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鋼鉄乙女のモン・サン=ミシェル戦闘記  作者: コダーマ


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《狂気の刃》(3)

「ボク知らないよ。武器商人はともかく、他のヤツなんてどうでもいいよ。ボクの部隊《277》だって関係ないよ」


「──何の話だ? 277?」


 アミの声が緊張で低くなるのが分かった。

 得た情報をどう整理して良いか分からず、恐らく頭の中は大混乱を来しているのだろう。


「何でモン・サン=ミシェルに《武器庫ヴァッフェン・カマー》があるって知ってる?」


 彼女に代わってHを責めるその声は、軍刀に縫いつけられるように地面に横たわったラドムのものであった。

 敵が手首を返すだけで細い首は簡単に貫かれるだろう状況で、声は震えている。


 足元の虫を一瞥する目で少年を見下ろし、Hはあっさりと吐いた。


「いろいろリークしてくれるヤツがいるんだよ。組織ってのはだいたい一枚岩じゃないもんだよね。身近なところにどんな裏切り者がいるかしれやしないんだ」


「裏切り者……?」


 いけない。アミが動揺している。


「リークって誰からだよ?」


 ラドムの問いは、むしろアミを落ち着かせたいがための声色だった。


「知らないよ」


 面倒臭そうにHは答える。


「武器職人のユージン・ストナーか?」


「だから、知らないって」


 さすがに核心を答える意思はないようだ。

 ラドムは黙ることにする。

 しかしこの男、色々手掛かりは与えてくれた。


「……シュタイヤーという男を知ってるか?」


 唐突過ぎる質問は、今度はアミのものだった。

 その声は微かに震えている。


「だ・か・ら、ボクは何も知らないッて!」


 Hの口調は変わらない。

 人を小馬鹿にしたようなその調子に、アミも声を張りあげる。


「な、何か隠してるだろ!」


 Hの軍刀。

 人質同然のラドム。

 すぐそばに転がる銃すら無視して、彼女は男の長身に迫った。

 胸倉をつかみ、締め上げる。


「ちょっ、何す……アンタ、暗殺者メルダーなんて繊細なものじゃないよッ。ただのバカな破壊者だ!」


「うるさいっ!」


 顔を真っ赤にしてアミは左手でその首をわしづかむが、如何せん不自由な身体だ。

 がら空きの脇めがけて軍刀を握ったHの手首が閃いた。

 アミの反射神経をもってしても、その攻撃をかわすことは不可能だ。


 ──アミがやられる!


 無我夢中で手足をバタつかせるラドム。


 その瞬間、鼓膜を破らんばかりの爆音が周囲を揺るがせた。

 アミは棒立ちになり、(フランキ)は充血した双眸を見開いて唇をわななかせる。

 何か言いかけたのだろう。

 しかし喉から漏れたのは、速い呼吸と喘ぎ声だけ。


「脳ミソが回転する……」


 意味不明な呟きを残し、その場にカクリと膝をつく。


 Hの長身がグラリと揺らぐ。

 睨みすえた先にいたのは、サーベルで脅して地面に張りつけた筈の少年であった。


 赤の視線を受け止め、ラドムは紫の眼球を震わせる。

 横たわったまま両手に握り締めていたのはHの銃だ。

 白い煙がたなびく銃口は、今尚ドイツ兵に向けられていた。


 少年の顔が大きく歪む。

 無論、銃を撃ったのは初めてだ。

 手首に直にきた反動コレイルに腕全体が痺れている。


 熱をもったそれを投げ捨てて、ラドムはバネのように跳ね起きた。

 刃先で裂かれた肌から血液が舞うが、痛みは感じない。


「アミ!」


 その声に、少女も我に返ったようだ。


「に、逃げるぞ。ラドム!」


 一本しかない手で少年の腕をつかむと、引きずるように廃墟の中に駆け込んでいく。

 二人の姿を見送りながら、Hはヨロヨロと上体を起こした。


「お、おどろいた。あの小僧ッ! 二度までこのボクを……」


 銃声を間近で聞いたときは一瞬、死を意識したものだが、しょせん素人の子供に射撃の技量なんてない。銃弾は彼に掠りもしていなかった。


 ただ飛来するそれがこめかみをかすめ、軽い脳震盪を起こしたようだ。

 まだ頭がフラフラする。

 毒草の影響がなければ、こんな醜態を晒すこともなかったろう。


 返すがえすも、あの小僧が憎らしい。

 脅すつもりで刃を突きつけたのだが、ひとおもいに抉ってやれば良かった。


「フン、逃げるがいいさ」

 建物の影に隠れたか、姿の見えなくなった二人に向けて小さく呟く。

「ワナはとっくに張ってんだから」


 事前準備は陣地戦に不可欠のものである。

 こんな廃墟に逃げこんだ時点で、ヤツらの敗北は決まっていたのだ。


 罠に向かって逃げこむ獲物を想像しながらHは立ち上がった。

 足元の銃を拾いあげる。

 少年が泡を食って落とした姿を思い出すと、ニヤリと笑みがこみあげてきた。

 すぐに熱を持つ、あまり良い銃ではない。


「だから軍刀コイツのがスキなんだよね」

 愛刀への思いを再認識したものの、今はそんなコトを言ってる場合ではない。

「今度こそ《鋼鉄の暗殺者(アイゼン・メルダー)》の息の根を止めてやる……」


 手の中の銃の重みを確かめながら、Hは口元を歪めた。


     ※  ※  ※

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