不調
楽しかった旅行。たくさんの思い出が出来た。
思い出って天国にも持って行けるのかな?あ、天国に行けるって保証はどこにもないか……地獄は嫌だな。
「自殺したら天国に行けないって知ってた?」
唐突な私の問いに、ハンドルを握るミミは、
「そうかもな」
と短く答えた。
「ミミはお母さんと仲が悪い訳じゃないのよね?」
「普通じゃね?良くもない」
「反抗期ってあった?」
「どうだろ?あんまり覚えてないけど。親をうざいって思う時はたくさんあった」
「それはわかる。でも親ってさ……居て当たり前じゃないんだよね。
毒親とかはもちろん絶対許せないけど、親ってやっぱり有難いんだよ。
父を早くに亡くしたせいで、母はずっとシングルで私を育ててくれたんだけど、ちょっと過干渉でさ……中学ぐらいの時って全然口とかきかなくなって。
今思うともっとたくさん話しておけば良かったなって。今更だけど。
いつも母が『私だけはあなたの味方だよ。それだけは忘れないで』って言ってくれてたのね。だから母が亡くなった時にね、私には誰も味方が居なくなってしまったんだなって寂しくなったんだ。
でもね。やっぱり死ぬのは歳の順が良いと思うんだ。たから、ミミは私より長生きしなきゃダメなんだよ?」
「………………」
ミミは黙ってしまった。……私の話はつい暗くなっちゃうな。
「ごめん、ごめん。ちょっと湿っぽくなっちゃった」
と私が明るく言えば、
「俺、口下手だから何を話して良いかわかんないけど、もっとおばさんの話を聞かせてよ」
とミミは言った。
その日から私はミミに自分の事をたくさん話した。彼はいつもそれを黙って聞いていた。
「もう食べないの?」
昼食は私の好きなカフェが良いと来てみたものの、私は一人分のランチを持て余していた。
「うん。ちょっと今日は食欲ないみたい」
私はヘラッと笑ってそう言ったが、ミミの顔には『今日《《は》》じゃなくて、今日《《も》》だろ』って書いてある。
旅行が終わった後ぐらいから、ガクンと私の活気は下がってしまった。食欲もなければ、足に力も入らない。目眩も酷く、たまに朝、起きる事が出来ない時もあった。
ミミは黙って私の前にあったお皿に手を伸ばすと、残りを全て食べてしまう。確かに出会った時より、ミミは太ったかもしれない。それでも細身なのだけど。
「じゃあ、出るよ」
と言うミミに私は頷いて立ち上がる。すると、目の前が暗くなる感覚に襲われ、テーブルに手をついた。
空の皿がガチャっと音を立てる。私がつい触れてしまった様だ。
ミミは私を抱える様に支えると、
「すみません、連れが気分が悪いみたいなので車に乗せたいんです。ここにお金置いときます。お釣りは良いです」
と店員に声を掛けた。
何回か足を運んだカフェだった事が幸いしたのか、店員は直ぐに、
「直ぐに会計いたします。お釣りもお持ちしますのでお車でお待ち下さい」
とテーブルの上の現金を掴んでレジまで早足で去って行った。
ミミに支えられながら、車の助手席に乗り込む。
旅行の後、私の愛車は売ってしまったが、車が無いと通院にも不便だと言う事で、カーリースを選択した。やはりこういう時には車は便利だ。




