表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

最後の告白

俺は自分のアパートに帰った。


ここに、あの日……俺があの人に出会った日。それ以来帰ったのは、葬式前に、喪服代わりのスーツを取りに来た日だけ。


約三ヶ月半。すっかり存在を忘れられた俺の部屋には黒いボストンバッグが置いてあった。


「やべぇ。これ……どうしよう」


病室から持って帰ったあの人の荷物。ついここに持って帰ってしまった。


俺はそのカバンをゆっくりと開けた。


流石に女物の下着やパジャマを俺の家に置いとくのもな……。だからといって捨てる気にもならない。

あの家の鍵はまだ俺の手の中だ。あそこもちゃんと片付けなきゃ。


まだまだ結構やることあるな……。でも忙しくしてる方が、英二さんの言っていた例のガツンと来る日を先延ばしに出来るかもしれない。


俺はふと、そのカバンの底に白い物を見つけた。……封筒か?

それを取り出して見ると、少し震える字で『ミミへ』と書かれている。


くそっ。やられた。俺がこれを見つけるのも見越されていたって訳か。

ってか、残すなよ……手紙なんか。ガツンって来るかもしれないじゃんか。


俺は恐る恐るその封筒に入っていた紙を開く。

そこには一言


『ねぇ、私、笑ってた?』

って書いてあった。


俺は泣いた。その手紙を抱き締めて、声を上げて泣いた。

壁の薄いアパートで、苦情がくるかもしれないけど、構わず泣いた。息が苦しくなるほど泣いたのは、あの人の最期の笑顔を見た時以来だ。


忙しくしていたから……泣かずに済んでいたのだと、英二さんの言った事が本当だったのだと思う。ガツンて来たよ。今!



「笑ってたよ。ギリギリな」

俺は泣きながら、誰に言うともなく呟いた。


あー…………。クソ。


俺、彼女が好きだったんだ。大好きだった。

生きる意味だった。俺の。大好きだったよ。

今更、気付いた。遅すぎだな。


間抜けな俺の告白は、もう彼女には届かない。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ