決意
「仕事は順調?皆は元気?」
ミミは気を利かせて部屋を出て行った。私がそう尋ねると、
「皆元気だ。仕事も何とかね」
と言いながら英二兄ちゃんは、ベッド脇にパイプ椅子を持って来て座った。
「手紙読んでびっくりした。色んな書類も入ってたし。急いで電話しても出やしないし、メッセージも既読無視だ。人に物を頼むのにそれはないだろう?」
「ごめんなさい。でも、頼れるの兄ちゃんしか居なくて」
「怒ってるんじゃない。ちゃんと話したかっただけだ。確かにすっかり疎遠になったが、縁を切った訳じゃない。もっと頼ってくれて良かったんだよ」
英二兄ちゃんが優しい事は子どもの頃からちゃんと分かってる。だからこそ、あんまり頼りたくなかったのだ。
「ごめんなさい。でも、私が死んだらきっとたくさん迷惑をかけると思う。それまで……一人で頑張りたくて」
「一人じゃないみたいだけど?あれは誰?同居人だって言ってたけど……」
「心配するかもしれないから言わない。でも悪い子じゃないの」
「分かってるよ。それはなんとなく感じる。お前の家で自分家の様に振る舞っていたが、ちゃんとお茶を入れてくれた」
「フフッ。話は弾まなかったでしょう?」
「あぁ。ただひたすらお茶を飲んだよ。無口だね、彼は。名前は?」
「知らないの」
「名前も知らない?」
「うん。私はミミって呼んでる」
「『ミミ』?ミミって確か……お前が昔飼ってた……」
「うん。兎の名前。何となく似てるし」
「確かに彼は色白だけどな。その分だと素性も?」
「詳しい事は何も。彼の事を知ったって、私はもう直ぐ死ぬんだもの。意味はない」
「本当に治療はしない?」
「うん。母を見てて……そう決めてたの。私には守るべき家族は居ないから、最期は好きに生きようって」
「俺にそれを止める権利はない?」
「ないよ。それは誰にもないの」
「……そうだよな。でも……彼は?」
「……もう少ししたら……彼を解放しようと思っているの」
私は少し前から考えていた事を口に出した。




