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第16話 タイムリミット

ライト=シーブラックをライト・シーブラックへと変更します。



 いつも通り退魔剣の調査を終えた3人は機材を収納している間に雑談をする。

 それは天魔の話であった。


 今は最強の天魔について語り合っているらしい。

 ライトがフレスベルグ、アヤメと皇后崎がククルカン派だ。


「一番強い天魔ってフレスベルグのことだろう?」

「兄に決まってるわ」

「そうだな。ククル……アヤメさんの兄以外考えられない」


 どちらも自分の意見を強く信じているようで曲げない。

 それぞれが根拠を言う。


「だってフレスベルグは最古の天魔だぞ? 体高も400メートルで世界のすべてを見渡している伝説の巨鳥だ。(かな)いっこないだろ! あやかれ! ちっこい背丈」

「データで示してもらえない? 尾ひれに背ビレがついた噂の鳥なんてただの的でしょ。兄の『小宇宙(ミクロコスモス)』に耐えられないわよ。あんたも同じくらいでしょ! ひょろガキ」


 喧嘩してない?

 アヤメを横目に皇后崎がライトに尋ねる。


「ふう……ライト、天魔ヴィゾフニルはどうなんだ。遭遇したらしいが」

「ん?」


 おでこに拳を当てて考え込むライト。

 すぐに結論を出すかと思えば、1分くらいはそうしていたか。


「む~ん……最強ではないけど……1番イヤなやつだとは思う」

「ほう。やはり会ったことがあるからか?」

「それもだけど。……1番はやっぱりその不死性だろ。

 あいつはそれだけで世界三大天魔の一柱に上り詰めたんだから。

 フレスベルグは案山子(かかし)みたいな存在だけど、あいつは600年ずっと人間にちょっかいかけ続けてきてまだ生きてる。

 オレにマーキングつけやがったどこにでも現れるクソ(にわとり)だよ」



◆ ◆ ◆ ◆



 平時とは違い警報器によって赤に彩られる運動実験場。

 その中央付近にはアヤメと皇后崎、そして彼らに対峙する巨大なニワトリの姿があった。


「なぜここに……否! ライトになにをした――」


 ――特質『登竜門』


 硬直するアヤメとは対照的に、上半身のジャージとシャツを脱ぎ捨てた皇后崎は、腕を交差させて両腕を1メートル程の竜腕に変化させた。

 右の鉤爪で地面を掴み跳躍、左の拳を叩きつける。


 クリーンヒットだ。

 突然の奇襲に避けようもないヴィゾフニル。

 だが。


「クあ“ア アっ!」

「何!? うっ」


 確実にその横顔を捉えた拳を意に介さず、雄鶏は目の前のトカゲを一蹴する。

 皇后崎は雄鶏(おんどり)にタックルで弾き飛ばされ元のアヤメの隣へと戻った。


 とっさにガードした竜の右腕がバキバキに折れている。

 力の差は歴然だった。


「う……ぐう。アヤメさん」

「――み、美智子「美智子やめろ」皇后崎くん大丈夫?」

「なんとか。それよりアレをどうにかしないと」


 アヤメが皇后崎の状態を見る。

 裸の上半身。受け身を取った背中の擦り傷が見える。

 明らかに骨が折れていた彼の右前腕は一端竜化を解除することで修復(リセット)したらしい。


 皇后崎が状況を語る。


「あいつ……強すぎる。俺では抑えきれない。

 アヤメは下がっていろ、君が攻撃を受ければひとたまりもない」

「でもあなたの攻撃は効いているようね。苦しがっているわ」

「何?」


 手応えはなかったはずだ。記憶の差異を確かめるために雄鶏を見る皇后崎。

 どうやら本当に苦しんでいるようだ。

 やつは翼で頭を抱えぶんぶんと振り回している。腹に手を当ててえづいたりもしていた。

 心なしか顔色が悪い気もする。


 怪人はライトの二日酔いもとりこんだようだ。


「ク……グアア、げろげろ~。ひゅーっひゅーっ」

「あれは違うよアヤメ。たぶん」

「そ、そうなの?」


 この状況を打開する施策を模索する皇后崎。とりあえずの一手を提案する。


「どうにか助けを呼んできてほしい」

「ええ――いえ、だめよ! 呼ぶべきじゃない! 殺されるわ!」

「だが、少しでも戦力がいる。例え弱くても警備員でも魔人でもいいから」

()()()()()()()()()()()()()()

 あんな状態の彼を見せたら、即刻射殺されるわ」

「――っ!!」


 アヤメの最悪の予想に、皇后崎は戦慄する。なぜなら彼らにとってあれは施設内の敵。

 強すぎて生け捕りが難しい以上、待っているのは銃殺という終わりだけだ。


 そうだ。あの天魔はライトでもあるのだ。このまま殺させる訳にはいかない。


「時間がない……きっとさっきのチームが助けを呼んできてしまう。

 タイムリミットは5分前後よ」

「ならばどうする、殺されるぞ!」

「こうするわ――ごめんなさい、ライト!」


 アヤメは懐から取り出したリモコンを雄鶏に向けた。

 震える指でカバーを外し2つあるボタンの内1つを全力で押さえつける。


 ピー、という音と共に雄鶏の鳥足にはめられていたギチギチのバンドが変色する。

 プシュッ。と安全装置(セーフティ)から何かが足に注射されたようだ。


 頭を振り回していた天魔が急に動きを止める。


 張り詰めた空気の中で突然、その巨大な雄鶏の体がどろっと溶け始めた。


「強力な抗ウイルス剤を投与したわ。これで元に戻ってくれれば」

「く、グうオオおオア“アアぁっ」

「――そう上手くはいかないわね」


 羽毛、右翼、顔面の半分が融解した段階で変化が治まってしまう。

 ヴィゾフニルを始めとした天魔は全身がD-ウイルスの化け物。特にD-ウイルスへの依存度が高い雄鶏を、アヤメはこれで溶かしきるつもりだった。


 確かにアヤメの策は一定の効果を発揮した。溶けた場所からライト本来の体が現れる。

 だが事態はそう上手く運ばない。


 自身の体に致命的な異常を引き起こしたアヤメを、雄鶏は敵とみな(ロックオン)した。

 少女へ向かって、今までにない早い動きで飛びかかってくるヴィゾフニル。


 少年がその噛みつきに反応できたのはひとえに、備えていたおかげだ。怪物がどのような行動を起こしても対処する準備を整えていた。


 少女を抱えて竜の左腕と尻尾で逃げ回る皇后崎。


「残り4分! 打つ手なしか」

「いえ、まだよ。まだ抗ウイルス剤はあるわ。これをやつに打ち込めれば」

「どうやってだ! 俺は力不足で、お前は戦力外。やつは止まらない」


 皇后崎はかの怪人との一瞬の攻防で、すでに彼我の差を実感していた。

 こちらの竜の一撃でびくともしないくせに、あちらは一撃でこちらに致命傷を与えられるのだ。

 先程の突進を見るに、未だその能力は健在である。

 とてもアヤメを守りながら戦えるものではない。


 天魔ヴィゾフニルの蹴りつけ、噛みつきに突進を必死に避ける皇后崎。

 ――シュン! 

 竜の腕の中で、少女はどこからともなく10本の万年筆を生み出した。

 それはいつか、ライトに突き刺して薬剤を注入したものと同じだった。


 アヤメが宣言する。


「私の特質(スペシャル)を解禁するわ!」



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