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終活

毎日が愛しい。今までも精一杯生きてきたつもりだったけど、ミミと過ごす毎日はとてもキラキラしていた。

もしかして私って……寂しかったのかな?

一人の時間がないと息が詰まりそうって思ってた。

自分のタイミングで動ける生活が好きだった。

誰かと二人三脚なんて、上手く歩ける筈がないと思う私は結婚には向いていないと思ってた。大学生の時、彼氏が一人暮らしの私の部屋に転がり込んだ時も、好きな人と一緒に居られて嬉しいと思う反面、面倒だとも感じていた。


病気になったからかな?この心境の変化は。それとも私の本来の姿なのかな?


でも変わったのは私だけじゃない。


「おばさんが午前中、色々と忙しそうにしてるから、俺も午前中だけ働こうかな」


「は?いつも寝てるくせに?」

と言う私に、


「起きようと思えば起きられるよ!」

とミミは反論した。


「でも何で?お金の心配ならいらないよ?」


「女に養って貰ってるのって……ヒモじゃん」


「ヒモねぇ。別に付き合ってる訳じゃないから、保護者と息子って感じじゃない?」


「息子じゃねぇし」


「知ってるよ。例えだってば。とにかく、別に働かなくて良いよ。それに私も手続きとかはそろそろ済みそうだし、構って欲しいならいつでも構ってあげるよ?」

とからかう様に言えば、ミミはとても不機嫌になった。うーん……怒らせたかな。


「午前中だけ働いたって大した金にならないのはわかってるけど、少しは返したいんだ」

怒ってるわけじゃなかったみたいだ。


「じゃあさ、この家のモノをネットで売ってくれない?」


「売るの?全部?」


「売れるモノはね。あ、推しのうちわだけは取っておいて!私が死んだら花の代わりに棺桶に入れて欲しいから」

と言う私にミミは呆れたような視線を寄越した。


私はそんな彼の視線にめげず、


「売れないモノは捨てちゃおう。あ、粗大ごみってどうやって捨てるんだったっけ?」

と私は市報をパラパラと捲った。

私の手の中の市報をミミはパッと奪い取ると、


「俺がやるよ」

と一言私にそう言った。



『終活』


遺してあげなければならない身内もいない。私はどんどんと物を片付けていく。残された時間は少ない。毎日楽しいことだけをしようと思っていたが、そうもいかない。

人間が一人居なくなるという事の後始末とは、結構大変なものだと実感する。

確かに、母を見送った時もそう思ったが。



「不動産会社?」


「うん。家を売ってしまって、そのまま賃貸として住むの。リースバック?だったかな」


不動産会社がこの家の査定に来る事を告げると、ミミはそう問い返した。



「ふーん。何にも遺さないんだな」


「うん。家ってさ、人が住まなくなったらすぐ傷んじゃうでしょう?取り壊すのにもお金がかかるし親戚に迷惑かけらんないもん」


「何か、俺の知らない事ばかりだ」


「人が死ぬって……不思議だよね。自分にとって、めちゃくちゃ大切な人だったとしても、その人が亡くなったって世界は何にも変わらないの。朝、日が昇って、夜、日が沈む。そこには変わらない一日がやってくるんだよね。

あ、その人が有名人……ってのはまた別の話ね。それは多くの人に影響しちゃうから。でも、私みたいな普通の……誰でもない誰かが死んでも世界は変わらないんだよ。

父……は物心つく前に亡くなってたけど、母が亡くなったのは数年前だからね。その時に強く思ったんだ。……あぁ、私の大切な家族が亡くなっても朝テレビを点けたら朝のワイドショーをやってて、夜になるとクイズ番組やっててさ。……何か不思議だな……私はこんなに悲しいのにな……って」


「でも、その人に関わった人にとっては……少なくとも影響あると思うよ。その程度は……人によるだろうけど」


「……そうか。そうだね。でも日々の生活に紛れていつか忘れられちゃうのかもね」

と言う私の声も小さかったが、


「俺は忘れないけどね」

と言うミミの声はもっと、もっと小さくて、私はその意味も含め聞き返す事は出来なかった。



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