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第14話 黑髮兄妹

タイトル変えまくってごめんなさい(泣)。



 ある日の午後の運動実験場。アヤメが退出した後退魔剣を調べた後に皇后崎がライトに注意する。


「そのバンド、見せたくないのはわかるが目につく場所に変えてもらった方がいい。立場がわかりにくいからな」

「……ん? 足首のこれか」


 ライトの足首に巻き付いている伸縮性金属製のバンド。

 それはライトが陸望楼に来た翌日の検査において、始まる前にアヤメに渡されたものだ。

 検査が終わってから彼は少女に確認したが、付けておくように念押しされていた謎のバンド。


「これってなんなんだ? みっちー」

「みっちーはやめろ別のやつだろ。――待て。知らないのか、本当に?」

「そうだってば」

「――そうか」


 雑なライトのボケを雑に対応する皇后崎。

 彼の口から告げられたのは、衝撃的な真実であった。


「心して聞け。ライト」

「ん? ああ」


 いつになく真剣な表情で語る青髪。


「それは爆弾だ」

「――え」

「同時に抗ウイルス薬の注射器でもある。魔人の力を抑制し爆破して逃げられないようにすることも可能。

 俺達魔人という生体兵器の安全装置(セーフティ)だ。自力では外せない。

 本当に何の説明もなかったのか」


 皇后崎からの問いかけ。だがライトはそれに答えることができない。

 衝撃から意識が戻ってこれないのだ。それは今までのどんなものよりも身近にあって気づかなかった恐怖であり、わかりやすい驚愕である。


 なにせ自分の生殺与奪(せいさつよだつ)を、足首のちっぽけな金属に握られているのだから。


 うわ言を漏らすように質問に応える少年。


「なんだよ、それ……そんなこと誰も。だってアヤメが、アヤメが渡して来たんだ。

 その時はなんも気づかなくて、ただ……検査に必要だからって……」

「……そうか。それが作動する機会なんて絶対来ないはずだ。だから落ち着け。

 悪かったな」


 誰への謝罪か。ライトにも皇后崎自身にもわからなかった。

 ただ1つだけ。彼は確かに誰かを憐れむ言葉を吐露(とろ)した。


難儀(なんぎ)なやつだな……あいつも」



◆ ◆ ◆ ◆



 田中阿多坊が出張から帰ってきたことを知ったのは、少年が安全装置の存在を知った翌朝だった。

 実験開始前にアヤメが話したのだ。学会発表で島を出ていたチームが帰還報告をしていたと。その護衛チームの田中さんも今頃部屋に戻っているのではないかということだ。


 それを聞いたライトは実験も早々に、その顔を見に向かったのだった。


 ピンポンっピンポンっ。

 真昼の魔人寮の1階101号室のドア前で、無機質なインターホンが無粋に鳴り響く。

 少しの間を置いて、足音とガラガラと物を押しのける音が聞こえてきた。


 扉が開き大柄の男が顔をだす。

 魔人寮の寮長にして本州出張の護衛チームリーダーの男、田中阿多坊その人であった。


「はいはい……お、ライト少年か! 息災だったか?」

「当たり前です。阿多坊さんこそ元気でした?」

「あたぼうよ!」


 ドッ。ゲラゲラゲラ。

 コントのような笑いが起こる。いつの間にか恒例行事のようになっている。

 無論寮長の持ちネタでもあるせいだが。


「祝杯を上げにきました!」

「お! ありがとう。つまみもあるのか。……いいセンスだ」

「これが一番合い……そうですから!」

「はいはい」


 完全に自分の好みに合わせて買ってきたのが丸わかりである。寮長はライトに飲ませる気も飲む気もなかった。


「つっても真っ昼間から酒っつうのはな……そうだ、飯行くか。おごってやるぜ」

「行きます! ……来た僕が言うのもなんですが、今日って何もないんですか?」

「ないない。報告書は帰りの電車の中で仕上げてきたし」


 ドアが開かれ男が部屋の中に戻る。部屋着そのものであったので外用の服に着替えるためであろう。

 ライトが開いたドアから中に入ってみると、ごちゃごちゃと物が散乱した畳の部屋。どうやら全体的に日本風にレイアウトしてあるようだ。

 畳とだらしない格好の男がよく似合っている。概ね少年の想像通りの内観をしていた。汚い。

 散乱したシワだらけの洋服を着る大男が質問する。


「そういやあ引っ越しは終わったか? まだベッドしかなかったはずだが」

「無事終わりましたよ。見ますか?」

「見させてもらおう!」


 1階から3階奥まで移動する2人。

 ライトが自室の鍵を開ける。


「おじゃまします。……おお~こりゃお洒落だぜ。うちとは比べ物にならんわな」

「和室もいいと思いますよ。オレはずっと洋室で生きてきたので」


 入ってきた者を包む木造の温かみが2人を出迎えた。茶系の暖色のソファーや絨毯と寒色の小物のディスプレイだ。収縮色と膨張色が役割ごとに適切な家具に(まと)っている。

 床は木目のプリントされたシートにしっかり覆われていた。


「これ1人でやったのか?」

「ああー、いやあ。皇后崎と一緒にしたんですよ。このカンテラを置いとくだけで部屋全体が着飾ったように見えるとか、色々詳しかったんです。

 お洒落に見えるのはあいつのおかげですよ」

「ほう、あいつがね。まあ変に細かい部分気にしてそうだしな」


 あいつも昼食に誘うかという田中の提案をライトはやんわりとお断りした。

 寮長はそれに(うなず)き近場の食堂や居酒屋を示した。

 その中でまだ行ったことのない居酒屋を少年が選んで2人は出発した。



◆ ◆ ◆ ◆



 夕日が世界を灼いている。


 昼食も済ませ帰路で食材を買い揃えた彼らは寮長の自宅前に到着した。

 ちなみに居酒屋ではライトも田中も飲んでいない。本当にただのランチタイムであった。

 ドア前でライトが解散しようとする。


「今日は楽しかったです。また今度食べに行きましょうね」

「まあ待て待て」

「はい?」


 離れていこうとする少年を阿多坊が止めた。


「祝杯だろ? 最後まで付き合ってけよ」

「はあ……しょうがないですね。1杯だけですよ?」

「飲むなよ?」


 怪しい大人そのものの言動ではあったが、寮長のために買った少し高い酒をつまみたいと考え少年は従う。

 2人で部屋に入った。


 玄関で靴とスリッパを履き替えると阿多坊はキッチンへと直行した。ガスを点火する音、鍋に水を注ぐ音が部屋に届く。


 適当にかけてくんな、と言われた通り適当に座る少年。

 ちゃぶ台の横で待っていると水を差し出される。礼とともに貰おうとすると、コップが自分の手を避けるように寮長によって引き戻された。

 訝しげな目を送る少年。


 わざわざ「祝杯」と行ってまで少年を呼び止めた理由を、寮長がライトにぶつける。


「嬢ちゃんとなんかあったか」


 喉がからからだ。そう少年が感じるのに、長い沈黙が必要だった。


「いや別に、答えたくないならそれでいい。ただ、言っておきたくってよ」

「……何を、ですか?」

「あの兄妹についてだ」


 たぶん知らないだろうからな、と寮長はいう。

 あの兄妹。それがどれを指しているのかわからないライトではなかった。


「何なんです、アヤメが」

「アヤメというより、黑髮クロメについて少年はどこまで知っている」

「……天魔ククルカンで、優しい人です。それ以外は何も」

「なるほど。性格はそれでいい。なら立場については? ここにあの方がいないのをどんな理由だと思っている」


 コト。コップが机につく。

 ()()とは魔人寮を指しているのだろう。

 少年は思う。立場なんて決まっていると。他の魔人と同じく生体兵器として駆り出される立場であると。

 だが、魔人寮に住んでいない理由は一体どういうものだろうか。

 ひとつ思いついた考えを口にしてみるライト。


「魔人と天魔で、レベルが違うから……?」

「ほう、どうしてそう思う」

「正直あの人に勝てる存在が思いつきません」

「なるほど」


 わかりやすく単純な理由だ。だが最もありえそうな理由。

 彼はそれを否定した。


「半分正解だな。1番は、あの方が魔人研究の(かなめ)だったからだ」

「要……?」

「そう。あの方が陸望楼に来て初めてこの国のD-ウイルス研究は進みだした。あの方なくして今の魔人寮はありえないんだよ。間違いなく」

「そんなに凄い研究者」

「違う」


 ライトの言葉を遮って寮長が言う。


 彼は()()()()だと。


「サンプル……!?」

「彼はこの国の中で突然生まれた天魔だ。人間に限りなく友好的なそれを、政府は情のかけらもなく実験動物として押収したんだ。

 当時の彼は経済的にひどく困窮していてな。妹を学校に通わせることもできていなかった。そこにつけこんだ」

「それって……アヤメのことですか」


 田中が肯定する。


「だから、彼らは魔人の志願兵である俺や皇后崎とは根本的に扱いが違う」


「黑髮クロメは実験動物(モルモット)で、黑髮アヤメはその人質なんだ」



 今明かされる衝撃の真実。

 剣が技術局に押収されなかったのも、技術局側がククルカンの報告をあまり気に留めていなかったからですね。

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