第11話 望まぬ敗退
練習試合が終わり、私とミズキちゃんは片付けなどで最後になり、2人で帰ろうとしていた。
体育館の扉を開けると、冬の冷たい空気が一気に肌に刺さった。
それと同時に、もう日が沈みそうで綺麗なオレンジ色の夕焼けの景色が目の前に広がっており、この空に包まれながら帰路に着いた。
「今日の練習試合は楽しかった。やっぱりみんなとバスケすると楽しいよね。現役で試合していた時のこと思い出しちゃった。」
ミズキちゃんは高く跳ねるような声で話していた。
しかし、私は実力の差を目の当たりにし、今後私たちが勝つためにはどうしたら良いかという考えに耽ていた。
すると、ミズキちゃんは低く慎重な声で発した。
「…今日で練習に顔を出すの最後にしようと思ってるんだ。」
「え…。」
さすがにこの言葉は耳に入った。
「受験勉強に集中しようと思うんだ。もちろん、今までも勉強しているけど、もっとがんばろうって思ってね。」
「……そっか、残念だな。もっとバスケを教えて欲しかったな。」
「ごめんね。」
「ううん、受験がんばってね。」
ミズキちゃんの眉は下がり、寂しそうな表情をしながら頷いた。
(これでまたしばらくミズキちゃんとバスケできないんだな…。)
高校でまた一緒にバスケをすると考えると1年以上はお預けになる。
中学校のバスケ部に入った頃、ミズキちゃんとまたバスケできたときの高揚感を思い出すと感慨深くなる。
少しの間思い出に浸っていたが、今まで聞くことがなかった疑問がふと浮かび、口からこぼれた。
「…そういえば、聞いてなかったけど、どの高校を受験するの?」
そして、ミズキちゃんはまた低い声で丁寧に伝えた。
「…国立第一高校を受けようと思っているんだ。」
「え………。」
冬の寒さも相まってか、私の頭はフリーズした。国立第一といえば有数の進学校である。
私の学力では到底届きそうもない。
(…もう一緒にバスケができない…?)
しばらくフリーズしていたが、徐々に解氷され思考ができるようになってから、なんとか、口に出すことができた。
「…ミズキちゃん、バスケ上手いんだから、バスケが強いところ行こうよ…!」
なんとかして繋ぎ止めたい思いで、声に力がこもっていた。
「実際バスケ推薦の話をもらっていたんだけど…。でも、私、医者になりたいって思ってるんだ。」
すがるような目をしている私に対して、ミズキちゃんは私を諭すように続ける。
「ヒカリちゃんや、私のお兄ちゃんが怪我したとき、…特にヒカリちゃんは苦しんでいたから、私、治してあげられるとどんなにいいんだろうと思ってた。それに、お兄ちゃんの場合練習しすぎでしょ、世の中多くの人がもっと練習したいのにできないって、同じように苦しんでるんじゃないかなって思ったの。」
ミズキちゃんは真剣な表情から笑顔を私に向け続けた。
「もっとみんなにバスケを、スポーツを、元気に楽しんで貰いたいなって思ってるんだ。子供から高齢者の方まで生活の一部としてスポーツが側にあるといいなって。」
さすがミズキちゃんだ。将来のことも考えているし、みんなのことも考えている。
そういうミズキちゃんだから、私はずっと慕っている。
だけど、今は私のことでいっぱいで、ミズキちゃんを応援したい気持ちが心の奥にどんどん押し込まれていく。
「…嫌だよ。嫌だよ!私と一緒にバスケしようよ!」
私は子供のように駄々をこねていた。
「もちろん、高校でもバスケは続けていくよ。バスケなしじゃ考えられないよね。」
ミズキちゃんは視線は合わせずも微笑みながら伝えてきた。
そう返されるとすぐにでも私はミズキちゃんの正面に立ち、両手で肩を掴み歩みを止めた。
涙を浮かべながらミズキちゃんの目を見て訴える。
「私は一緒のチームでやりたいの!一緒にまた全国大会に行きたいの…!…なんで…なんで!」
肘を怪我する直前、ミズキちゃんの言うことを聞いていれば、私も一緒に全国大会に出られたかもしれない。
この後悔が今の辛い気持ちを増幅させていき、私は幼児のように泣きじゃくってしまった。
幼い頃から私のことをずっと見てくれていたミズキちゃんは、この光景をよく目にしてきたであろう。
「…私、怪我した時に…ミズキちゃんが支えてくれなかったら、バスケ…止めてたかもしれない…!PGのことを教えてくれて、バスケの楽しさを…もっと教えてくれたのはミズキちゃんだよ…。ミズキちゃんなしじゃバスケできない!」
嗚咽混じりで途切れ途切れになりながらも必死で伝える。
すると、私はミズキちゃんに体を引き寄せられ抱きしめられた。
小さい時もよくこのようにされた反射なのか、わんわんと声に出して泣き始め、嫌だ嫌だとただ声をあげていたところを、「うん、うん」「ごめんね」と良いながら、頭をぽんぽんされた。
これも小さい頃からされていたからか、徐々に落ち着きを取り戻し、ミズキちゃんから離れた。
私の顔は間違いなくぐしゃぐしゃになっているであろう。
ミズキちゃんには見慣れている顔だろうが、私はその顔を見せたくなくそっぽ向きながら、家へ向かって歩き始めた。
先ほどまで綺麗な光景を映し出していた夕日はすっかり沈み、辺りは暗くなっており、お互い沈黙のまま歩いていた。
しばらくしてミズキちゃんと別れるT字路に着いた時、私は僅かながらにあった気持ちを振り絞って言った。
「…国立第一受かると良いね。…応援してるよ。」
「ありがとう、しっかり勉強がんばるね。」
ミズキちゃんの目尻は下がっているように見えたが、優しい笑顔で返してくれた。
◇
冬の新人戦が始まったが、昨年の準優勝の結果が嘘のように、2回戦敗退とあっけなく終わってしまった。
私には悔しいとかもっと頑張ろうという感情がなく、ただ試合をこなしていた。
試合中は、勝利を目指すという意識はしているのだが、如何せん気持ちが乗っていないと、こうも簡単に負けてしまうんだということがよくわかった。
次の大会である中総体に向けて、気持ちを切り替えながら日々練習していたが、練習試合で負けてしまうと、口では頑張っていこうとみんなを励ますが、いざ試合をすると気持ちが伴わずにミスを連発する。
そして自信もなくなり、さらに負けていくという負のループに入っていく。
これが負け癖というものなのかとも思い、スポーツはメンタルが大事だなというのが身に染みてわかった。
冬休み前の3年生とシャッフルして組んだ最後の練習試合は、誰もが気持ちを乗せてプレイしていたし、誰もが点を決めるという自信を持っていただろう。
(またあのようなチームでプレイしたい…。)




