表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

最後の誕生日


「明日から、一泊だけ家に帰れるよ」

ミミが私にそう言った。


「へ?」


「ほら……一度家に帰りたいって言ってたろ?」


急な激痛に襲われ、私はそのまま入院して今に至る。たった二週間程だけど、出来ればそのまま逝くのではなく、家にもさよならを言いたいと言っていたのをミミは覚えていたらしい。


「先生に相談したんだ。明日誕生日だろ?」

というミミに私は思わず目を丸くした。


「誕生日……何で知ってるの?」


「何回おばさんが書いてる書類を見てると思ってるんだよ」

とミミは苦笑いだ。


「あ、…そうか」


「外泊したいなら、折角だし誕生日が良いだろ?」


「え、ありがとう!自分の誕生日、全然忘れてた」



ただ、一泊するだけとはいえ、色々と準備は大変だった。私の使っている張り薬は麻薬。

ミミは、

「剥がしたお薬も絶対に病院に持って帰って下さいね!」と何度も念を押されていた。

飲み薬も全て飲んだ時間を記入しなければならない。頓服をどれぐらいの間隔で飲んだのかも。


ミミは看護師さんの話を熱心に聞いて、メモをとっていた。意外と真面目だ。


「ミミって真面目だったんだね」


「命に関わるから、当たり前だろ」

とサラッと言うミミは少しナーバスになっているようだった。



車椅子から支えられながら車に移る。

まだ、こうしてどうにか移動できるので今回の外泊は許可されたのだろう。




久しぶりの家はとてもがらんとしていた。


「ただいま~」

私は仏壇に手を合わせた。これも私が居なくなったら英二兄ちゃんにお願いしている。……ごめんね、兄ちゃん。


私の家は見事にバリアフリーではないので、ミミが私を抱えて移動する。


『重たいでしょ、ごめんね』なんて軽口を叩けるような体でない事は分かってる。

段々と薄くなる体にミミだって当然気づいているのだから、彼を困らせる様な事は言えないでいた。


「随分と物が少なくなったね」


「ちょこちょこ片付けてるからな」


応接セットのなくなったリビングは広々としていた。

私をダイニングテーブルの椅子にミミは座らせると、


「ちょっと待ってて」

と言って冷蔵庫から、お皿に乗せたチーズケーキを取り出した。たった一切れのチーズケーキに、三と四の数字を形どったロウソクを無理やり立てる。


「ぎゅうぎゅうだね」


「どうせワンホールは食えないだろ?」

とミミは微笑んで、そのロウソクに火を灯した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ