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お姫様になってみたかった少女の話

ループ96回目のあの子の話。


 学園の門を潜った先は、私にとってはまるで異世界のようだった。

 皆私と同じ制服を着ているはずなのにキラキラと輝いていて、まるで不思議の国に迷い込んだみたいでドキドキしたのを今でも覚えている。

 授業が始まれば少しは慣れるかと思ったけど全然そんなことはなくて、私よりもずっと偉い貴族の方々は授業一つ受けるのですらピシッとしてて本当にすごい所に迷い込んじゃったんだと改めて思ったほどだ。


 私は、所謂下級貴族ってやつだしきっと怖いこともあるって不安だったけど、皆優しくて。私が鈍いだけだったのかもしれないけどそんなこともなくて、それなりに楽しく学生生活を送れていたと思う。

 確かに苦手な授業とか、わからない分野とかもあって困ったりもしたけど。先生もクラスの皆も優しくて、私が困っていたら助けてくれた。だから私も皆が困っていたら力になりたいって思ったの。


 学園はとっても素敵な所だった。

 確かに時々故郷の皆が恋しくなるけど、折角通えることになったんだからたくさん勉強して、いつか送り出してくれた皆の為になるんだって思った。

 毎日が楽しくて、毎日新しいことだらけで、毎日ワクワクした。クラスの皆は色んなことを教えてくれた。

 勉強のこととか、覚えておくといいちょっとした日常の所作とか。たまに、知らない人のちょっと危ない噂とかも聞いちゃって怖くなることもあったけど、それでも楽しいことばかりだったの。


 でもやっぱり、一番ドキドキしたのはこの国の第二王、クリス様の話!

 学園に入学してから一度だけ遠目で見たことがあるんだけど、とってもキラキラしていて、まるで絵本の中から出てきたみたいなかっこいい人だった。


 私からすれば普通の授業だけでも大変なのに、学生会の仕事もしていていつもにこにこしていて優しそうで、素敵な方だなぁなんて思っていたの。

 もちろんクリス様にはとっても綺麗な婚約者さんがいることも知っていたけど、こっそり憧れるだけならいいよね。

 だって友達も皆「かっこいいね」って言っているし、何より同じ学年とは言え生徒数も多いから私がクリス様とお話することなんてきっとないもの。だからちょっとだけ、皆と一緒に「かっこいいね、素敵だね」って言い合うくらいはきっと許されるはず。


 そんなある日のことだった。

 帰り際に先生に呼び止められる。なんでもこの後すぐに会議があるとかで、代わりに資料室にファイルを返してきてほしいんだとか。いつもお世話になっていますし、もちろん引き受けますとも。


 資料室は……四階の端だったっけ。慌てて駆けていく先生を見送ってファイルを胸に抱える。最近はこうして先生や皆からも声を掛けてもらえるようになってきた。

 いつも助けてもらっているから、お返しにもなるし笑いかけてもらえるのも嬉しい。

 もっとたくさん誰かの力にならたらいいな、なんてそんなことを考えながら階段を一段飛ばしで駆け上がる。


 不意に目の前に誰かの背中が現れた。

 赤みを帯びた金髪の綺麗なあの人。クリス様だ。お見かけしたのは一度だけだけど間違えるわけがない。


「あの、どうかしましたか?」


 話すことはないと思ってたけど、それでも私から話しかけたのは少し疲れているように見えたから。

 生徒会、と言っても表に出るようなこともなくどんなお仕事をしているのかもよくわからないけど、なんだか暗い顔をしているし色々気苦労もあるのかもしれない。

 なにか、私でも力になれることがあればいいのに。


「私アリス・ラーレって言います! 何か困りごとでしたらお手伝いしますよ!」

「あ、ああ。それはご丁寧にどうも……?」

「先生に頼まれたもの返してからになっちゃいますがそれでも良ければぜひ!」


 元気よく答えれば一瞬驚いたように目を丸くされた。

 あれ?変なこと言ってしまったかな……。心配になって首を傾げると何故か笑われてしまった。なんだろう、おかしなことを言ったつもりはないのだけれど。


「クリス様とお呼びしても?」

「構わないよ。よく知っていたね」

「自分の学校の生徒会長さんくらい覚えてますよ!」


 それに、この前遠目に拝見した時に素敵な方だなって思っていたんですもの。そんなことは恥ずかしくて実際には口に出しては言えないから、心の中だけで呟く。

 ふわりと微笑まれてなんだが胸がざわざわする。やっぱり素敵な方は笑顔まで素敵なのだと実感させられる。


「少し、人間関係で悩んでいてね」


 やっぱり偉い人は色々あるんだなぁ。私なんかが相談に乗ってあげられることなんてないと思うけど、少しでも力になれればいいのに。そう思いながらも相槌を打つ。


「私にも未熟なところがあるとはいえうまくいかないものだ」

「きっと大丈夫ですよ」


 こんな風に弱音を吐ける相手がいないのかもしれない。私じゃ頼りにならないかもしれないけど、せめて愚痴を聞くくらいならできるから。

 私の言葉を聞いて、クリス様が嬉しそうな顔でありがとうと言った。その表情を見てまた胸のあたりがくすぐったくなった。


「だってクリス様はお節介焼きな私にも、そうやって優しく笑いかけてくれるじゃないですか。きっとちゃんと!お相手の方にもクリス様の優しいところは伝わっていますよ!」


 だから大丈夫。根拠なんて何もなかったけど、私は自信満々に笑って見せた。

 するとほんの少しだけ間を置いて、クリス様が笑いかけてくださった。それだけで、なんだか幸せな気持ちになった。


「ありがとうアリス嬢。心が軽くなったよ」

「いえいえ!こちらこそお節介をしてすみませんクリス様」


 それからは他愛もない話をして、資料室の扉の前で別れる。私と話して少しでも気が紛れたのなら良かった。

 それにしても本当に素敵な人だったなぁ、クリス様。私にもにこにこ笑いかけてくれて、話にも付き合ってくれて。今更ながらに迷惑だったんじゃないかって不安になって来た。

 預かったファイルを元の位置に戻して資料室を退室する。クリス様が入って行かれた生徒会室の前を通る時、なんだかよくわからないけど変に緊張してしまった。


 早く帰ろう。そう思って早足に階段を下りていく時、もう一人、綺麗な人とすれ違った。

 長い金髪に赤い瞳。ああ、この人は。


 お互いに小さく会釈して通り過ぎる。

 多分、あの人がクリス様の婚約者さんだ。確かそう、ミランダ様。すごく綺麗で、同性の私でも思わずため息が出てしまう。

 いいな。すごいな。本当におとぎ話の中に出てくる王子様とお姫様みたい。なんだかすごくドキドキする。


 私も。いつかあの人みたいに誰かのお姫様にされたらいいな。




【いつかお姫様になりたかった少女の話】

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