張ったよアオイ。あとはみんなに託そう…。」
塞ぎ込んでいるアオイがなかなか立ち上がらず、リカさんはアオイの前にしゃがみこみ、アオイをおんぶした。
アオイは私たちに合わせる顔がないと言わんばかりに頭を屈めていた。
「…ごめん、みんな後は頼んだ。」
リカさんは振り向きざまにそう言うとベンチに向かって歩いて行った。
私たちは呆然と立ち尽くし、2人がコートから去っていく様子をただ見つめていた。




