七話
見上げるほどの巨体、口元の牙、角、手に持つ赤く染まった武器、そしてオーラ。どれをとっても恐ろしいものばかりだ。でも私は怖いとは思わない。私には守るものがあるから。
「ルーカス、敵は魔法も剣術もうまい。油断するな。」
「はい。」
『アイス・ソーン』
氷の茨。これで敵の動きを封じる。
「悪いな。民を守るため、お前には消えてもらう。」
『アイス・アロー』
オーガの心臓めがけて氷の矢を放つ。
「グガァァッ!」
矢は確かに狙ったところに直撃した。だというのに敵は倒れておらず、さらにはこちらに武器を振り翳している。
キィィンッ
「ルーカス!」
ルーカスはオーガの振り下ろした剣を彼の剣で受け止め弾いていた。
「・・・ありがとう。」
彼は振り向いて言った。
「言ったでしょう。私は民を守るあなたを守ります。」
かっこいいと、思った。同時に少し照れてしまい、私は照れ隠しにこう言った。
「し、しかし参ったな。急所を貫かれても倒せないとなると・・・。」
「オーガは角を破壊されると息耐えると聞いたことがあります。」
「角、か。」
「随分と高いところにありますね。」
「まぁ、高さは魔法でなんとかなるだろう。問題は・・・。」
「?」
「あの剣だ。」
ぱっと見、柄の部分は黒地に赤で装飾されていて、美しい普通の剣に見える。だがあれにはおそらく一一
「呪いが付与されているな。」
「っ!」
「アレはおそらく血により強化される。厄介だな。」
「つまりアレに血が新たに付く前にアレを壊せばいいんですね?」
「できるのか?」
「お任せください。」
あの剣さえなければおそらく倒すのは可能だ。ありがたい。
「ならばあの剣を壊せ。そしたら私が角を破壊する。」
「お任せください。」
彼は髪を結び直し、ニヤリと笑った。少し、いや、だいぶ黒さの滲み出た笑みだった。
「我が一族の名にかけて、アレを破壊してご覧に入れましょう。」
不敵な笑みでそう言う彼はやはりカッコよかった。
〜ルーカスの目線〜
私は腰ほどまである黒く長い髪を結び直した。いつも集中する時はこうしている。
いよいよ我が一族の本領発揮。そう思うと気分が高揚して自然と笑みがこぼれてしまった。純粋とは言い難い、黒い笑みが。
「我が一族の名にかけて、アレを破壊してご覧に入れましょう。」
私はオーガに切り掛かった。何回か剣を交え、一度離れる。術は唱えられた。あとは実行するのみ。オーガに素早く駆け寄ると、オーガは剣を構えた。
「予想通りです。」
予想することが容易く、単調な動き。
「そんな腕前で、私に敵う訳が無いでしょう。」
剣を横向きに構え振った。次の瞬間オーガの剣は真っ二つに割れた。同時に呪いも解けたようだ。
「天と地ほどに差があるんですよ。私とあなたでは。」
すぐさま後ろに下がり、私は冷たく笑いながら言った。
「さすがだな。ルーカス。」
「ありがとうございます。さて、あとはお任せしても?」
「あぁ。もちろんだ。」
陛下は微笑みそう言った。獰猛な笑みだった。
サトライザー家。表向きは国に長年勤める普通の侯爵家。しかしその実態は、
『国王に長年仕えている魔の一族』
その名の通り、魔についての全てを担う一族。表向きは国王の次に宰相がくるが、実際は我が一族が貴族内で一番権力を持つ。なんせこの国は魔と深く関わりがあるのだ。魔に詳しく、魔を操る我らはこの国に重宝される。
我らは他とは比べ物にならないほど多彩に魔を操る。
それは我らに魔族の血が流れているからだ。
サトライザー家について、詳しくは次回で!!