第一話 春のデート日和
本当に春夏秋冬はきちんと巡っているのか怪しい気候だ。四月上旬だというのに春物の肌着が鬱陶しく感じるほどに暑く、ほとんどの通行人は二の腕の半分まで露出して出かけている。
そんな土曜日の午後、私は公園の腰掛けベンチで読書をしていた。通常、そんなに暑い日なら日焼けが気になるところだが、ベンチが置かれている空間上ほぼ気にならない。周りは小屋のような作りになっていて、壁に囲まれている中にベンチが「コ」の字に置かれており、上空には当然屋根があるから。
もちろん窓や扉はガラガラに開いているので日焼け止めは塗っているが、直射日光を浴びるよりはましだろう。
そんな中、なぜ私は公園で読書なんかをしているのかというと――。
「やー、早いね! ごめん、お待たせした?」
ニャハハと笑いながら小屋に入ってくる人影が一人。そう、待ち合わせをしていたのである。待ち合わせ相手の少女は両手を胸の少し上で合わせた。謝罪のポーズのつもりだろうか。
「いいえ、私が早く着きすぎただけ」と私が返すと、
「ニャハハ。たまにはいろはより先に到着したいなあ」
そう言って少女――ルビー・スカーレットは赤い髪を揺らして笑った。
「いろはより先にって……ルビーが私より先に到着したからって何かが変わるわけじゃないと思う」
話しながら小屋を出る。春の日差しは相変わらず四月とは思えない熱だった。
そういえば、いつの間にかお互い名前で呼び捨てになってる。
以前の私はルビーのことを「スカーレットさん」と呼んでいたし、ルビーも私のフルネーム「伊勢いろは」からとって「伊勢さん」と私を呼んでいた。
「――お母さんは元気?」
え? とルビーの方を振り向く。つい考え事をしていて、彼女の話を聞いていなかった。
「だからー、いろはのお母さんは元気か、ってハナシ!」
「あ、あぁ」
私は近頃の母の様子を思い出して「うん。元気」と答えた。
「ふうん。それなら助けた甲斐があったにゃぁ」
ルビーはあくびをしながら言う。
「……うん。あの時はありがとう」
「だからー、お礼はもういいって。それより、早く出かけよう?」
ルビーに急かされて、私達は足早に公園を後にした。