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第10話 剣の反発。

 どうも。第7話と第8話を同じ日に投稿してしまい絶賛絶望中の千歳うらべです。

 ここまでお読み頂きありがとうございます!

 次話で1章の折り返しくらいですね。一気にいきますよー



 温かみの欠けた体育館のような長方形の空間。

 陽の光が差し込む運動実験場にて再度、剣を調べるために揃った二人。ライトとアヤメはもう一人の参加者の欠席について話す。


「え? 今日阿多坊さんいないの」

「出張。本州の学会発表があって、その間ボディーガードがあるのよ」


 身体能力が高くなり、『特質』まで使える魔人は生体兵器だ。裏切らない陸望楼の私兵扱いになり、有事の際や要人の警護に駆り出される。

 現在魔人込みで構成されたチームは2分隊存在する。


「分隊?」

「13人一組のチームのこと。全部で魔人は12人ね。全員魔人寮に住んでいるから、会おうと思えば会えるんじゃない?」

「へー……12人なんだ」


 それを聞いたライトが中空を見つめるのをジト目で睨む少女。


「✞少ないとか思ったでしょう✞」

「ギクッ」

「そもそも魔人を制御可能になったのがこのたった一年前のことなのだから仕方がないでしょう。試験運用中なのよ」


 本来魔獣、魔人は突然変異的なもの。

 かえるの子はかえるだが、魔獣の子供は魔獣というわけではないのだ。

 人を襲う加害者としてのイメージを持つ魔獣たちだが、彼らはある日突然強制的に孤独の存在にさせられる被害者といってもいいのである。


 ステージ2の魔獣が子供を産んだとしても、その子供は親のD-ウイルスに耐性を得て生まれてくる。ステージ3からはそもそも生殖機能が失われる現状。

 D-ウイルス研究は被検体の確保がとにかく難しいのだ。

 今までは鎮静剤を打った魔獣を確保することで被検体を確保していた研究室は、遅々として進まない研究にやきもきしていた。

 19XX年6月6日。つまりは丁度2年半前に都合のいいサンプルが手に入ったことで研究は飛躍的に進歩したが、それでも未解明の部分が多すぎるのだ。


「なるほどな。……でも、ウイルスってわかってるんなら感染しそうなものじゃないか?」

()()ウイルスなのよ、D-ウイルスは。

 生物細胞に入り込んで増殖するとかウイルスの皮があるってだけで、他の生物に感染しないの。半生物で半()()()()

 観測することがほぼ不可能だから、人類最大の武器たる分析と研究もできない」


 本質的には、D-ウイルスの本体は暗黒物質(ダークマター)なのよ。そうアヤメが締めくくった。

 少年の理解できていないことは未だ数多くあれど、それが未知満ちた研究の道であることはわかった。


「だから、今日はちょっとやって終わりにするつもりよ。魔獣の検体なんて貸してもらえるわけないし」

「どうするんだ? 都合のいいサンプルってのは使えないんだろ」

「……一応ほら、私もD-ウイルス罹患者だから」

「お前を切りつけろって!? 怖えよ!」

「違うわ! 怖いのはあなたの発想よ!」


 苦肉の策のようなアヤメの提案を遮って、ライトが憤慨する。どこの世界に実験で仲間を斬りつけるバカがいるのかと。

 頭に血が上ってそのまま帰りそうな様子の彼に、少女は慌ててその誤解を訂正した。


「✞誰がそんな頭のおかしいことやるもんですか✞

 今から試すのは『レーヴァテイン』の()()()()()()()――『()()』よ」


 剣の包みを解いて翠緑の刀身を露わにするその剣は、やはりいつ見ても美術品のようなしなやかさとガラス細工のような儚さを併せ持っていた。

 だが、ライトの興味を引いたのはその美しい剣の外観ではない。そちらはもう見飽きた。


「反射だって?」

「あら? 兄の報告によればあなたがヴィゾフニルを跳ね返したって聞いたのだけれど」

「……あ。確かに、見た。覚えがあるぞ」


 少年にとって、この数日が濃密であったためか今はもう昔のことのように思える天魔ヴィゾフニルとの邂逅(かいこう)

 つまり3日前のことだ。

 確かにあの時、少年は目撃した。

 最近の激動の原因であるあの怪人が突撃してきた後、磁石のN極とN極を近づけた時のようにひっくり返って跳ね返されたのを。

 彼はそれを、てっきり黑髮がとさかを後ろから引っ張ったのだとばかり思っていた。だがそれは間違いだったのだ。


「オレの剣の力だったのか」

「らしいんだけど……う~ん」

「ん? どうしたんだよ」


 剣を両手に抱えて、見つめる少女。顎を手に乗せているわけではないが思索にふけっているようだ。

 思考を打ち切った彼女は言う、やってみましょうと。

 まだ懸念が残っているようだが、少年は(うなず)いて剣を受け取った。


「ところで、どうやるんだ?」

「そうね……こうしましょう」


 チャリチャリと響く金属音。

 少女が左目から外した金枠の片眼鏡、そのチェーンが干渉する音だ。レンズ自体はサングラスのように薄暗かったが、ほのかに光が瞬いている。


「これはとある天魔の死骸、その硝子体から作られたレンズなの。D-ウイルスが発する光を捉えられる唯一無二のもの。おに……兄のゴーグルにも同じものが使われているわ」


 へー。少年は目をキラキラさせて関心を示した。


「アヤメさっきD-ウイルスが観測不可能とか言ってなかった?」

「ああ、これで見えるのは自分の保有するD-ウイルスだけなのよ。

 つまり、魔人にしか使えないってわけ」

「え、魔人?」

「そうよ、言ってなかったかしら?」


 ふふん、と何故か自慢げな少女である。この場には同じ魔人しかいないというのに。

 その得意げな気分を感じ取った少年はにやりと微笑む。先程の関心はD-ウイルスの観測についてではない。

 その形状についてだ。


「なんで片眼鏡なんだ?」

「え」

「別に普通のサングラスでよくないか。片目だけって見にくくない?」

「……暗いと見にくいじゃない」

「じゃあ外せばよくないか? 必要な時につけろよ」

「な、何か発見があるかもしれないじゃない? 研究者として、いつでも見えるようにしておかないと」

「ほうほう! いや本当にすごいな~、研究者の鏡だなー。

 ごめんな! オレてっきりお・洒・落で着けてるもんだと思ってたんだ。片目サングラスとか普通意味わかんないもんな。アハハ」

「そ……オシャレなわけ、ヤダも~アハハ。こんなもんダサすぎて、笑えるでしょ。

 は、は――は」

「(うわ、急にしぼんだ)」


 実際は少年の言う通り少女のただのお洒落である。

 最初製造した時は、研究職だとわかりやすい記号で唯一無二というプレミアに踊らされた無垢な少女だったのだ。

 研究室に眼鏡はいても片眼鏡はいないし、なによりサングラスにチェーンなんて誰も付けていない。徐々に彼女もわかってきたが、散々自慢した片眼鏡を今更外すに外せなかったのだ。

 結果、暗い室内でも片眼鏡グラサンを外さない少女の完成である。


 若気の至りが不幸を呼んだ悲しい顛末だ。


 意気消沈して床の一点を見つめる少女の不気味な笑いを、少年は見るに堪えなかった。

 流石に悪いと思ったのかライトはフォローに走る。

 

 自分はかっこいいと思ったから勘違いしていた、だの黑髮と金のフレームがよく似合っているだの片眼鏡を節操なしに褒めまくった。

 何度か上昇と下降を繰り返していた少女も、根気強いライトの粘りに無事回復を見せた。


「ふふん! かっこいい~でしょ!」


 訂正。より有頂天らしい。

 左手を胸に添え右手で片眼鏡を高らかに掲げている。少年には心なしかより鼻が高くなっているように見えた。

 上機嫌になると語尾が伸びるところは兄妹でよく似ている。


「じゃあ、早速……あ」

「ん? なんだ……あ」


 少女と少年が固まる。

 二人が見ているのは一点。少女の手元の片眼鏡だ。チェーンを持った手元、そこから垂れ下がった本体が靡いている。

 風か、と思う者はこの場にはいなかった。


 気まずそうに少年が目をそらして告げる。


「まぁ……効果があったってことで」

「終われるか!」



◆ ◆ ◆ ◆



 それは、少女が彼に頼んだために起こったのだろうか。

 或いは、少年が下手に口を出したために起こったのだろうか。

 客観的に見れば悪いのは少年でも少女でもなかった。明らかに、もう1人の瑕疵であった。


 だが、起こさないようにすることはできたのかもしれなかった。

 そこは運動実験場。その中心部。


 その場所には。


「ライト!」

「う……ぐあ」


 翠緑の退魔剣を杖のようにして立つライトと。


「さっさと剣を使え」


 竜の右腕を持つ、高身長であれど二人と同い年程度の少年がいた。



 面白かったでしょうか。もしそうなら幸いです。

 これからもご愛読してお願いします! 作者にとって最上の喜びです。

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