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8 絆

 俺が店に顔を出すと、母さんが俺のほうを見て席を立ったから、すぐに菜摘ちゃんの両親は俺が来たことに気がついた。だけど、俺はどうしていいかわからず、黙ってその場に突っ立っていた。

「聖…」

 母さんが小さな声で呼んだ。俺の横に立っていた父さんが、俺の背中を後ろから軽く押した。

「……」

 俺は無言のまま、少しだけ二人のそばに行った。


「はじめまして…。菜摘の母です」

 菜摘ちゃんのお母さんが席を立ち、俺のほうを向き丁寧にお辞儀をした。

「あ…。聖です」

 俺も、お辞儀をした。お父さんの方は、席に座ったまま黙っていた。でも、俺のほうをじっと見ていた。それから、深い溜息をついた。

 いったい、なんの溜息なのか?眉間には皺を寄せ、菜摘ちゃんのことを苦しめたことに対して、俺に腹を立てているのか…、そんなふうにも見えた。いや、そうとしか思えなかった。


「聖もここに来て、かけて」

 母さんはそう言うと、椅子を俺が座りやすいように動かした。俺は、父さんの方を見た。父さんは黙って頷くと、隣のテーブルの席についた。

 俺は、少し躊躇いながらも母さんの横の席に座った。さっきまでまったく緊張をしていなかったのに、手に汗を握るくらい緊張していた。脇もじわって、汗が流れてくるようだ。


「菜摘は家にいるよ。お友達の蘭ちゃんが来ていて、そばについてくれている。一人では置いて来れなかった」

 唐突に、菜摘ちゃんのお父さんが話し出した。

「一人にはしていられないほど、思い詰めているってことだ」

 この人、俺が子どもかどうかを確かめに来たんじゃなくて、俺を責めに来たのか?


「稔…。ごめんね」

 いきなり、母さんが謝った。

 なんで、謝っているの?俺のせい?俺のしたことを謝っているの?兄妹だってばらしちゃったから?

 俺は母さんを見た。母さんも俺をちらっと見たが、すぐに前を向いた。

「妊娠がわかった時に話していたら、菜摘ちゃんを苦しめずにすんだのにね」

 母さんは、すごく落ち着いた声でゆっくりとそう話した。

「でも、稔に真実を言うなんてこと、考えられなかった。あの時には…」

「なぜ?」

 少しきつい表情で、菜摘ちゃんのお父さんは聞いた。

「だって、私がそんなことを言い出したら、梨香がどう思うか気になって」

「私?」

 菜摘ちゃんのお母さんが、そう聞いた。それまでは頭を下げて、二人の会話を聞いていたが、初めて母さんの顔を見ていた。


「私が、稔の子を妊娠しているなんて知ったら、稔と別れることを考えたりしないかとか、私勝手に心配しちゃったの」

「……」

 菜摘ちゃんのお父さんもお母さんも、黙ってしまった。

「本当のことを言うと、1番どうしていいかわからなかったのは私なの。稔と別れていたし、爽太とはもう付き合っていたし、それなのに、稔の子を妊娠しているってわかって、どうしていいか途方にくれてた」

「くるみ…」

 菜摘ちゃんのお母さんが、少し身を乗り出した。


「…ごめん、目の前で、こんな話きついとは思うけど、聖…」

 母さんがそう言うと、みんなが一斉に俺を見た。

「おろそうかとも思ったの。産んでも誰も、幸せになれないんじゃないかって…」

 俺の顔が、多分相当引きつったんだろうな。菜摘ちゃんのお母さんもお父さんも、顔を青ざめて俺のことを心配しているようだった。

「だけど、産む方を選択したの。爽太が、父親になるって決心してくれたから」

 今度は、二人して隣のテーブルの席にいた父さんを見た。父さんは穏やかな顔つきで、俺のことを見ていた。


「ごめんね。稔。ずっと黙っていて。でも、聖の父親は爽太しかいないって思っていたし、なんだか二人を見ていると、本当に血の繋がった親子にしか見えなくて。別にね、真実を言わなくてもいいんじゃないかなって、ずっと私そう思ってた」

「……」

 誰も、口を開かず聞いていた。

「だけど、やっぱり、言わなくちゃいけなかったのよね。聖と稔の子が出会うことがあるなんて思ってもみなかった。でも、実際起きてしまったんだから」

「くるみ。こんな偶然は、神様のいたずらか意地悪でしかないって思ったのよ、私」

「梨香…」

「あの子、相当、聖君のこと、好きだったみたいだし…」

「ごめんね」

 母さんは、また謝った。でも、母さんが謝る必要なんてあるんだろうか。


「今日も、見ていられないほど、あの子…」

 菜摘ちゃんのお母さんは、少し言葉を詰まらせた。その横で、菜摘ちゃんのお父さんがしかめっ面をして、それから、

「すまん。俺のせいだな」

と、いきなり頭を下げた。

「え?!」

 俺も母さんも、父さんもびっくりしてしまった。


「あの頃にはもう、梨香とも付き合っていた。でも、俺は中途半端な気持ちでいた。その結果だ」

 菜摘ちゃんのお父さんは、ものすごく辛そうな声でそう言って、全然頭をあげようとはしなかった。

「くるみには、辛い思いをさせた。別れてからも、ずっと苦しませていたんだな。そうとは知らず俺たちは、くるみに許してもらったことを喜んで、結婚のことまで考え出して…。何も知らずに」

「あなた…」

 菜摘ちゃんのお母さんも、驚いた様子でいた。

「梨香、聖君もくるみも悪くはないんだよ。全然悪くないんだ。今日も菜摘は話していた。菜摘と聖君が兄妹だとわかって、聖君も苦しんだだろうし、菜摘には、それがわからないようにいろいろと手を尽くしてくれていたんだと…。それもわかってさらに、あの子は苦しんでいるんだ。それも、全部の原因は俺にある」

「そんな、稔一人の責任じゃないのよ」

 母さんはそう言って、ちらりと父さんの方を見た。


 父さんは静かに席を立って、俺と母さんの後ろに立った。

「稔さん、俺たち、全然辛い思いはしていませんよ。その逆です」

「え?」

「くるみのお腹に子どもがいるとわかって、結婚も決意しましたし、俺もくるみも俺の両親も、みんなが子どもが生まれてくることを喜びました。生まれてからだって、聖がみんな可愛くて、愛しくて、みんなで喜んでいたんです。もちろん、俺もです」

「……」

「だから、聖がこの世に生まれたこと、後悔するようなことは言わないでくれますか?」

「後悔?」

「そりゃ、菜摘さんは今、辛い思いをしていると思いますが…。でも、それは聖も一緒です。聖だって、菜摘さんのことが好きだったようですし、俺と血が繋がっていないことを知って、1番傷付いていたと思いますし…」

「……」

 菜摘ちゃんのお父さんは、俺の方を見た。

「でも、傷付いているかもしれないけれど、俺ら、ちゃんとそんな聖を受け止めていこう、見守っていこう、信じていこうって思っていますから」

 父さんは、まっすぐに菜摘ちゃんのお父さんを見ていた。真剣だけど、穏やかな表情だった。

 俺は、その顔も、そして父さんの言葉も、全部すげえって思っていた。


 しばらく、菜摘ちゃんのお父さんは黙っていた。それから、俺の方をまた見て、

「俺とは、血が繋がっている…。俺の息子なんだな」

と呟いた。俺はそれを聞いて、なんだかもやっとした。

「もし、くるみが妊娠したとわかった時に聞いていたらどうしていたかな。父親にならなくてはと思ったかもしれないし…。引き取るって言い出したかもしれないし。どうしていたかな…」

 そう言ってから、

「梨香とも、結婚していたかどうか…」

と、菜摘ちゃんのお父さんは呟いた。


「だったら、良かったってことでしょ?」

 思わず俺は、口にしていた。

「え?」

 全員が、俺を一斉に見た。

「さっきから、ごめん、ごめんってみんな謝ってばかり。でもさ、良かったんじゃないの?今の状況」

「聖…」

 あんた、何を言い出すのって顔で、母さんが俺を見た。

「母さんも言っていたよね?全部必然だって。そりゃ、俺だって初めは驚いたよ。ショックだったよ。ずっと大好きで、尊敬していた父さんと血の繋がりがないってことをさ。それに、俺も菜摘ちゃん好きだったよ。なんだよ、この展開って思ったよ。だけどさ、血の繋がりなんて関係ないって思えてきたし、俺にとってはやっぱり、父さんはすげえ尊敬できる存在なんだよ」

「…聖」

 母さんが、目を細めた。


「母さんのことも、俺、大好きだし、母さんや俺のことを愛してくれてる父さんのことも俺、大好きだし。血の繋がりなんて関係なく、俺のことを愛してくれてる父さんも、じいちゃんやばあちゃんのことも、俺、大好きだよ。この家に生まれて、まじで良かったって思ってる」

 父さんの顔が歪んだ。泣くのを我慢しているみたいだ。

「それに…」

 俺は、菜摘ちゃんの両親を見ながら話を続けた。

「それに、今、俺は二人がいてくれて支えてくれているから、辛いことがあっても大丈夫なんだ。一緒に乗り越えてくれる家族だから」

「……」

 みんな、黙って俺の話を聞いていた。俺は、なんでだかわからないけれど、口から勝手にどんどん言葉が飛び出していた。


「だから、絶対に、菜摘ちゃんだって大丈夫なんだ。だって、二人がいるじゃんか」

 菜摘ちゃんの両親は、お互いの目を合わせた。

「それに、ついていてくれる友達もいるんだろ?俺にもいるよ、友達。こんな時の友達だろ?辛いこと、悲しいことがあって、そばにいてくれて、励ましてくれて、支えてくれる、それが友達とか家族なんじゃないの?」

 二人は目を丸くして、俺のことを見た。

「だから、菜摘ちゃんに同情はしないし、こんなことになって悪かったとも思わないし、逆に…」

 みんなは、固唾を飲んで俺の話に耳を傾けている。

「逆に、家族や友達の絆、深まるんじゃないかって思っているよ」

「……聖」

 母さんが、涙をいっぱい目に溜めて俺の顔を見た。


「俺が、そうだったみたいにさ…」

「そうか…。聖君は、そうやって乗り越えたのか」

 菜摘ちゃんのお父さんが、俺にそう聞いてきた。

「乗り越えられたかはわからない。でも、今は父さんの子で良かったって思っているし、産んでくれたことに感謝もしている」

 そう言うと、俺の後ろにいた父さんが、俺の肩をぎゅっと抱いてきた。

「なんだよな~~。お前な~~。ほんとにもう、可愛い奴だよな~~」

 ついでに、俺の髪をぐしゃぐしゃにした。

「ちょ、話終わってないから。邪魔しないで、父さん」

「え?ああ、ごめん」

 肩を抱いていた父さんの手は緩んだ。でもまだ、俺の肩を抱いたまま隣で何やら感激しているようだった。そんなのおかまいなしに、俺は話を再開した。


「だからさ、菜摘ちゃんは、立ち直るまでどれくらいかかるかわからないけれど、でも、いつかは俺、兄妹として接していけたらいいなって思っている」

「え?」

 菜摘ちゃんの両親が、びっくりして聞き返してきた。

「俺には、杏樹って妹がいる。今、中1で、すげえ元気で可愛い。俺、結構大事に思っているんだよね。その杏樹と同じくらいに、菜摘ちゃんのことも思えたらいいなって思っているよ」

「妹?大事な?」

 菜摘ちゃんのお母さんが、確認するように聞いてきた。

「あ、今は無理かもしれない。菜摘ちゃんの方が、受け入れられないかもしれないけれど…」

 俺は、そう付け加えた。

「でも、いつか俺のこと兄貴って心底思ってくれたら、今度は、菜摘ちゃんが何か悩んだり、苦しんだりした時に支えになれるでしょ?」

 俺がそう言うと、また父さんが、

「お前って奴はさ~~」

と、俺の髪をぐしゃぐしゃにしてきた。

「ああ、もう!髪、ぐしゃぐしゃにしないでくれる?これ、直すの大変なんだよ」

 父さんに向かってそう言うと、父さんは涙ぐみながらすんごく嬉しそうに笑った。


「わかったよ。聖君。君は、本当にくるみや爽太君に愛されて育ってきたんだな」

「…え?」

 乱れた髪を整えていると、突然菜摘ちゃんのお父さんがそう言ってきて、俺は慌てて顔を向けた。

「見ていてわかるよ。君はこの家に生まれて、くるみと爽太君の息子として育った、それが1番良かったことなんだ」

「稔…」

 母さんは、エプロンで目を拭いていた。

「そうなんです。それが1番だったんです。聖が俺の息子になって、俺は本当に嬉しいし、誇りだし、幸せなんです。だから、生まれてきたこと、この世に聖が生を受けたことに、めっちゃ感謝しているんです。だから、稔さんにも感謝しているんです」

 父さんは、目を輝かせて俺の肩を抱きながらそう言った。

「感謝?」

「稔さんがいなかったら、聖はこの世にいないんです」

「……」

 少しきょとんとした顔をしてから、菜摘ちゃんのお父さんは、俺の顔を見て眉をしかめた。


「そうか…」

 そう言うと、目頭を押さえてから、

「じゃあ、もう後悔はしないことにしよう。それに…」

と言って、俺の方にしっかりと向き直り話を続けた。

「菜摘が立ち直って、君の事を兄だと思うことが出来るようになったら、うちにも遊びに来てくれるね。こんなことを言うのはなんなんだが、君は俺の事を父親とは思わなかったとしても、俺にとっては自慢の息子っていう気がしてならない」

 俺を?自慢の息子?

「血が繋がっている。それだけだけどね。こんなふうに育ってくれたのは、くるみや爽太君のおかげだし、二人には感謝している。こんな素晴らしい息子を、育ててくれたんだからな」

「……」

 まだ、俺は変な感じだった。胸の辺りがざわついて、この人のことを父親だとはどうにも思えそうもない。


「いつかそんなふうに、聖が遊びに行ける日が来たらいいですね」

 父さんの言葉にも、俺は納得いかなかった。

「でも!俺には父さんは、父さんだけだし!」

 慌ててそう力説すると、

「ありがとう。でもな、二人父親が居るってのも、結構いいものかもしれないぞ」

と父さんは、俺に小さくウインクをした。

 ああ、こういうところもすげえって思う…。俺の頑なな心は、簡単に溶けた。父さんの寛容な言葉で、いとも簡単にあっさりと。胸のざわつきも消えていって、肩の力もふわっと抜けた。

 母さんの方に目を向けると、ぼろぼろに泣いていた。

「ああ、くるみ、泣き虫だからな~」

 ティッシュの箱を持って、父さんは母さんに渡した。そして、愛しそうに母さんを見つめている。


 そのあと、菜摘ちゃんの両親は、菜摘ちゃんのことはしっかりと見守って行くよと言い残し、帰っていった。

「さてと」

 父さんは、テーブルと席をきちんと並べてから、

「そろそろ店を開ける時間だよ?くるみ、大丈夫?」

とにっこり微笑んだ。母さんも、

「大丈夫よ」

とにっこりと微笑み返し、俺の方を見ると、

「聖、本当に私たちの子どもになってくれてありがとうね」

と俺にも笑顔を向けた。


 俺は何も答えなかった。照れくさいのもあったし、なんて言っていいかわからず、

「部屋にいるよ」

とだけ言うと、さっさと2階に上がった。そして「自叙伝」の続きを読んだ。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺は、お腹の子の父親になる決心をし、それならとくるみにプロポーズもした。くるみは、すぐにイエスと返事をしてくれた。

 くるみのつわりが治まり、安定期に入った頃に式を挙げた。


 くるみはね、両親を結婚式には呼ばないって初め言っていたんだ。でも、俺は、せめて招待状だけでも送ろうよって提案をした。くるみは二人とも来ないと言ったけれど、わからないよね。来たいって思うかもしれないし。

 もし、来なかったらその時だ。悲しかったら泣けばいい、それを俺が受け止めるよってそう言って、招待状は送ることにした。


 でもね、くるみの両親は、二人とも出席してくれたんだ。お母さんは再婚した相手と一緒に出席をした。

 その人、松井さんっていう人だけど、聖が生まれてからちょくちょくくるみのお母さんと来て、聖のことを可愛がっているよ。


 くるみは、バージンロードを実のお父さんと歩いたんだ。感動的だったよ。

 くるみはね、お父さんにもお母さんにも、大好きだったってことを告げていた。憎んだこともあったけれど、やっぱりずっと、二人のことは大好きだったってね。


 くるみのお母さんもまた、親から生まれなければ良かったとか、そういうことを言われて育ってきたらしい。自分の子にはそんなこと言いたくないって思いつつ、言っちゃっていたんだね。繰り返されちゃうのかな、そういうのってさ。

 でも、くるみは繰り返さないよ。だって、君の事を憎んだり、君を生まなきゃ良かっただなんて、後悔するようなことは一切起こるわけがないからさ。


 くるみも俺も絶対に、聖に「生まれてきてくれて、ありがとう」って言うよ。言い続けるから、覚悟していて。

 愛して、愛して、愛しちゃうからね。

 なんてったって、聖は、俺たちにとってかけがえのない存在だからさ。


 今もね、夜寝ている聖を見ていると、愛しくてたまんないよ。可愛くて可愛くて、くるみと目を細めて見ているんだ。

 くるみは、そんな時いつも聖に言っている。

「産んで良かった」

ってさ。


 どんなふうに、君は育っていくのかな。

 でも、どんな君も、愛していく。どんな君も、君という存在には変わりはしないのだから。


 俺とくるみの物語は、わかってくれた?

 なんか、恥ずかしいからくるみには内緒だよ。


 聖には、好きな子がいるかな?どんな子を好きになるのかな?

 いつか、聖に恋の相談なんてされたりするのかな。

 今は、なんだかそんな日が来ることが、すごく不思議だ。だってさ、まだおむつもしていて、くるみのおっぱい吸いながら、すーすー寝ちゃっているんだもんな。


 まだまだ、くるみの小さな恋人でいるのかな。あまりにも仲が良すぎて、たまに俺が嫉妬しているけれど。でも、いいや。聖、めちゃ可愛いから許す。


 いつか、聖と酒でも飲む日が来るのかな。楽しみだけど…。

 今はね、今の聖を、めいいっぱい愛することにするよ。

 これを読んでいる時には、きっと、その時の聖のことをめいいっぱい愛してると思うよ。


 ああ、やっぱり、こんなのくるみに読まれたら、超恥ずかしいから絶対に、内緒!


 じゃあね。

 また、そのうちに、書きたいことがあったら書くよ。


 聖の父さんより


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「なんだ、続きはないじゃん。そのうちってのは、なかったんだ」

とか言いながら、俺はものすごく嬉しくなっていた。愛してるなんてこっぱずかしいけれど、でも嬉しかった。

 これを母さんに見せる気はなかった。だって、父さんの愛してるって言葉、やっぱり恥ずかしいもんな。


 ああ、それにしても、自分の息子に血は繋がっていないとはいえ、こんなの書けちゃうのもすげえって思うよ。

 いつか、俺も父親になる日が来る。そうしたら、父さんや母さんが俺のことをめいいっぱい愛してくれたみたいに、愛したいって思う。

 あ、もちろん、父さんが母さんを愛したみたいに、俺も好きな子は大事に思って、めいいっぱい愛しちゃうんだ。

 って、思わず桃子ちゃんのことが、頭に浮かんだ。


 ああ。桃子ちゃんには、話したほうがいいかな。今日の出来事。

 そう思って、俺はすぐに桃子ちゃんにメールをした。そして、店の定休日の水曜、夕方に会うことにした。

 俺は、夜店の手伝いをする時間まで、長々となんでもないようなことを桃子ちゃんとメールしあい、幸せ気分に浸っていた。

 ああ、一つ一つの文もかっわいいんだよな~~~。

 もう、でれでれだね、俺。



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