猿、のような顔
濁った水の中に、猿のような顔を見た。ポタポタと空から雫が落ちてきて、その顔は揺れた。写真を撮ろうとすると、顔は消えた。
ラーメン屋に入り、コップに注がれた水には油のようなものが浮いていた。それを避けるようにして飲むと、逆にそれは口に吸い込まれた。運ばれてきたラーメンには、でかい脂が浮いていた。背脂というらしい。その脂には不快感を感じなかった。どんぶりに触れると、ベタベタしていた。ちゃんと洗っていないのかもしれない。これを食べたら、しばらく人の作ったものは食べないようにしようと思った。割り箸を割ると、木の粉がラーメンに入った。この割り箸は腐っているのかもしれない。
会計をすると、一杯ラーメンを食べるごとにスタンプを押してもらえるというカードを渡されそうになった。いらない、と言うと、もらって損はないでしょう、と男の店員が言った。笑いながら言っていたが、何が面白いのか分からなかった。カードは貰わず、店を出た。
しょっぱい物を食べたせいか、ケーキが食べたくなった。人の作ったものはしばらく食べないつもりでいたが、今、口の中は人の作ったものの脂でいっぱいだから、この状態なら、人の作ったものを口にしてもいいだろうと判断した。
amamaと書かれたケーキ屋を見つけ、店に入った。店の前には軽自動車が二台止まっていた。イチゴ、オレンジ、キウイ、チーズ、生クリーム、目についたものの名前を頭で呼んだ。ケーキの入ったガラスケースに、また猿のような顔を見た。うちの一番人気です、と言われ、この猿顔が? と思ったが、どうやらイチゴのケーキのことらしかった。別の客がケーキを買って、そのケーキが入った箱を持って店を出ていく。ああ、ケーキを買ったらああいう箱に入れられて、軽自動車で家に帰って、それで、食べるときにはまた箱から取り出して、その箱は燃えるゴミに捨てなければならないのか、と思うと、頭がクラクラした。amama特製いちごケーキ、という文字を見ていると、食べてなくても甘さで胸がいっぱいになった。店を出た。軽自動車が一台減っていて、ケツのでかい車が駐車しようとしていた。
あまりにも頭痛が続くので、近くの内科に向かった。受付に保険証を渡すと、なぜか保険証をジロジロと見られた。本物ですよ、と教えてやった。それから体温を測ると、三七度三分、平熱よりも高めだった。名前を呼ばれ、少し歩き、先生と思われる人の前に座った。これは……、と言われ、なんのことか分からず、頭痛が続いていることを伝えた。
「顔が……」
「え? 頭痛がひどいんです」
「さ、猿じゃないか!」
薄々気付いていたが、やはり、猿になりつつあるらしい。