権利主張はほどほどにね
真っ青な空が広がる梅雨入り前の良く晴れた昼下がり、ポカポカと陽射しが暖かい、というより、若干暑い。
冷たい風が木々を鳴らして吹いていて心地いい、広くも無いがそこそこに遊具もあるし、池も噴水もある公園を近くの保育園の園児がお散歩している。
一列に並んでイッチニーッ!イッチニーッ!と進む園児たちの先頭では男性保育士(35才既婚)が暴走トラックや変質者に目を光らせており、後方は女性保育士2名(28才26才共に未婚)が園児たちが列を乱さないように目を配り、危険が無いかをインカムで男性保育士に伝えつつ、進んでいる。
総じて平和で長閑な午後の公園の一幕をぶち壊す者たちが現れる。
「そこの園児たちには罪は無いが、このくも男様の最初の犠牲者にしてやろうっ!!!」
そんなぶっ壊れた宣言と共に身長180くらい、ハーフなのか色素の薄い体毛と肌、光彩も色が淡い、細身で超絶イケメンな男が現れる。
右の頬を中心に同心円状にクモの巣のタトゥーがあり、背中には虫の足のような多関節な足が2対4本ワキワキと蠢いているが、さしあたって人外には見えない男はくも男を自称している。
「変質者です。すぐに通報してください」
男性保育士は冷静に指示をとばす。
女性保育士(26)は侮蔑の目をくも男に向けながら指示に従いスマホを取り出そうとする。
女性保育士(28)は恐怖からか、顔を赤らめている。「いい」とか呟いたが恐怖からだろう。同僚がドン引きした目を向けたが、あくまでも恐怖からだ。
「ふはははっ! 通報なんぞさせるかっ! 喰らえくもの糸地獄っ!!!」
ダサいとか以前にそのままな技名を叫んだくも男(自称)の両手からネバネバした液体が噴出して男性保育士や女性保育士にかかると、即座に乾燥、繊維化して絡み付いていく、緊急事態に男性保育士は何とか繊維を振りほどこうとするも、意外にも固く、そして強く絡み付いてとれない。
女性保育士(26)は地の底まで落ちたような暗い顔でくも男を一瞥してから、糸がほどけないならせめてと、園児たちに逃げるように指示をだして、女性保育士(28)はまたしても恐怖からか「これもいい」と呟いている。絶対に恐怖からだ。
男性保育士の頭には様々な想いがよぎる。
保育園の園児の野外行動中の変質者による傷害、誘拐事案、紛糾するメディアに荒れるネット、説明責任、拡散する個人情報、辞職、無職、離婚、 自殺。
「いやじゃーっ! やっと娘も産まれて、ローンは残ってるし、家庭不和もあるけど、それでも何とかやってるんじゃーっ!」
男性保育士の突然の叫びに園児たちがおおはしゃぎ、くも男はさらなる糸攻撃のために背中に背負ったタンクを取り換える。
「世の中の不条理に喘ぐ人がいる限りっ! その想いを受け止めるっ!」
そんな声がすると、ボヨヨーンという間抜けな音と派手な七色の煙が立ち込め、そのあとにう◯ちくんが現れる。
「くも男め、平和な日常を平穏に生きてるだけの保育士さんを困らせるなんて、赦さないっ!」
う◯ちくんの登場に園児たちのテンションは更にあがり、突撃体勢へとかわる。それに気付いた保育士たちは、糸が絡まって両腕の自由が無い中、何とか園児を抑えようと必死だ。
「この悲しみと怒りに◯△&∇ω>Ф」
う◯ちくんが口上を述べて名乗りあげている最中に空気読まないくも男が糸攻撃を仕掛けていた。
「怖えーよ、なんなの。突然喋るう◯こが出てくるとか、何なん」
空気が読めないというより、普通に恐怖している。
替えたばかりのタンクも空になるほど噴射したため、う◯ちくんが埋もれてしまった。
園児たちが叫ぶ
「頑張れーう◯ち!」
「ピッカピッカう◯ちーっ!」
「う◯ち助けてーっ!」
ノリノリだ。そんな園児の叫びにジャングルジムの上から応える者が現れる。
逆光を背負いながらも自己主張の強すぎるマッチョなシルエット5人組。
「そこまでだっ! 怪人くも男に怪人う◯ち野郎っ!」
「って! ちょっと待て、このう◯こと仲間にするなっ!」
くも男の悲痛な叫びを無視して、とうっ!とばかりにジャングルジムを飛びたち、5人組がう◯ちくんの前に立ちはだかる。
5人ともに戦隊もののようなマスク、その下は一人は肌面積の多すぎるビキニであとはブーメランパンツ一丁、ブーツすら無い。足裏は大丈夫か。
「へっ変態だーっ!」
思わず叫んだくも男(自称)
フゴフゴと糸にくるまれたう◯ちくん
テンションがおかしくなって、もう暴走モードの園児たち
すっかり、先の未来に絶望した男性保育士と
「これもいい」と謎の呟きをする女性保育士と職場を替えようと決めた同僚
カオス過ぎる展開がさらに混迷していく。
赤いマスクに赤いパンツのマッチョが応える。
「変態ではないっ! 我等はっ!!」
そこで言葉を切ると、5人は各々にポージングをとって、一糸乱れぬ呼吸で張上げる。
「筋肉戦隊マッチョマンっ!」
なぜか、ドーンッ!とうしろが爆発して土煙があがり、四方にライトが灯る。
「ただの変態マッチョじゃねーかっ!」
くも男が突っ込む。
それに動じる事もなく、さすがのヒーロー、口上は続く、フロントラットスプレッド、腕を曲げて腰当たりにで拳を握った赤いマスクが名乗る。
「私はっ! どんな攻撃も跳ね返す無敵の大胸筋をもつリーダー、マッチョレッドっ!!」
「いや地味っ! レッドなのに地味っ!」
次に、マッチョレッド向かって右、白いマスクに白パンツ、白人のように見える身長190越えの大男がサイドチェストのポーズでその巨大過ぎる肩を見せつけて名乗る。
「ワタッシはっ! 弾丸のような三角筋っ! ワタッシのショルダータックルはすべて壊しマースっ! shoulder of watermelon マッチョホワイトっ!!!」
「いや、カタコトっ! てか、スイカ肩って云いたいのっ。白いスイカってなんだよ、熟す以前で食えねーよ、そこはグリーンだろっ!!!」
くも男(自称)の喉に着実にダメージを与えながら、名乗りは続く、あまりの展開の遅さと、くるまったままの主人公の惨劇に作者の心にもダメージを与えながら。
レッドから向かって左、黄色のマスクに黄色のパンツ、黒人だろうか黒い肌に2メートルをゆうに越える長身。バックダブルバイセップスのポーズで背中が複雑に隆起した男が名乗る。
「オレはっ! セナッーカにdevilを宿す男。オレのdevil headに恐怖しなっ! マッチョイエローっ!!!」
「いや、悪役っ! それは悪役っ!! てかイエロー要素どこっ!!!」
右端で4人目、紅一点だろうか、ピンクのマスクにピンクのほぼ布でなく糸なビキニをまとったマッチョがサイドリラックスポーズで優麗な姿で名乗る。
「私は美し過ぎるフィジークの天使、どんな相手も悩殺しちゃうわよ。マッチョピンクっ!!!」
「声が野太いっ! せめて裏声使ってっ! なにっ、LGBT配慮、白人黒人にLGBTって、ポリコレ的配慮っ!」
やっと最後になった青いマスクに青パンツのやや細マッチョ気味で背も160センチ台の男が名乗る。
「やれやれ、私は気苦労を重ねて胃痛鈍痛に胃薬が手放せない、マッチョマンの苦労人、はぁーマッチョブルーっ!」
「いや、ブルーってそっちのっ! いや、凄いわかるけど、わかるけれどもっ、やれやれがなろうミームなのもわかるけれどもっっ! もう存在がメタ過ぎてダメでしょっ!!!」
くも男は片手をついて這い、もう片方の手で喉を押さえて咳き込んでいる。もう満身創痍だ。
「◯△&∇ω>Ф!==!ш"=∀ ふがーっ」
そして、ついにう◯ちくんの拘束が解ける。
何気に保育士さんは諦めたらしく、子供たちにヒーローショーだよと言って座らせて観戦している。
出来る保育士トリオだ。拘束されたままだが。
「よくも、僕をがんじがらめにしたなっ! 尺も無いし、今日は一気に変身だっ!」
「ゲッホっ ゴフッ 尺っ!」
ついに突っ込みに吐血がまざるくも男(自称)
それを無視して超展開は続く、猫の奴隷神様&バステトさんが登場&いつものやつで承認しちゃうのだ。
モストマスキュラーポーズの猫の奴隷神様に敗北感で打ちひしがれるマッチョマンたちと、やれやれ、と一名仲間を鼓舞するマッチョブルーを脇に、バステトさんが冷静に告げる。
「う◯ちくん、なんやかんやのシンクロ率200%、行けますっ!」
「適当っ! なんやかんやって、200%ならむしろシンクロしてないんじゃないの、もうっ!! ゴッフっ」
もう、黒い血だまりを吐き始めたので、そろそろ医者に診てもらった方がいいくも男が頑張った。
承認っ!!の掛け声とともにう◯ちくんが執行モードになるも、残念ながら、30分まであと5分だ。
「閉塞した世の中、あれこれと格差に行き過ぎた主張にそして、自身の個性を受け入れない社会への不満をそんな形でぶつけてはいけないよ」
「必殺っ!!」
とご自慢の分厚い辞書を持ち上げたう◯ちくんは、すでに殺虫剤かけられたGのごとく、ピクピクと痙攣して顔面が青白く白目剥いてるくも男(自称)のため、救急車を呼んだ。
園児
「斬新だね」
「狙い過ぎで滑ってるよ」
「メタ視点が痛いね」
そんな、園児の声援を背に、行けっう◯ちくん、愛と正義といたたまれない空気のためにっ!!!