【結婚の挨拶編②】
「ねぇ…美咲、ちょっと聞きたいんだけど…」
「ん?」
「美咲って、弟さんとかお兄さんとか…いる?」
「え?いないけど?」
「……えっ。」
一瞬、翔太の頭が真っ白になる。
「じゃ、じゃあ…あの部屋って…?」
「部屋?あぁ、あそこお父さんの書斎だよ。」
「……えええええ!?お義父さんの!?」
衝撃を隠しきれない翔太。
目の前の無表情・無口・重役の剛と、あのオタク部屋がどうしても結びつかない。
剛が再びメガネの位置をクイッと直すのを見て、翔太は確信する。
(やっぱりあのアニメのコラボメガネだ…間違いない…)
その時、剛が突然立ち上がり、翔太をじっと見下ろす。
「お前…何をそんなに動揺している?」
低く、抑えた声。だが、そこには何か言いようのない圧力が込められていた。
「い、いえ!なんでもないです!本当に!ただ…その…緊張してまして…!」
翔太の声が裏返り、剛は無言で視線を外す。
「そうか。」
またしても一言。だが、その一言がなぜか翔太の胸に重く響いた。
知らなくていいお義父さんの秘密を知ってしまった翔太。
その事実を誰に話せるわけもなく、心の中に封印するしかなかった。
そして、剛の無表情な視線が自分を貫くたび、翔太はこう思うのだ。
(この人は…俺が知ったことを、どこかで気づいてるんじゃないか…?)