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クロスアーチ  作者: nit


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第16話 新しく吹く風

そして、桜伏見高校で2度目の春が訪れた。


晴天の朝曲がり角を曲がると、50mほど先に校門が見える広い一本道は、学生たちで埋め尽くされており、新しい学校生活が始まる高校の門を目指し登校している。

真新しい鞄をもつ生徒も多く、その生徒たちが1年生というのが見て取れて初々しさを感じる。


その中で誰でもすぐに目で追ってしまう一際目立つ子が私の目に飛び込んできた。

真夏のビーチで見られるような、みずみずしく琥珀色の肌をした女の子の後ろ姿が見え、同じように登校している多くの女子、いや、男子ですらも低く感じるほど、頭一つ飛び抜けて背が高い女の子がいた。


(え、背デカすぎでしょ。)


そう思うと同時に、小学校の頃アイナが転校してきたときに、背が高いということを理由にバスケに誘ったのを思い出す。

あれから親友と言い合う仲となり、今も共にバスケをしているなんてしみじみとするものがある。


そして、今日は新入部員が各部活の門を叩く日でもあった。


「どんな子が来るんだろうね、なんか緊張しちゃうな。」


アイナが練習着に着替えながら言う。


「今日めちゃくちゃ背が高い子を見たんだけどさ、190cm近くあったよ。バスケ部にくるかな。」


「え、そんな子入学してきているの?」


朝の様子をアイナに話しながら部室から出ると、遠くの体育館の入口に頭をぶつけないかと気を使いながら入ってくる女子がいた。


「あ、あの子ー!」


見るや否や大きな声が出てしまった。


「でっか。」


アイナも思わず溢れてしまっていた。


コートには男子部員もいたが、その男子のスタメンにも引けを取らない体格でもある。

そして、リカさんも着替えが終わって部室から出てきて、その大柄な子を見るや否や、目を大きく見開いて口がぽかーんと開いていた。


「リカさん、スポーツ留学の子なんですかね?」


「い、いやぁ、何も聞かされていないんだけど…。」


リカさんと同じく、私たちもポカーンとしながら見ていたが、その隣にいた150cmくらいの小柄な子が、大柄な子を先導しつつ、私たちに近づき、軽く会釈して訪ねてきた。


「私たち、バスケ部に入部したいんですけど、着替えはこの中でしたらいいですか?」


少しだけイントネーションが標準とは違う部分もあったので、きっと地方出身の子に違いない。


「あ、ああ、この中で着替えてきて。着替え終わったら、適当に準備運動でもしてて。」


「ありがとうございます。」


入部を希望する2人は会釈し、部室の中に入っていった。


「あの大きな子バスケ部に入る!?」


期待が高まり、私たちは声が大きくなっていた。

その声は他のチームメンバーにも伝わり次第にざわめきになっていった。


部活が始まる時間になり、入部希望の子たちが横に一列に並ぶ。

その中でもあの大柄な子だけ一際高く、他の子は大きくてもその子の肩くらいの身長だった。


「じゃあ、左から名前とバスケ歴を言っていって。」


とリカさんが仕切る。

一番左端の子が緊張しながら、名前を発したその直後、列の真ん中にいるさっきの小柄な子が、「え、ええ!?ウソ!!」と両手で手を抑えながら、大きな声を出した。


「どうかしたか?」


リカさんが、自己紹介していた子に手でストップと指示して、不思議な顔をしながら確認する。


「あ、あの…、もしかしてかなぁと思ったんですが…モデルのアイナちゃんですか?」


急に質問されたアイナは虚を衝かれ、びっくりした様子だった。

アイナは一応事務所には籍を置いてはいたが、ここ1年くらいほとんどモデルの活動をせず、バスケを優先していた。


「あ、はい、そうですが…。」


他の1年生は、「あ!」と気づいた顔にもなっている子もいたが、周りの反応は小さかっただけに、あの小柄な子の大きな反応が異様に目立った。


「えー、うそ!うち、芸能人に、会ってみたかったっちゃん!引っ越してきて良かったたい!」


どうやら感情が昂ると方言が出るようで、一人で舞い上がっている。


「あ、うち、春日アオイといいます!アイナちゃんのことずっと雑誌で見てました!」


そう言いながらアイナに近づき、握手を求めて手を差し出してきたので、アイナは苦笑いしながら、手をそっととって握手する。

アオイは「キャー!」とさらにテンションが上がり甲高い声と共に飛び跳ねていた。


「アオイちゃん、嬉しい気持ちはわかるけど、自己紹介は順番に、先輩たちみんなに向かって言ってね。」


アオイの勢いに圧倒され、戸惑っていたリカさんの代わりに、ユウコさんが冷静になだめる。


「すみませんでした!」


アオイは会釈したあと握手した手を胸に抱き、さっきの握手の感触を大事にしながら、元の位置に小走りで戻っていった。


そして、自己紹介は再開され、一際目立つ大柄な子の番になった。


「…鳴海・Lucy・ノリコと言います。」


Lucyの部分はネイティブの発音で聞き取りづらかったが、ハーフの子だというのがわかる。


「バスケはDadが好きで、遊びでやってたくらいです。初心者ですが、よろしくお願いします。」


ゆっくりとおっとりとした口調から優しい子のように思える。バスケは初心者というが、逸材であるのは間違いない。

強豪校の中には、同じように190cmほどの背丈があるスポーツ留学生もいて、コート内で対峙すると脅威である。

リカさんがいつも必死でマッチアップしているので、その負担が減るだけでも心強い。


続いてすっかりお騒がせキャラになったアオイの番になった。


「改めまして、うちは春日アオイです。小学校からバスケやってました。ノリちゃんは同じクラスだったので、バスケに誘ってみました。よろしくお願いします。」


「ノリちゃん…。」


在校生の私たちはなぜだか思わず呟いていた。

私たちの意識はこの高身長で一際目立ちつつ、さらにLucyの発音もあり、この子にだけ注意を持っていかれていた。

その中でノリちゃんという呼び名がやけに耳障りが良くしっくりきていた。


(アオイのファインプレイだな。)


私が校門の前で初めて見たあのときに声をかけて、バスケ部に誘おうかと思っていたのだが、アオイが声をかけていたなんて。

そして、私がアイナを誘ったことを思い出し、アオイに対して妙な親近感を持った。


全員の自己紹介が終わると早速練習に入った。

この日の練習はインターハイが迫っていたため、スタメンを中心に、戦術のチェックなどを中心に練習していたが、最後の時間は、1年生の腕試しを兼ねた、新入生対在校生で試合をした。


注目のノリちゃんは、これまでの練習の様子を逐次チェックをしていた。

バスケは遊びだけとは言っていただけに、ドリブルやハンドリングなどは不慣れではあった。

また、あまりスポーツはしてきていないのだろう、スピードやスタミナは他のメンバーより大きく劣る。

しかし、ダッドとの遊びの賜物かゴール下のシュートはそうそう外さなかった。

まずはゴール下のプレイを鍛え上げられれば、試合でも十分に活躍できるプレイは望めそうだった。


そのノリちゃんとお騒がせのアオイが組む1年生との試合が始まった。

ティップオフはリカさんとノリちゃんで行ったが、リカさんは10cmほど身長が低いにもかかわらず、先に触り私に向けてボールをタップした。


私はボールを受けるとすぐにリングに向かって全速力でドリブルするが、反応していたアオイが並走して横からプレッシャーをかけてくる。


(私より速いな…。このままだと前を塞がれそう。)


右斜め45度からペイントエリアに侵入する直前で、私は急ブレーキをした。


アオイは「ここで止まるの?」という驚いた表情をしており、私に合わせて止まることができず、対応が遅れる。

遅れた分の距離は開いたが、アオイの速さを考慮して、ブロックが届かないように念のためステップバックして、ワンハンドでミドルシュートを放つ。

ボールは綺麗な放物線を描き、リングに当たらず吸い込まれた。


「え!先輩、うまっ!」


アオイの口から思わずこぼれていた。

私はこれくらい当たり前よという雰囲気を醸し出して、アオイにプレッシャーをかけた。


次の在校生チームのオフェンスでも、私がボールをもつと、アオイがマークについてきた。

ワンフェイク入れてドライブしようとしたが、アオイの方が速くかわしきれない。

だけどミドルシュートが放てる位置までドリブルを切り替えしながら押し込むと、最後は右にステップし、体が流れながらもジャンプシュートを放つ。


反応したアオイはブロックするため、手を伸ばし急いでジャンプした。

アオイは私より10cmほど背が低いが、ジャンプ力に自信があるのか止められそうな気迫を醸し出していた。

しかし、ボールに触れることなく私が放ったボールはリングを潜った。


「届きそうだったんだけどなぁ…。先輩のワンハンドだとリリースまでが速くて、高く感じるなぁ。」


アオイは悔しそうな顔をしていて、スローインから再開しようとする味方に向かって、「ボールちょうだい!」と要求した。

心の中ではメラメラと燃えるものがあるのだろう。

アオイは自分でボールをフロントコートまで運び、負けじと私に1on1を仕掛けてくる。


ドライブしてくるのを読んだ私は抜かせまいと、サイドステップを素早く踏み、体を当てて進路を塞ぎ対応した。

私からのプレッシャーに臆せず、アオイはドリブルしながらも、顔を上げてキャロキョロと味方の位置を確認している。

背が低い上にさらに低い位置で細かくドリブルするものだから、一向にボールに手が出せない。


そしてアオイは今だと思ったのか、ドリブルから右手でワンハンドでパスを出そうとした。

私にはそのプレイは想定の範疇であったため、なんとか手を伸ばしてパスコース上に手を出せた。

しかし、フェイントだったのか、アオイは左手にボールを切り替えて、私の右脇をドリブルで擦り抜けていく。


(え、うそ!?あそこまで右手を動かしたら普通パスになってるんだけどなぁ…)


私をかわしたアオイはペイントエリアに向かうが、ゴール下ではリカさんが待ち構えていた。

しかし、上手くディフェンスを釣り出せた形になり、最後はフリーでゴール下にいたノリちゃんにパスをして難なくシュートを決めていた。


そこから5分ほどは、5対5の試合だが、私もアオイもPGとしてチームをコントロールしているせいか、私とアオイの1on1が続いて、互角の戦いを繰り広げる。


アオイにディフェンスで対峙すると初めて受ける感覚が続いた。

特徴的なのがフェイントで、本当にそのプレイをするかのような勢いなのだが、ギリギリのところでプレイを変える力がある。

私のフェイントは”フェイント”としてプレイをするのだが、アオイのは本当にそのプレイをしようとしたが、防がれるとわかると、違うプレイに切り替えている感じだ。


私たちのオフェンスになり、私はボールをフロントコートに運びつつ、アオイのオフェンスに対抗するために特徴を分析していた。


(アオイは最後の最後まで相手の動きを見ている…。しっかりボール以外を見れるほど、ボールコントロールにも自信があるし、さらには、直前でプレイを変えれるくらい体に無理が利くんだろうな…)


頭の中がアオイの分析で埋め尽くされている中、リカさんの声が割り込んできた。


「おいおい!1人でばかりプレイするんじゃないよ!」


今までの分析が脇にさっと退いていき、全体を見渡す視野になった。


「ごめんなさーい!」


私はいずれ怒られるのは承知の上でアオイに挑んでたこともあり、もうここがわがままなプレイの限界だと思い、少し茶目っ気のある口調で返した。

それからは、ミズキちゃんから教わったPGとしての立ち振る舞いでチームをコントロールした。

すると、見る見る点差がついていった。


1年生との試合も終わり、ノリちゃんとアオイのプレイには目を見張るものがあった。

試合を通して1年生チームで1番に活躍したのはアオイで間違いない。


ノリちゃんも、リカさんよりパワーがあるのか、ゴール下で押し込まれることはなかった。

それにあの高さから繰り出されるシュートもアイナをもってしても手こずっているようだった。


もう目の前にまで迫ったインターハイに向けて、この2人の大きな収穫と共に期待が高まり心が躍る。


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