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鋼鉄乙女のモン・サン=ミシェル戦闘記  作者: コダーマ


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死闘(1)

 海は穏やかだった。

 太陽の光を受け、小波がキラキラと輝く。


 モン・サン=ミシェル修道院──その天頂に黄金にきらめく聖ミカエル像が、波間に幾体も乱反射して見えた。


 ひとり乗るのがやっとという小船の縁に身を隠して、ラドムは沖合に眼を凝らしていた。

 干潮時で海が荒れてないのが幸いだ。

 気になる一点に、視点を集中させることができる。

 少年の視線の先には、一隻の船。

 小型客船ほどの大きさのそれは、先程からモン・サン=ミシェル沖に不安定に漂っていた。


 遠くてはっきりとは見えないものの、甲板で乱闘らしき異変が起こっていることは察せられる。

 騒ぎの中心に居るのが銀髪の少女かどうか定かではないが、可能性は高いと踏んだ。

 ラドムはその船目指してそっとボートを漕ぎ出した。


 やはり小船こいつで来たのは正しい選択だったようだ。

 女医の診療所を出て、歩くこと半日。

 モン・サン=ミシェル島付近まで徒歩で辿り着いたのはつい数十分前のこと。


 しかし、内陸と島とを結ぶ道路を堂々と渡るのは躊躇われた。

 H.アッド・オンや、彼の属する軍隊がどこで目を光らせているか知れない。


 そこでラドムは、内陸部のちょうど人気のない民家に忍びこみ、小船を盗み……借りることに成功する。

 更に服も頂戴した。

 マディーに売りつけられたあのパジャマは、今は銃身ショットガンを巻くのに使っている。


 ──後ろめたい……。


 泥棒の自覚はあった。

 いつ見付かって追ってこられるか、冷や冷やしているところだ。

 船も服も出来るだけ早く、しかもこっそり元に戻しておきたいところである。


 前も後ろも気にしながらの慣れない作業に時間は掛かったが、懸命にオールを漕いで近付いたその船は、やはりドイツ船のようであった。

 しかし、偽装船による民間船襲撃とは少々様子が違うように見受けられる。

 ドイツ船籍と丸分かりの船体もそうだし、第一、被害船がそばにない。


 ──まさか、《鋼鉄の暗殺者(アイゼン・メルダー)》をおびき寄せるための罠か?


 その考えに至ったのは、船から一人の人物がまるで追われるように海に向かって飛び込む姿を認めたからだ。


「アミか?」


 とりあえずラドムは、その地点目指して小船を漕ぐ。


「早く。こっちだ!」


 ドイツ船からなるべく姿を見られぬよう、逆光と海面の乱反射を利用して出来るだけ近付く。

 泳ぐ人物もようやくこちらに気付いたようだ。

 懸命に水をかいて逃げてきた。


「あ、あなたは……」


 手をつかんで船に引き上げた人物を見て、ラドムは絶句した。

 水をポタポタ垂らし、少々間の抜けた笑顔を作るのはアミではない。


「ラ、ラドムさんじゃありませんか。貴方、生きてたんですね。いや、ありがとう。助かりました。私としたことが……いや、うっかりしましたよ」


 息も絶え絶えな様子で、しかしペラペラと早口でよく喋る。

 ガリル・ザウァー──アミの養い親である武器商人だ。

 正直、ラドムの生死などどうでも良いという表情で、ガリル・ザウァーは狭い小船で左右を見回していた。


「アーミーさんは? 一緒じゃないんですか?」


 その独特のペースに呑まれたように、ラドムが首を横に振る。

 武器商人は森の小動物を思わせる忙しない動きでラドムの手からオールをひったくって、自ら船を漕ぎ出した。


「アーミーさん……あの子は昔からこうです。肝心なときに役に立たない子でしたよ」


 辛辣な言葉だが、そこには幾許かの愛情も見える。


「それはそうと、シュタイヤーを見かけませんでしたか?」

 尚も首を振り続けるラドムを見やり、ガリル・ザウァーは今度は顔を歪めてうつむいた。

「彼が私の側を離れることはありません。何でしょう。嫌な予感がしますね……」


「そ、そんなことより、あなたは何を……?」


 ガリル・ザウァーの操船で、小船は岸へ着いた。

 さっさと立ちあがって上陸を果たした武器商人の全身を目の当たりにして、ラドムは絶句する。


「何ですか?」


「何ですかって……その腕?」


 武器商人の身体は酷くアンバランスで、例えようもない違和感を醸し出していた。

 それは立ち上がると尚のこと、鮮明に表れる。


「その手、まさかアミの……」


 義手? という言葉をラドムは呑み込んだ。

 ガリル・ザウァーが小柄な方とはいえ、その細い右腕は男の体格には似つかわしくない。

 少年の凝視を遮るように、武器商人は左手でそれを擦ってみせた。


「傷口が化膿してしまいましてね。近くの病院に駆けこんで、思い切って切断してもらったんですよ。幸いアーミーさんが落としていった新しい義手が合ったので」


 ささ、そんなことより。

 軽く言うと、男は慣れた足取りでモン・サン=ミシェル島の岩場を登って行った。

 早くこちらへ来なさいとラドムを手招きする。


「沖合から砲撃を喰らってしまいますよ。奴らを島へ上陸させるのが、そもそもの狙いなんですから」


「何で?」


 それでも言われた通りに岸へ登り、とりあえず手近な岩場の影に身を潜ませる。


 ──何か変じゃないか?


 あらためてそう感じたのは、ガリル・ザウァーのその姿だけではない。

 その存在、行動……全てに言い得ぬ違和感を覚えたから。


「《鋼鉄の暗殺者(アイゼン・メルダー)》は、ガリル・ザウァー……あなたなのか?」


 このところ連夜、ドイツ軍偽装船を沈めているという鋼鉄の右腕の持ち主はこの小男なのか?



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