第58話 生き地獄
「あのすみません……今、殺めた人って……」
ロープも気になったのか、ムーンさんに向かって復唱した。
確かにこの人……殺めた人……つまり、ムーンさんが殺した人って言ったよね?
「えぇ、そうです。私は……欲望のままにこの人たちを殺しました……『醜い姿となって』」
「醜い……」
「……姿?」
私とロープは顔を合わせた。
醜い姿……欲望のままに殺した……それを意味するのは……。
「……ここは私の真の姿を見せたほうが早いでしょう……覚醒」
ムーンさんはそう言うと……体が脈打ち……怪物の姿に変貌した。
その姿は……屈強なドラゴン……以前戦ったロードモンスターのドラゴンと似た姿だった。
「そ、その姿は……ろ、ロードモンスター……」
ロープは腰が抜け、その場でしゃがんでしまった。
「その通り……私は……覚醒してしまったロードモンスターです」
「そ、そんな……」
……進化してしまった、そして……人々を……。
「私は小さい集落で生まれ……ダンジョンでモンスターを倒していき……日銭を稼いで、病気がちだった両親と、幼い兄弟を養いつつ、その日その日をやっと生きていました……そして、ロードモンスターに襲われ……進化してしまった……」
「それで……殺人を……」
「はい……私は『お金が欲しい』と……そんな欲望を唱えつつ、集落の人々を襲いました……我に返ると、私は友人に手を掛けていて、家に戻ると……家族が死んでいました」
「……」
あんまりな出来事……私たちは黙り込んでしまった。
「私は己に絶望し……何度も自殺を考えました……ですが、死ねなかった……」
「……死ぬのが怖かった?」
「はい……そこで私は、『いつでも死ねるように』ここ……ガニメディル山に、自分の贖罪も兼ねた教会を建てました……」
「いつでも死ねるように?」
「はい、ここはオリジナルがいる場所……人間を襲わない私を粛清してくると……そう考えたのです」
「……」
つまりムーンさんは、ここで殺されるのを待ちながら、祈るのを続けてたってこと?
「ですが……殺されなかった……私は理由を聞くついでに殺されに行こうと……そう考えて山頂まで行きました」
「……それで、会ったの?」
「はい、理由を聞いたら……『死なせるよりも、そのまま生き地獄を味合わせたほうが面白い』と……そう言われました」
「……なんて残酷な」
「私が今までしてきたことと比べたら……相応の罰ですよ」
相応の罪……確かに、彼女は人を殺したのかもしれない。
でも、本人の意思とは無関係に進化をさせられ、その上で暴れさせたのは……彼女を襲ったロードモンスターのせいではないか?