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クロスアーチ  作者: nit


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第21話 反撃の狼煙

第3Qは私たちからのスローインで始まり、私が近寄りパスを受ける。

目の前にはミズキちゃんが腰を低くして構えており、ドリブルの進行方向に合わせてステップを踏み、私の目を見ながらディフェンスをする。

休憩明けでもあるからか、目には活力が感じられる。


私はコート中央に向かってボールを体で隠しながらゆっくりとドリブルする。


(私に染みついているミズキちゃんから教わったことを崩していかないと、前半の二の舞になってしまう…。)


パスの前はフェイントを入れるなど、意識せずにプレイしていたことをまずは一つ一つどのような動作をしていたか分解しつつ、ミズキちゃんが私の挙動に対して、どのような反応をするか模索することにした。


(パスすることが多かったから、まずはドライブできるか試そう…。)


ノーモーションから一気にスピードをあげ、ミズキちゃんの左脇を低い体勢ですり抜けようとする。

ミズキちゃんは裏をつかれたのか面を食らっているようだった。

スピードでは私に分があるが、必死にくいついてくる。


ミドルシュートが狙える箇所まで侵入すると、急ブレーキし得意のステップバックからシュートを打とうと体勢を作った。

この動作に喰らいついてきたミズキちゃんはブロックしようと手を伸ばしながらジャンプする。


(シュートを打つと思っている。…狙い通り!)


これは私が仕掛けたフェイクだ。

半身でミズキちゃんのブロックをかわし、ローポストにいるリカさんへパスをする。

リカさんはシュートまで持ち込んだが、相手も必死にくらいつき、ディフェンスファウルで止められる。


「あーもう!」


相変わらずファウル覚悟のタイトなディフェンスで止められ、リカさんのイライラはまた湧き上がってきている。


「ナイスプレイです!フリースロー決めていきましょう!」


少しでも気を紛らわせようと私はすぐさま称える。

リカさんは私に向かって親指を立てて返してくる。

このサムズアップは直前の私のプレイに対するものだろう。


この私のプレイの後からミズキちゃんの目には鋭さが宿り、集中力が増しているのが伝わる。

私も負けじと今ミズキちゃんが何を考えているのかを予測してプレイする。


私自身のプレイの癖を振り返り、ミズキちゃんの予測もし、そこからどのようなプレイに変えると良いかと考える。

一瞬一瞬で素早く考えなければならないことが多く、体より頭の疲労の方が大きい。


私のプレイがミズキちゃんに対抗できている影響か、第3Qの序盤はじわじわと点が離されていた状態が止まり、中盤は拮抗するような展開になり、終盤になると私たちの方が試合の流れを掴み、わずかながらも攻勢のように思えた。


第3Qの終了間際、ローポストで構えていたリカさんにボールが渡った。密着し体をぶつけてディフェンスをしていた相手に少しイラついたのか、肩を相手の胸に強く当て勢いよく押してしまい、オフェンスファウルをとられた。


「いやいや!ディフェンスのファウルでしょ、あれは!」


すぐにボールを手から放し、人差し指を振って違うというジェスチャーをしながら審判に向かって歩む。

リカさんの目はつり上がっていて必死だった。審判もリカさんに鋭い目線を向ける。


「だめですよリカさん!追加でファウルとられますよ、抑えて!」


アイナがすぐにでもリカさんに駆け寄り、真正面に立ち、指を振っていた手を押し下げて抗議を抑止する。


「あと1つで5ファウルで退場なんですよ、今リカさんに抜けられたら困ります!」


「………っ!」


リカさんは少し俯き、歯軋りが聞こえそうなほど食いしばった口元で、必死に込み上げてくる感情を抑えている。

その後、コーチからリカさんの交代が告げられ、険しい表情のままベンチに下がった。

代わりにノリちゃんが不安げな顔をしながらコートに入ってくる。


「ゴール下でどっしり構えていれば大丈夫だからね。」


私は不安を取り除こうとノリちゃんの腰に手を当てながら声をかけると、ノリちゃんは少し安堵した表情で頷いた。


私は得点ボードを確認した。


「あと13点もあるのか…。」


なかなか縮まらない点差に焦る気持ちが生まれる。

それをかき消すためにみんなに向かって手を叩きながら大きな声で言葉をかける。


「このディフェンス絶対守りきろう!」


「うん、絶対守ろう!」


みんなもそれぞれの不安をかき消すように大きな声をかけあう。


リカさんがいなくなったことによる危機意識からかみんなはいつにも増した集中力でディフェンスをする。

スティールできそうな惜しい場面もあったが、24秒のショットクロックバイオレーションになるまで守り切り、私たちのボールにした。


スローインの前に残り時間をさっと見て確認する。


(第3Qもあと20秒…。)


残り時間が少ないときのオフェンスのセオリーは、相手が攻める時間を与えないように残り時間わずかになるタイミングでシュートを決めることだ。

時間を潰すためにセンターライン近くでゆっくりとドリブルする。

その間どのようなオフェンスをするべきか頭はフル回転していた。


(やはりリカさんがいないのは辛いな…。リングに近いアイナかノリちゃんか…。ノリちゃんに渡すとファウルしてでも止めるだろうな…。)


ノリちゃんがファウルされてフリースローを与えられても、フリースローが苦手で点が入らないことは、これまでのプレイから相手も見抜いているだろう。


残り10秒を切って私は前に動き出す。

ミズキちゃんにマークされながらも、慎重にかつ足早に歩を進める。

リング方向ではなく、少し横に外れた方向に勢いよくドリブルし、ミズキちゃんを降り切る前にジャンプして体をひねらせながらアイナにパスをする。


しかし、アイナによるポストからの攻撃は想定されていたかのようで、ディフェンスが3人も寄りすぐにでも囲んだ。

こんなに人を割くと、他のディフェンスは疎かになるはずだが、ノリちゃんはファウルで止める、決定率が低くなるミドルシュート以上の距離あるシュートは入っても仕方ないという作戦の下であろう。


アイナはピボット(トラベリングにならないように軸足をフロアにつけたまま、もう一方の足を動かす)すらもできないほど密着されたディフェンスをされ、今にもボールが奪われそうだった。

さらには終了時間も迫ってきていた。


「ヒカリ!打って!」


アイナは腕を高く伸ばした状態からジャンプし、なんとかボールを私に返した。

しかし私が受け取った場所は3Pラインのところだった。


(…入るのかここから。)


時間はなくシュートを打たないといけないが肘のことを考えるとどうしても尻込みしてしまう。

その様子も見透かされているのか、インサイドを固めていたミズキちゃんも私のシュートに対して距離を詰めてこない。


「時間がない!打って!」


アイナは早口で捲し立てるように言った。


(…もうやるしかない…!)


リングに正対し、ボールを両手で持ったまま胸の位置までおろし、いつものシュートより少し高めの弾道になるようにボールを放つことを意識して、両手でシュートを放った。


「入って!」


チームメイトみんなが思わず叫ぶ。

時間がない状況、大きく離されている点差、初めて放った両手でのシュートによる緊張からか、私の耳は普段の試合中よりも速くなっている心臓の鼓動しか聞こえなかった。

リングに到達するまでの時間がものすごく長く感じ、心臓が今にも口から飛び出そうだ。


ボールはバックスピンが生む規則的な模様がかかり、弾道は高く美しい放物線を描きながら、リングに触れることなく吸い込まれた。


リングネットとボールとの摩擦と振動から生まれるパツっ!という音と同時に緊張が解かれると、胸から頭の天辺に向かって電流が駆け上り、武者震いをした。


ゴール裏は相手チームの応援席だったが、こちらに向けて拳を突き出してくる人が視界に入った。


誰かと焦点を合わせてみるとそれはハヤトくんだった。

3Pを決めたことによる高揚感がそのまま私の右手を押し上げ、ハヤトくんを真っ直ぐ見ながら拳を向ける。

ハヤトくんは目があったことがわかると力が入った目で頷いた。


プレイを再開する間もなく、第3Q終了のブザーがなった。


「ヒカリ!」


アイナが近寄ると両手で力強くハイタッチした。


「10点差!追いつくよ!」


チームメイトも歓喜の声をあげながら私に近寄り、ハイタッチしながらベンチに戻っていく。


私はベンチに戻るや否や、みんなに向かって告げた。


「私にパスを集めて欲しい。今決めた3Pシュートの感覚が残っているから、どんどん3P決めていくよ!」


私の声は早口になっており、シュートを決めた後の興奮は醒めやらぬまま、言葉には気迫が乗っていた。

みんなは私の方を向きながら強く頷く。


間違いなくチームとして勢いがついていた。みんなの信頼を一身に受け、私の涙腺は緩んでいた。


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