カジノにて
何の気なしに書いた話です。
カジノのディーラーをしていると。
いろんなお客を見る。
負けても負けても毎日のようにやってくる客。
ほどよく負けてほどよく勝って帰る客。
一喜一憂する客を見て酒のつまみにする客。
全てをかける客。
キラキラと照明で明るくしているが、
人の心のなかは、黒く汚れている。
負けてイカサマだと叫ぶ声が聞こえてくる。
またか。
イカサマはだめだ。
しかしそれは、イカサマが証明されたらの話だ。
そんなへまをする輩はいない。
それにイカサマ師は店側で把握している。
店の信用に関わるのでちゃんと見張っている。
耳だけ意識を向けて、目線は手元のまま。
「プレイスユアベット」
客がそれぞれチップを置いていく。
黒1
サードコラム1
オッド1
サードダズン1
アウトサイドベットだから当選率は高め。
全員何度か来たことのある客。
初心者ではないが、俺の卓にきたのは初めてか。
「スピニングアップ」
ウィールをまわして、ボールを。
……。
よく回る。
我ながらきれいにボールがまわってくれる。
追加も変更もなしか。
「ノーモアベット」
右手を左から右へ卓の上をすべらせる。
……。
…………。
「ブラック17」
「よし」
「あー……」
倍率に合わせて配当していく。
この繰り返し。
毎日毎日飽きもせず客が来る。
常連になると決まったディーラーの卓にいく。
俺の常連も後ろで待っている。
この四人は他の卓でそうだったが、大きく負けはないようにしている。
そのうち手持ちが減ってきたら帰るだろ。
「お嬢さん。君のような娘さんがいるような場所じゃないよ」
次のベットにうつろうとしたところで、耳にはいってきた声は、要注意客の声。
女性客に声をかけては、しつこく誘い、店にクレームがはいっている。
出入りを制限すればいいのに。
と俺は思うけれどまぁオーナーの決めることだ。
口出しはしない。
「おじさま。一人でいかないでといつもいってるでしょう。私も連れてと、お願いしているではないですか」
かわいらしい少女ではある。
確かにこんな場所には似つかわしい。
男にたいしてはフル無視か。
大きな声ではなかったけれど、目立つ少女に、内容が気にかかるものだから、不自然に客が黙る。
かけよった先は別のルーレットの卓。
「君のような女性が来るところではないという彼の言葉は正しいよ」
「それでも、あなたのそばを離れないようにと母から言われています」
返事をした男は……盲目か?
視線を一瞬向ける。
客も意識がそちらにいってるから、卓上でのマナー違反はない。
「これで最後にして帰りましょうか。君がかけてください。インサイドベットです」
それなりのチップがつまれている。
「……では、19にオールイン」
……まじかー。
オールインって。
聞こえていた客がざわついた。
俺の卓の客もそっちに目をむけている。
……まっすぐウィールを見ている。
……結果。
強気な少女の賭けに他の客も触発されたのか、それぞれがかなりの額を賭けている。
まぁそれでもオールインをする男前はいないと。
ルーレットは分かりやすい。
ボールがどこに落ちるのかを当てる。
それだけといえばそれだけ。
36の数字。赤と黒。0の緑。
賭け方はいろいろあるけれど、単純にひとつの数字に賭けるのは確率として低い。
そこにオールインか。
チップ一枚の額からして……ざっとそれぐらいか。
ボールの音に耳を傾けている。
……コンコンコン。
「レッド19」
瞬間雄叫びと拍手。
ディーラーが流れる手付きで配当していく。
「さぁ、帰ろうか」
杖をつく男に少女は腕をさしだし、半歩前を歩く。
「ディーラーさん。チップを運んでくれませんか」
「承知しました」
卓のディーラーが入れ替わるか。
……あーちょうどいいな。交代のタイミングだし。
「まっ! まってくれ! その女だ! イカサマしたのは!」
叫び声がした。
この声はさっきイカサマだと騒いでいた声とおなじ。
「この女はポーカーでイカサマしたんだ!」
暴れる男をどうにか押さえようとしているが、少女にじりじり近づいている。
「ポーカーをしたんですか?」
「誘われました。ポーカーで勝ったらホテルへと。私が勝ちましたので、丁重にお断りしておじさまを探しました」
「そのチップは?」
「すでに換金して持ってもらっています」
目線の先に鞄を抱えた黒服。
「イカサマをしてない。そうディーラーさんが証明してくださっています。正真正銘。あなたの敗けなのです」
盲目の男性と話していた声とは一転して。
ひどく冷たい声。
聞こえてきた方にある卓で考えれば、あの人がしている卓だろうな。
それなら、イカサマがないというのは大きな証明。
店で一番の目利きだから。
「むやみやたらに女性の髪に触れないでくださいね。汚れるので」
その言葉に男性の指がピクリと動いた気がした。
「帰りましょう。十分でしょう」
ふわりと笑って二人は帰っていった。
あとから聞いたが、あの二人の勝ち金額はあの日一番だったらしい。
ルーレットでの額もなかなかだが、ポーカーも負けず劣らずだったようだ。
少女の賭けが次の日もその次の日もしばらく話題となったけれど、二人は二度と現れなかった。
と同時に、イカサマだと騒いで男も、セクハラのしつこく誘う男も見なくなった。
代わりに警察がやって来た。
「この二人組を見なかったか。赤みがかった長い黒髪に、透き通るほど白い女性と柔らかい空気の中年男性なのだが」
見せられた写真はあの二人だった。
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おじさま。
「なんですか?」
あの二人、どうしておじさまの手で?
私がしましたのに。
「君を汚したんです。綺麗にしないと」
……上書きされたじゃないですか。
「足りませんよ。存在すらしてはいけません。それに君をお嬢さんだなんて。立派な女性にたいして失礼でしょう」
幼く見られるのは慣れています。
「それだと犯罪になりますから。僕が」
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警察は二人の行方を探しています。
この二人は、各地で犯罪をおかしており、今回の二人の男性の死にも関与していると考え、捜査中です。
この二人、どこ行くんだろう……。




