第2話 再会のコートとかげる憧れ
(やっとミズキちゃんと一緒にバスケができる!)
待ち望んでいた中学生活が始まり、入学式の放課後から早速バスケ部の練習をアイナと覗きに行った。
高まる気持ちが抑えられないまま、慣れない校舎をキョロキョロし、道を確認しつつも足早に体育館に駆けつけた。
まだ練習は始まってなく各々が準備運動をしている状況で、ミズキちゃんは体育館に到着した私を見るや否や声をかけに近寄ってくれた。
「ヒカリちゃん、待ってたよ!今日からまた一緒にバスケできるね、またよろしくね。」
「うん、またミズキちゃんとバスケしたかったよ。」
私は嬉しくて、目の奥が熱くなっていた。
私と手を取り合っていたミズキちゃんは、その後、私の隣を見上げ、アイナと目が合っていた。
「孝橋アイナと言います、よろしくお願いします。」
「月島ミズキです。ヒカリちゃんから話は聞いてたよ。背高くてモデルさんみたい。」
ミズキちゃんは、手の平をアイナの頭に近づけながら言った。
アイナがどういう子か紹介しながらしばらく談笑していたら、遠くの方から、アイナより少しだけ背が高くキリッとした目をした人と、目がにっこりと垂れ下がり、雰囲気が柔らかそうな人が近寄ってきた。
「あ、ミズキと同じミニバスクラブにいためっちゃ上手い子じゃん!」
見た瞬間、ミニバスで対戦したときのゴール下で力強くプレイしていた光景がふとよみがえった。
この人との対戦はすごく苦労していた印象がある。
「オレ、真壁リカ、よろしくね、バンバンシュート決めちゃって!」
目を見て力強い握手をかわした時に、笑顔の中にキリッとした表情に頼もしさを感じ、ちょっとだけイケメンに思えた。
「リカ、圧かけすぎちゃダメだよ。…私は宮田ユウコ、よろしくね。」
(この人もリカさんと同じチームで見たことあるかも…。)
ぼんやりと当時の試合の光景を探っていた。
「今日は練習着持って来た?バスケ部入る予定なら、今日から練習しよ!」
ミズキちゃんの誘う声は溌剌としていた。こうなる展開は予測済みだった。
「もちろん!しっかり持ってきているよ。」
アイナとは事前にすり合わせ済みで、2人で笑顔でバッグから練習着を見せた。久々にミズキちゃんとバスケができると思うと心が高なる。
その様子を見ていたアイナはなんだか安堵の表情をしていた。
◇
(やっぱり、高いな...。)
いつもの感覚でシュートをするとボールはリングに全く届かなかった。
中学校のコートからリングは大人と同じ高さで、ボールも大人と同じボールとなっているため、シュートに使う力がより必要になっていた。
「しっかり、しゃがんでジャンプして、ジャンプの力を上手くボールに伝えないとな…。」
とぶつくさと一人で呟いていたとき、ふとミズキちゃんのシュートの姿が視界に入った。
目をやると、「え…」と固まってしまった。
ミズキちゃんは両手でシュートを打つようになっていた。
その姿を見ると同時に、幼少期からのミズキちゃんのワンハンドシュートの光景が頭の中を駆けめぐり、今とのギャップによって喪失感が心の中で漂う。
私は「何で両手でシュートするの?ミズキちゃんはワンハンドシュートがいいよ。」と声を出しそうになるが、喉元で頑張って止めた。
(ミズキちゃんなりにちゃんと考えてのことなんだろう…)
自分にそう言い聞かせ、ミズキちゃんを尊重しつつも、私は中学校バスケの環境でも、ワンハンドシュートを続けていくことを固く決心した。
◇
入学して2ヶ月後の6月には中総体が始まり、コーチからメンバー発表があった。
「…月島ミズキ、…真壁リカ、…」
と、スタメン(スターティングメンバー)から発表され、名前を呼ばれた人は次々と威勢よく返事していた。
(ミズキちゃんとリカさんは2年でスタメンとかすごいな…)
と思っていたところ、その後はベンチメンバーを読み上げており、最後に「…朝比奈ヒカリ。」と、耳に入ってきた。
「…は、はい!」
予想外にも名前が呼ばれたことで目がギョッと見開いた。
1年でメンバーに入ったのは私だけだった。
「さすが、ヒカリ。しっかり応援するからね。」
横から小声でアイナが称えてくれた。
「うん、試合に出たら、絶対点を決めるよ。」
名前が呼ばれ、心臓がバクバクしていたが、責任感が生まれ、返した言葉の語気は強かった。
◇
中総体では余裕のある試合展開の時に何試合かは出場できた。
いざ試合に出てみるとミニバスとは違い、スピード、体の強さという身体的な差に加え、オフェンスやディフェンス時のチーム内での組織的なルールを覚えることが多く、ついていくのがやっとだった。
「ヒカリちゃん、パスもらいに顔出して。」
「ヒカリちゃん、ボールマンにプレッシャーかけて。」
などと、時折ミズキちゃんが的確に指示を出してくれるし、「ナイシュー!もう一本、もう一本!」と声をかけて奮い立たせてくれる。
小5のときのあの楽しくバスケしていたころの感覚が呼び起こされ、私のプレイは活き活きしていくし、その分シュートの感覚も良く、どんどんシュートを決めていく。
「さすが、期待通り!」
リカさんからは、力強くハイタッチされる。
「痛っ、手痺れたー。シュート入らなくなっちゃいますよ。」
私はわざとらしい困惑した表情で返し、試合中でも冗談を交えた掛け合いができるほど馴染んでいた。
中総体は地区でベスト4という結果に終わり、全国大会出場は叶わずだった。
3年の先輩たちが泣きながらお互いを称えている姿に、グッとくるものがあり、私の目にも涙が溢れていたが、その半面もう来年のことを見据えていた。
次のミズキちゃんの代は小学校で全国大会に出場した人もいて、さらにはリカさんやユウコさんもいる。
(来年はスタメンになって、ミズキちゃんと絶対に全国大会に行きたい!)
そう強く願い、日々しっかり練習しようと誓った。




