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ループ令嬢と巻き込まれ王子のソワレ~怪文書を添えて  作者: ささかま 02
さぁ100回目も目前となってまいりました
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萌え出づる緑の中で


 今日も天気がいい。

 アンと話してからというもの、少しずつではあるがミランダとの時間を作るようにしている。と言っても何かが劇的に変わったわけでもなく、私が最初に繰り返した時よりもずっと会話少ないのだが。

 それでも少しずつ話すようにはなってきているし、良い傾向ではなかろうか。思い起こせば前回、前々回とはループ直前のことを意識しすぎてつい避けてしまっていた。

 いや。意識するなという方が土台無理な話だとは思うんだが、ミランダに私が記憶を持っていることを知られていない以上、かなり一方的であった自覚はある。


 ミランダの様子は相変わらずだ。

 こちらの事情を知っているのかいないのか、いつもの変わらない笑顔を湛えたままそこにいる。すっかり見慣れてしまっているその表情に、一周回って親近感すら覚える。


 彼女と交わす会話は本当に取り留めのないものだ。見たものだとか、誰かと話したこととか。そんな当たり障りのないことばかりを週に一、二度、時間を作って話す。

 正直これでいいのか? とも思わないでもないが、如何せんループする際のミランダの行動による心的外傷というかを癒すための時間が欲しい。要は彼女と向き合って会話することに慣れろという話だ。

 しかしまぁ、そんな私の地道な努力を揶揄する者のいるわけで。


「奥手を通り過ぎてちょっとアレだよね」

「ガキでももっと進んでるぞ」

「今の私は清純派を売りにしているんだ」


 相も変わらず私に対して口の利き方がなっていない友人二人の脇腹を小突いておく。なんでこいつらこんなに慇懃無礼なの? 二人いるんだからどっちかは諫めなさいよ。私が相手だから許してるんだぞ。

 どういうわけかこのレノックスとギルベルトの二人は私がどんな状態でも変わらず茶化しに来る。もう記憶の彼方にある大本のゲームの強制力なのか、学園に入れば必ず友人関係になるし、国外へ出た前回だってそれぞれ別の理由だったが私の店の方に来ていた。

 なんかもうここまでくると運命を感じるな。男同士の運命なんて正直ありがたくもなんともないし、それを実感した場所が学園の中庭とかロマンチックのかけらもないが。


 何やら教員側で諸々の事情がありぽっかりと授業一コマ分時間が空いてしまった昼下がり。他の生徒たちが授業を受けている合間に中庭で屯するという背徳感を味わう。

 風はあるものの日差しがある。手入れされた木々が揺らめいているからさわやかなに感じるが、そろそろ中に来ているベストがなくてもいいかもしれない。


「クリスの見た目で清純派ってキツイと思う」


 酷い奴め。ギルベルトもケタケタ笑うんじゃない。

 しょうがないだろう。私は頭のいい君らとは違って事前に予習してきたことくらいしかうまく出来ないんだから。元より回答が用意されているかもわからない女性の心境など私に理解できるわけがない。

 その点ギルベルトは最近、アリス嬢と仲が良いらしいじゃないか。確かに君は婚約者はいなかったが、幼馴染みのお嬢さんがいただろう。大丈夫? 私みたいな目に合わない?


 レノックスと目が合った。最近は本当に忘れていることの方が多いが、流石は女性向けシミュレーションゲームの登場人物。顔がいいな。

 無口という程ではないが寡黙で愚直な所が男女問わず密かに人気らしいと以前アンが言っていた。でもこの男、歯に衣着せぬ分ギルベルトより口が悪いからな? 普通アレとかキツイとか面と向かって言う? ……悪い奴ではないんだけど。


「もう少し踏み込んでも大丈夫なんじゃない?嫌い合っている訳じゃないんだから」


 まぁ、確かに嫌われてはいないと思う。いつだったかの日記には熱烈な愛の言葉が綴られていたわけだし、今までだって嫌われているような態度を取られたことはないはずだ。

 いや、嫌われてないよね? ミランダ的には浮気判定だったりとか、碌に話もせずに国外に高跳びした過去もあるんだが、むしろなんで嫌われてないんだ? 私が言うのも何だがもっと良い相手がいると思うぞ。

 あ、ダメだ。自分で言っておいてダメージ受けた。この話を深掘りするのはやめておこう。

 とにもかくにも、今現在私はミランダに嫌われてはいない。多分。その上でどうしたいかを考えよう。……この言い方もなんだかなぁ、こういうところなんだよなぁ私。


 暖かな日差しとは裏腹に妙に気分が沈む。尚、八割方自分の言動のせいなので救いはない。

 陰鬱な思考を振り払うように息を吐いた時、ふと視界の端に柔らかな輝きを見た。渡り廊下の柱の影、長い金糸の髪を緩やかに巻いた件の彼女がそこにいる。

 ああ、もうそんな時間か。降って湧いた空き時間も終わってしまえばいつもの学生生活に戻ってしまう。あとはいつもの様に机に向かって学業に励む時間だ。


 風が吹く。ガサガサと木の葉が揺れる音がする。影が揺れ踊り、柔らかな光が静かに寄り添う。

 レノとギルに声を掛けて踏み出した。向かう先は彼女のいる渡り廊下。別に、レノックスの言葉がきっかけではない。私自身もこのままでは良くないと常々思っていて、そのためにどうすればいいかはいつも考えていたのだ。


「ミランダ」


 彼女の名前を呼べば、そこでやっと視線が合う。

 赤いバラをそのまま映したような美しい瞳。風に揺れてきらきらと光る美しく繊細な髪。私よりもずっと華奢な肩。女性らしく、貴族の令嬢らしく。多少の贔屓目はあるだろうが多くの者が振り返るだろう美しい人。

 ミランダのことは嫌いじゃない。色々あったし困惑や衝撃もあったが嫌いになれなかった。

 私の好みとしてはもう少し健康的で程よくふくよかな方が好みだったはずだ。どちらかというと前世であった栗栖祐一の好みに近いから感情が引っ張られたのだ。だが、そう言い切ってしまうにはなんとも形容しがたいしこりが私の中に残る。


 口角が上がり、ミランダがいつもの変わらない笑顔を私に向ける。

 彼女がいつも冷静で、思慮深いことくらいわかっている。そんなこと私が一番よく知っている。だから、彼女が笑顔を向けてくれている内は大丈夫。


 多分ミランダは、私のことが好きだ。

 私に強い感情を抱いている。それが別の何かだったならこんな事にはならなかったかもしれない。だが、彼女のそれは紛れもない愛情だったから、少しばかりややこしくなってしまっただけのこと。


 深呼吸をする。別のアプローチお方法であったなら、私も素直に受け入れられたかもしれない。いや、彼女は私よりも途方もないくらいの回数を繰り返しているんだったな。その中で何度も試行錯誤したのかもしれない。

 その上で受け入れなかったのは私の方か、我ながらどうしようもないな。


 いつもの様に彼女が笑う。どうかしたのかと問いかけながら、穏やかな、それでいて感情の読めない笑みで。

 私の望んでいた物と、彼女の抱いている思いは違う。すり合わすことは可能だろうが、それでは何れ齟齬をきたしてしまうだろう。そうなればきっともっと苦しむこととなる。彼女も、私自身もだ。

 そうならないためにはどうすればいいのか。結局アンの言う通りきちんと「コミュニケーションを取る」に戻ってくるんだろう。


 少し眩しいくらいの日差しの中から彼女の傍へ。中庭の方にいる時は少し暑いかと思ったが、やはり日陰の中では風が吹くと肌寒く感じる。

 そんな冷えた空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。


「少し、話をしないか?」


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