【第1話】桜舞う日にプロポーズ、お義父さんに挨拶に行く
風が優しく吹き抜ける河川敷。
桜の花びらが舞い、地面にふんわりとピンクの絨毯を広げている。
春の陽射しは柔らかく、少しだけ甘い空気。
僕らの季節が、ゆっくり動き出す。
「美咲さん。」
目の前に座る彼女は、少し驚いた顔をした。
僕はコートのポケットから、小さなリングケースを取り出す。
「ずっと……一緒にいたいんだ。」
手を震わせながら蓋を開けると、春の光を受けてリングがきらめく。
美咲の目がふわりと潤む。
「私で……いいの?」
「君じゃなきゃダメなんだ。」
風に乗って桜の花びらが舞い落ちる。
美咲の肩にも、僕の手にも。
「嬉しい……」
彼女は微笑んで、小さく頷いた。
「これからも、よろしくね。」
僕はほっと息を吐き、美咲の手をぎゅっと握る。
でも、その安心も束の間。
「それでね……」
美咲が少し申し訳なさそうに、でも覚悟を決めたような顔で言った。
「今度、パパに会ってほしいの。」
「う、うん。」
予想はしていたけれど、いざそう言われると背筋がぞわっとする。
柔らかい春風が、一瞬だけ冷たいものに変わった気がした。
「パパ、ちょっと無愛想で怖いけど……きっと大丈夫だよ!」
満開の桜の下、彼女の笑顔は変わらず暖かい。
でも、僕の心にはひとつの不安が芽吹いていた。
(結婚って、相手の家族とも結ばれるってことだよな……)
僕らの春は、まだ始まったばかり。
美咲の父との出会いが、これから訪れる様々な出来事を経験する事になるとは知る由もなかった。
(春の風よ、どうか僕を守ってくれ……)