第14話 共に再開する針路
ハヤトくんが惜しくも出場を逃したウィンターカップを私は家のテレビで観戦していた。
来年からは私も出場を目指すこの大会も他人事のように感じられず、冬休みということもあり、多くの試合を食い入るように見ていた。
自分と特徴が似ている選手を見つけては、自分がそのコートに立って同じプレイをするイメージをする。
ただし、私が活躍するイメージを膨らませることはできるのだが、一緒にプレイしている味方の顔はぼやけてしまう。
いつもなら、ミズキちゃんを思い浮かべるのだが。
大会が終わるとすぐに大晦日がやってきて、あっという間に年が明けた。
私立高校の受験はもう目の間にやってきているが、正直進路については明確にここが良いという高校が見つかっていない。
私立高校は自分の学力でも受かりそうで、バスケが強い高校をとりあえず選んで願書を提出した。
◇
冬休みも終わり、3学期がスタートした。
みんな受験に向けて必死に勉強をする姿を見せていたが、そもそも進学したい高校が定まっていない私はどこか集中し切れずにいた。
「ヒカリ、今日ファミレスいかない?」
始業式が終わり、みんなが帰り支度をしている中、少し緊張した様子で近づいてきたアイナから誘われた。
「うん、いいよ、いこう。」
帰って勉強するくらいしか予定がなかった私は、ふたつ返事し、早速ファミレスへ向かった。
以前と違い、今日は近場のところで、道中はSNSでの流行の話をしていた。
ファミレスにつき、席に案内され着席したところで、アイナは口火を切った。
「ヒカリは、どこ受験するか決まった?」
「うーん、一応私立は受かりそうなところ出したんだけど、公立はまだ決まってないんだ…。」
そう言いながら周りを見ていると、参考書を広げながら勉強している学生が多く、進路が定まっていないことに焦りを感じる。
「実はね、今日ヒカリにちゃんと話しておきたかったことがあったんだけど…」
そう言いつつ、緊張している様子で水を一口飲んだ。
「…私、高校でしっかりバスケをやりたいって思ってるんだ。2年生の冬休みの時、ミズキちゃんと、リカさんとユウコさんとチームを組んで試合したでしょ。あの時、すごく楽しかったんだ。」
私はあの時のアイナのことを思い浮かべた。確かにあんなに活き活きしてバスケしていたのは初めて見たかもしれない。
アイナは私の目を見つつ、時折、下に目線を落としたりしながら、慎重に言葉を選びつつ、あの試合がいかに自身にとって大きく影響を受けたかアイナは熱く語っていた。
そして、熱を帯びて周りが見えなくなってしまったのか、急に立ち上がっていた。
「…だから、私はバスケをやりたいんだ。…ヒカリは…バスケ続けるの?」
「うん、やるよ。」
即答した私が意外だったのか、目の前のアイナはきょとんとしている。
「あれ?アイナ、どうしたの?」
「え!?あ、うん、やろう一緒に!」
アイナはそう言うと同時に緊張から解放されたのか、ストンと腰を落とし、椅子の背もたれに勢いよくもたれかかり、「はぁ。」と大きく息を吐いて続けた。
「いや、てっきり、ずっと落ち込んでいて、バスケも一切やってなくなっていて、『バスケはもうやらない』ってなってたのかなぁって思ってたの。」
アイナは天井を見上げながら言っていた。
「心配かけてたね、ごめんね。」
私は優しいトーンと笑顔で返し、続けた。
「ハヤトくんの試合を見に行ったんだけど、その時に吹っ切れたんだ。もちろん高校でもミズキちゃんとバスケしたかったけど、バスケ自体が好きなことに改めて気付いたんだよ。」
その日どういうことが起きて、またバスケしようってなったかを話していった。
それを聞くアイナからは安堵の表情が見て取れた。
「…そうだったんだね。よかったぁ、またバスケしようってなってくれて。私からバスケ誘っても、響かないんだろうなって思ってたから…。」
「すごい熱弁していたね。」
私はニヤニヤしながら言った。
「やめてよ、すごく何言うか考えて練習もしたんだからね!」
アイナの頬は赤らんでいた。
「でも役者としてはまだまだかもね、よくセリフつっかえてたし、棒読みな感じもあったし。」
「役者に転向とかしません!」
アイナはますます恥ずかしがり、頬はより赤みを帯びていく。
膨れっ面をしながらも、目には涙を浮かべていた。
そして、少し落ち着いた後、アイナは口を開いた。
「…それでね、私、桜伏見高校に行こうと思ってるんだ。リカさんやユウコさんも通ってるんだよ。」
「あ、そうだったんだ。公立の高校にしては、バスケ強いよね。」
「うん、またみんなと一緒にバスケしたいからヒカリも受けようよ!」
あの時のチームのことを思い馳せた。もうミズキちゃんはいないが、あの心地よさには何度も浸りたい。
「うん!私もみんなとまた一緒にバスケしたい。」
「決まり!残り時間ないから、しっかり勉強して、必ず一緒に合格しようね!」
「うん!」
アイナは笑顔になっていた。
さっきまでの涙目とは打って変わり、アイナの大きな目は最大限の笑顔によって閉じられていた。
「それでさ…。」
アイナはテーブルに体を乗り出してニタニタとした顔で話を切り出す。
「ハヤトくんとはどこまでいったの?」
「え?」
急にこそばゆくなるような話題が飛んできて、私は挙動不審になる。
「手握ったんでしょ?ヒカリから。その次は何したの?」
その当時のやりとりや、手の温もりを思い出して急に恥ずかしくなってくる。この恥ずかしさを振り払うように声が大きくなる。
「何もしてない!」
「えー、本当に?でも、ハヤトくんのこと好きなんでしょ?」
「ち、ちがう!そんなんじゃないんだから…。」
否定しきれず、語気が尻すぼみになる。
名前を挙げられてしまうと、顔や姿を思い出し、余計に恥ずかしくなり顔が熱くなってくる。
「あれれ、なんで、顔が赤くなってきてるのかなぁ。…図星だ!」
「だから、何もしてないの!…この話はここで終わり!」
「いやだ、次は私が攻める番なんだから!」
「だめだめ、男子にかまけているほど、私たちは受験で余裕はないでしょ?」
私はキリッとした表情で、アイナに手のひらを差し出し静止する。
「そうやって逃げないの!」
「さあ、べんきょうべんきょう。」
「もう!」
終始笑顔がこぼれる。こんな調子でまた自然とアイナと話せるようになって良かった。
それから受験の当日までは桜伏見高に受かるよう2人で一緒に勉強し、2人とも無事に合格を勝ち取った。
桜の花びらが舞う4月、私とアイナは晴れて桜伏見高の校門をくぐることができた。
◇
「よっ、待ってたぞ。」
「いらっしゃい、ヒカリちゃん、アイナちゃん」
高校バスケの部活の初日、早速、リカさんとユウコさんが温かく迎え入れてくれた。
引退してから体育館でバスケをしたことがなかったので、体育館でボールを弾ませる音や、使い込まれたバスケットボールの匂いなど、初めて足を踏み入れた体育館ではあるが、懐かしさも感じた。
リカさんは入学してすぐにでもレギュラーを勝ち取っていて、そのリカさんから私たち2人は期待の新人という紹介をされていた。
3年生のキャプテンからは「期待しているよ!」と早速プレッシャーがかかる。
アイナは引退後も体力作りは継続していたようで、体力面は落ちておらず、高校の練習にもしっかりついていけていた。
対照的に私は何もしていない期間が長かったため、とはいっても、今年に入ってからは体力を付け直していたが、久々のハードな練習で、インターバル走のあとにごろんと床に倒れこみ、大の字に寝そべってしまった。
「ほら、頑張れ!期待の新人!」
リカさんは真上からにんまりとした表情で私の顔を覗き込む。
「はぁ、はぁ、リカさん…やめてよ…そんな言い方。はぁ…はぁ…」
「頑張りましょう、ヒカリちゃん。休憩したら次は3対2のオフェンス練習よ。」
ユウコさんがしゃがんで優しく励ましてくれる。
飴と鞭のコンビだけど、中学校から変わらない2人の先輩との練習は懐かしさを覚え、込み上げてくるものがある。
(アイナも、リカさんも、ユウコさんもこんな私でも期待してくれてるのは嬉しいな。こうしてまた一緒にバスケができて良かった…。)




