第52話 要求
……彼女は人間がまるで下等生物であるかのように説明を始める。
しかし、私は彼女の言い分に違和感を抱いた。
「……じゃあ貴方は、なぜ騎士団に?」
「そうだね、そこに疑問を抱くのは当然だよね」
彼女はそんなことを言い、こちらに体を向ける。
そうだ、彼女は騎士団……それも誰もがうらやむ地位にいる。
彼女の先程の言い分は……少し違和感がある。
そこまで人間を下に見ているのなら……何故その地位に?
「私は最初、『そんな人間でも分かり合えるはずだ』とそう考えて、騎士団に入団した、人間のために働いたし、助け合った……感謝の言葉も貰ったが……世の中、クソみたいな人間が多すぎるんだよ」
「……」
「努力もせず気に食わないからとクーデターを目論む奴、愛国やら王国万歳と称して破壊活動をしようとする奴、そういう奴を嫌と言うほど見てきた……こんな人間どもを守らなきゃいけないなんて、馬鹿みたいじゃないか?」
……必死に否定しようとしたが……私は何も言えなかった。
「ま、私の事はいいんだよ、それより君たちの事だ……さっきも言ったが、私たちの仲間にならないか? 君たちはそんなクソみたいな奴らとは違う……進化させるのは惜しい」
「……嫌だと言ったら?」
「さぁ、どうしようかねぇ、今考え中だ」
……あいつらの仲間になるか否か、答えは勿論嫌だ。
だが……私の中に、迷いが生じている。
こいつを敵に回すと……何をされてしまうのだろうか?
そんな恐怖が私を支配した。
「まぁいい、すぐにとは言わないさ……そうだ、一度出直すとしよう」
そう言って、奴は人間の姿に戻り、白き肉体を露わにしながら、馬に乗り込んだ。
「答えが決まったら……『ガニメディル山』の山頂にある城に来たまえ……そこでゆっくり話し合おう……」
ガニメディル山……この国で、最も大きい山……そこの山頂……。
奴は約束を一方的に照り付けると、どこかへと走り去っていった。
「……アニマさん」
ロープは心配そうな目で、私を見つめている。
……ここで考えても仕方が無いか。
「……一旦休もう、ロープ
「はい……じゃあ、宿に……」
「うん……」
私たちは一度、体勢を立て直すため、宿へと歩き出した