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1 二人の出会い

 その日は、店のパートさんが産婦人科の検診の日でお休みだった。その代わりに、朝は春香が学校に行く前に店の手伝いをして、俺はクロと散歩しに海に出ていた。

 あ、クロっていうのは、ラブラドールのクロ。今はまるで聖を子どものように、可愛がっているよ。寒い日は、聖の横で一緒に寝て、聖のことをあたためてあげたりしている。


 ああ、そうだ。書き忘れていた。これを聖が何歳の時に読むかはわからないけれど、これを書いている時の聖は、まだ1歳にもなっていないんだ。俺とくるみの思い出を、忘れないうちに書いておきたいから、今のうちに書いておこうと思ってさ。

 もしかしたら、書き終わってもまた、聖が成長している間に、あれこれ書き足すかもしれないけどね。


 話は戻って。その日は、4月だっていうのに肌寒い日だった。今にも雨が降りそうな天気の中、俺はクロと散歩に出たんだ。

 サーファーが何人か海にはいたけれど、砂浜には人がいなかった。海を歩いていると雨が降ってきた。でも、小雨だったから俺は、そのままクロと歩いていた。


 波の合間にサーファーが見えた。波がけっこうあって、砂浜から見ていると、波の合間にサーファーが時々消えて見えなくなる。

 そんな中、髪の長い女性が海に向かって歩いているのが見えた。どう見ても、サーファーじゃない。普通の服を着ている。それに、スカートはいている!でも、どんどんと海に入っていっている。

 異変に気付いたクロも吠えたけれど、遠いし聞こえていないようだった。

「クロ!先に走って、あの人、つかまえてて!」

 クロは、「ワンワン」と吠えて、すごい勢いでその人めがけて走っていった。俺もその後を追いかけた。


 クロが、その人のスカートに噛み付いた。

「クロ!離すなよ!」

 その人は、振り返って俺の顔を見た。すごく驚いた表情をしていた。でも、綺麗ではかなげで、まるで迷子になった小さな子どものように不安げな悲しい目をしていた。


 その人が、聖、君の母さん。くるみだよ。


 驚いた?もしかするとその時、俺が海に行かなかったら、母さんは今生きていなかったかもしれないし、聖はこの世に誕生しなかったかもしれないね。

 雨と海の水に濡れて、くるみはガタガタ震えていた。そのまま、俺はくるみをれいんどろっぷすに連れて帰ったんだ。


 それが、俺とくるみとの出会い。


 偶然とも思えるけれど、必然だったと思う。会うようになっていたんだ。多分ね。じゃなきゃ、もうその時には、お腹にいた聖は生まれてこなかった。

 ってことはさ、俺はくるみだけじゃなく、聖の命の恩人でもあるわけだ。二人分の命を救ったってことになるね。ちょっと、感謝しろよな。って、恩着せがましいか。


 あ、もしかするとさ。お腹の中にいた聖が、俺とくるみを引き合わせたんじゃないの?くるみの命を救うためにさ…。なんてね。いきなりそんなこと、思っちゃったよ。

 まあ、いいや。続きを書いていくことにするよ。


 れいんどろっぷすについて、母さんが、あ、この母さんっていうのは、聖のばあちゃんのことね。母さんが、大変ってタオルや春香のスカートを持ってきてくれた。

 それに着替えて、母さんの淹れたハーブティを飲んで、真っ白だったくるみの顔に赤みが差してきた。俺も母さんもそれを見てほっとした。


 母さんは何も聞かなかった。でも、くるみの表情や、冷え切った体を見て、なんとなく気が付いていたんじゃないかと思う。

 俺も、根掘り葉掘り、死にたい理由を聞くことはしなかった。そりゃ、人間誰しも一回や二回、死にたいって思うこともあるだろうし…。あ、言っておくけど、俺には一回もなかったけどね。


 死にたい理由よりも、死にたい気持ちから生きたいって気持ちに変わったらいいなって、俺はそう思っていた。でも、どうしたらいいかまったくわからなくて、とにかく俺は喋りまくっていたと思う。俺の名前、母さんの名前、クロの名前、思い付くままに。


 くるみはようやく口を開いたけれど、俺のことを睨んで、

「あんたなんか、大嫌い」

って言ったよ。嘘だと思う?今のくるみじゃ信じられないことだよね。でも、その後にものすごく悲しい表情をした。きっとそう言って、俺より傷付いたのはくるみの方だったと思う。


 俺さ、多分その時から、くるみのことが好きになっていたんじゃないかって思う。なんだかよくわからないけれど、ものすごくくるみのことが気になって、その悲しさをどうしたら幸せな気持ちに変えられるのかって、なんとなく心の底で思っていたから。


 くるみは、この辺に空いてる部屋はないかって母さんに聞いた。母さんは、一部屋空いているから、うちに住むといいと言った。

 なんとなく、母さんもくるみのことが気になっていたと思う。なんていうのかな、俺がくるみと出会って店に連れてきた。そのことが単なる偶然でもないし、その場だけで別れちゃうような、そんな人じゃないって母さんも思っていたと思うよ。


 仕事も探しているって言うから、れいんどろっぷすで働いてくれないかと母さんが言った。ちょうど、その時のパートさんが妊娠していて、あと何日かで仕事を辞めないとならない時だったんだ。

 今思えば、そういうのも全部、いろんな偶然が重なっていて、くるみはうちに住むようになっていたんじゃないかって気がする。


 それから、俺はくるみを駅まで送って行った。くるみは笑顔になっていて、その笑顔が俺はものすごく嬉しかった。その笑顔をずっと見ていたいな…とか、ずっとくるみが笑顔でいられるように、俺ができることはしてあげたいな…とか、そんなことを思っていたよ。


 くるみは2日後には、れいんどろっぷすにやってきた。それから、くるみがずっと俺のそばにいるって暮らしが始まったんだ。思えば、ほんと、それ以来ずっと一緒にいるよ。


 俺の母さんと父さんの話は、まだ聖にしてないね。


 父さんは22歳の時、癌で死んじゃうかもしれないって言われていた。でも、母さんはそんな父さんと結婚をして、赤ちゃんが出来た。

 二人で、毎日毎日を大事に生きたんだ。そうしたら、奇跡が起きた。父さんの癌、治っちゃったんだよ。手術もしていないし、何もしていない。なのに癌細胞が全部、消えちゃったんだって。


 そして、赤ちゃんが生まれた。それが、俺。母さんも父さんも、めちゃくちゃ俺のことを愛してくれた。父さんは、もう会えないかもしれないって思っていたから、俺が生まれた時は嬉しくて泣いてたってさ。


 2年後には、春香が生まれた。

 俺と春香は、すごく大事に育てられた。父さんと母さんはものすごく仲が良くて、じいちゃんやばあちゃんも、とにかくみんなが仲良かった。何かっていうと集まっては、お祝いもしていたしね。


 だけど、くるみは違っていた。両親に愛されず、育っちゃっていたんだ。

 あ、このことはまた後で書くよ。


 父さんも母さんも、くるみを歓迎していた。春香もまるで、お姉さんができたかのように喜んでいた。


 俺は初め、くるみが7つも年上だなんて思っていなくて、せいぜい1~2歳上かなくらいしか思っていなかった。っていうのもさ、海で死にそうだったくるみ、ほんとに迷子の子どもみたいな表情をしていたんだ。幼く見えちゃったんだよね。

 だから、俺にとって最初から「お姉さん」っていう感じはしなかったな。


 くるみは、すぐに店の仕事も覚えて、しっかりと仕事をしていた。それどころか、家の中のこと、掃除や洗濯もしてくれていた。

 初めは、口数も少なかったけれど、徐々に俺ら家族にも慣れてきて、みんなでリビングでテレビを観たり、食事をしたりしていたよ。

 父さんや母さんの能天気さに触れて、くるみもすぐにうちの家族に溶け込んだんだろうな。


 俺はとにかく、くるみの笑顔を見るのが好きで、その笑顔をずっと見ていたいって思っていて、くるみがリビングにいる時には一緒にいるようにしていたし、くるみが俺の仕事場に弁当を持ってきた時にも、一緒にいられるように休憩してコーヒーを飲みに行ったりしていたんだ。


 そうだ。一回、くるみとコーヒーを飲みに行った時に、その頃付き合っていた子と鉢合わせをしたことがあったっけ。五月ちゃんといって、俺よりも2こ下の子。近くのコンビニでバイトをしている子だった。その子とは、のちに3角関係みたいになっちゃって…。俺が優柔不断だったのが原因だったけどね。


 そうだ。少し、その辺のことを書いていこうかな。

 俺は情けないことに、女の子と付き合うっていうことが苦手だった。五月ちゃんと付き合う前にも、告白されて付き合った子がいるけれど、何しろ仕事が忙しくて全然会えなくて、3ヶ月でふられたんだよね。


 メールとか電話っていうのも、何かの用事があった時以外しなかったし、そんなの付き合っているとはいえないって言われて、別れ話が来ておしまい。

 でも、仕事の方をどうしても優先にしてしまう。仕事好きだったしね。あ、今でも仕事好きだし、楽しいんだよね。


 それから、しばらくは誰とも付き合っていなかった。忙しいし、もう彼女はいいやって思っていたけれど、五月ちゃんから告白された。

 初めは、仕事が忙しいからなかなかデートも出来ないし、付き合えないって言って断っていた。それでも、時々会ってくれたらいいって言われて、たまに会ってご飯食べたり、海とか散歩に行ったりしていたんだ。


 そのうちに、メールがよく来るようになった。メールがきた時にはなるべく返信した。俺の中では、付き合っているって自覚はなかったけれど、五月ちゃんの方からデートに行きたいとか言ってきた。

 ああ、彼女の中では、もう付き合っていることになっているんだな、っていうか、俺がそんな態度取っちゃっていたのかなって思ったよ。それで、これはもう五月ちゃんと付き合うっていうことを覚悟するしかないなって思った。


 覚悟って変だよね?付き合うのに覚悟も何もないと思うけれど、そう思っちゃったんだよね。

 会う時には、いつも緊張した。何を話していいやらわからなかった。だから、いつも五月ちゃんの話を聞いていたと思う。

 デートの約束をしても、仕事とか、店の手伝いが入って断ったこともあった。初めは、仕事だから仕方ないと言っていた五月ちゃんも、だんだんと怒るようになってきていた。

 だから、なんだか、二人で会うのがますます憂鬱になっていた。そんな時に、俺とくるみが一緒にいるところで、五月ちゃんに会っちゃったんだ。


 くるみは、気を使ってすぐに帰ろうとした。でも、二人きりになるのが嫌でくるみを引き止めてた。デートがまた、仕事と重なって出来ないって言うと、五月ちゃんは怒って帰っちゃった。くるみはそれも気にして、追いかけなくていいのかって聞いてきた。

 俺は、当然のことだけれど、くるみといる方を選んだ。不思議とくるみとはなんでも話せた。それこそ、五月ちゃんとのことまで相談にのってもらった。一緒にいると安心した。あったかくてほっとした。


 女の子は苦手で何を話していいかわからない俺には、くるみは初めから特別だった。なんでかわからないけれど、自然体でいられた。

 それに、くるみの見せる笑顔がやっぱり俺は嬉しかった。俺の話を聞いているくるみも、優しい表情になって嬉しかった。だから、一緒にいたかった。


 店のカウンターでご飯を食べている時、隣でくるみも食べていたりすると、ついくるみの方を見ちゃっていたし、くるみが店の掃除とかしている時には、カウンターの奥にある食器棚にくるみの姿が映っていて、それをじっと眺めていたな。

 とにかく、くるみのことを見ていたかったんだよね。


 でも、俺、その頃くるみを自分が好きだって知らなかったんだ。信じられる?自分でそのことに、気付いていなかった。

 母さんは気付いていた。父さんまで。はたから見たら、一目瞭然だって言われた。だって、俺はいつでもくるみのことを目で追っていたし、なるべくくるみといられる時間を持とうとしていたし、くるみの笑顔を見て、すごく嬉しそうにしていたんだってさ。


 そのへんは、自分でも気付いていたよ。

 でも、それはただ単に出会いが強烈で、俺が助けたようなものだから、そんなくるみには幸せになって欲しいって思っていたから…。そんな責任感とか、勝手に幸せを願っているだけだってそんなふうに思っていたんだ。

 だから、まさか自分がくるみのことを好きだなんて、思っていなかった。

 くるみもだ。俺の恋の相談も聞いてくれていたし、俺のことは弟くらいにしか思っていないんだろうなって思っていたよ。7歳上だって知ってからは、もっとくるみは俺のことを弟くらいにしか思っていないんだろうなって、そんな気になっていた。


 くるみを好きになったのは、いや、好きだって自覚したのはくるみに、

「それは恋だよ」

って言われたからだ。

 変な話だろ?その時にも、くるみに相談しちゃったんだよね、俺。

 まあ、詳しくはこれから、徐々に書いていくよ。


 それにしても、これを聖はいつ読むのかな?大人になってから?ある程度は恋とかを知ってからの方がいいだろうな。じゃなきゃ、いったい何を書いているんだかわからないよね。


 でもある程度大人になっちゃっていたら、自分の親父の恋の話なんか聞きたくないかな。

 もし、今、恋で悩んでいたとしたら、逆に俺の話は、何かの参考になるかな。そうだ。何かの手助けになることを願いながら、書いていくとするよ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そこまで読んで、俺は寝ることにした。恋か…。今の俺にはちょうど、いい話かな…。


 ベッドに横になって考えた。菜摘ちゃんのことを。

 父さんのように確かに、菜摘ちゃんの笑顔を見るのは好きだし、一緒にいられるのは嬉しい。でも、一緒にいて安心感っていうのはない。その逆ならあるけど。やたらと緊張してしまって、話すらできなくなる。自分が固まっちゃって、いつもの自分じゃなくなっているって感じることが多い。

 ここまで読んで、どっちかっていうとその五月ちゃんといる時みたいなんじゃね?とも思った。


 あ、ちょっと違うかな~。俺が、自然体でいられる相手…。

 蘭ちゃん。菜摘ちゃんが、蘭ちゃんと仲がいいよねって言っていたっけ。仲がいいっていうよりは、話しやすい。一緒にアホなことを言って笑って、とても気が楽だ。

 でも、安心するのとは違う気がするな。


 はあ…。なんか、いきなりいろんなことがあって、今日は疲れた。

 俺はもう、何も考えないで寝ることにした。その辺は俺の得意技だ。考え込むのはすごく苦手。考え込み出したら頭が痛くなるから、全部一回忘れて寝るようにしている。



 翌朝、一階に下りていくと、母さんと父さんがもう店のカウンターで朝食を終えたらしく、一緒にコーヒーを飲んでいた。


「あ、聖。おはよう」

 俺に気付いて先に声をかけてきたのは、父さんだ。母さんは、ちょっと不安げな顔をしていた。

「おはよう、聖…」

 声も少し元気がない。目の下にはくまができているから、多分寝れなかったんじゃないかな。でも、いつものごとく、父さんが母さんをあれこれ元気づけてたに違いない。


「朝ごはん、用意するわね」

 母さんは、キッチンに入っていった。父さんは俺のすぐ横に来て小声で、

「昨日の読んだか?」

って聞いてきた。

「あ、少しだけ」

「少しだけ?」

「途中で眠くなったから」

「そうか…。そうだ、何度も言うけど、くるみには内緒な」

「わかってるよ」

 俺はそれだけ言うと、カウンターについてアイフォーンをいじりだした。そして、イヤホンをして音楽を聞く。これは、俺にもう話しかけるなよっていう合図みたいなものだ。

 父さんは、そんな俺を横目で見てから、リビングに上がっていった。


「はあ…」

 あれ以上とやかく言われても、まったく聞く気はなかった。まだ、俺自身、昨日のことをどう受け止めたらいいかも、父さんとどう接したらいいかもわからなかった。

 母さんは、

「はい…」

と、朝食をカウンターに置くと、さっさとキッチンに戻って行った。俺が、話しかけるなオーラを出している時、絶対に母さんは話しかけてこない。まあ、たいていが、そのうちに母さんが優しい目で俺を見ているのに気が付いて、俺から話しかけるんだけどさ。


 杏樹はテニス部に入っていて、朝7時前には家を出る。だから、俺が起きてくる時にはもういない。 中学1年で、よく頑張っていると思うよ。


 その日は、朝飯を食べてすぐに着替えをして、さっさと俺は家を出た。

 相当、早くに学校に着くからちんたら歩いていくことにした。そうだ、どうせなら海でも見てから行くか。

 海に行く道の方に向かった。浜辺に着くと、父さんと母さんの出会いを思い出していた。

 まさか、母さんが自殺をしようとしていたなんて、今は考えられない。

 何がそんなに辛かったのか。父さんは、ばあちゃんやじいちゃんにいっぱい愛されて育ったって言うけど、母さんは違っていたって。


 でも、母さんのばあちゃん、じゃなくて母さんの母さん、時々遊びに来て、俺のことも杏樹のこともめちゃくちゃ可愛がってくれていたよな。最近は、こっちが遊びに行くことが多いけどさ。

 ああ、でも、母さんの両親は離婚していたっけ。母さんのほんとの父さん、俺が会ったのって数少ないや。

 じいちゃんって俺らが呼んでいるのは、ばあちゃんの再婚相手だもんな。すげえ、優しいじいちゃんでいつもニコニコ顔だ。えっと、もういくつだっけ?けっこうな年だよね。


 父さんの方のじいちゃんはまだ若いけどさ。俺が小学生の頃に伊豆に引っ越しちゃって、今はヨットとか乗ってる。ヨットって…、すげえよな~~。ほんっと、若いよな~~。

 ばあちゃんは、伊豆でカフェを開いていて、春香さんもそこを手伝っていて、春香さんの旦那さんの櫂さんは、伊豆でサーフィンショップを経営しながら、サーフィンしたり、じいちゃんとヨット乗ったりしている。(俺も伊豆に遊びに行くと、櫂さんにサーフィン教えてもらったりするんだ)

 じいちゃんと櫂さんは、今はすごく仲がいいけど、結婚する時には思い切りじいちゃんが反対したとか。式にも出ないと、ぎりぎりまで言い張っていたとか…。笑えるよな。あのじいちゃんなら、やりかねないよ。


 いつも集まると、わいわいわいわい、お祭り騒ぎで楽しいんだ。でも、そんなじいちゃんやばあちゃんとも血が繋がっていないんだな、俺。


 そう言えば、母さん、俺がお腹の中にいるっていうのに別れたんだ。前の彼氏、つまり、菜摘ちゃんのお父さんと。なんでかな…。それが原因で、死のうとしていたのかな。

 じゃ、菜摘ちゃんと会ったのは、実は苦しい頃のことを思い出しちゃって、母さん辛い思いしたんじゃないのかな。


 海を見ながら、俺はそんなことも考えていた。そういうのも全部、これから読む父さんが書いた物語に書かれているんだろうか…。

 先を読みたいような、読むのが怖いような気もした。何が怖いかって、1番怖いのは母さんのことだ。母さんがどんなに苦しい思いをしていたのか、死のうとまでしていたなんて、どんなことがあったのか、それを知るのが怖かった。


 なんで、怖いのかな…。

 やっぱり、俺がすげえ好きな母さんのことだからかな…。


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