表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

ブラックなう○ちはカチカチなんだよ

ブラック企業と戦います。



 正社員とはいえ、サビ残にベースアップなど入社して以来10年一度もなかった只野薄幸(うすゆき)は給料明細片手にため息を吐いていた。 

 一応は新興企業の創始メンバーの数少ない残りで、名目は幹部役員だが、名ばかりだ。むしろ、サビ残の体のいい理由付けにしかなっていない分、平より質が悪い。


 「こんな給料じゃ、将来食っていけないよな~、でも、今さら再就職なんて、そもそもそんな時間ないしな~」


 平日は夜中までサビ残、土日もクライアントとの折衝で休日出勤を強制される日付変更まで働いて、会社に泊まって翌日そのまま出勤は更だった。

 とても再就職先を探している余裕はないし、貯金も無いのに仕事をやめられない。

 

 薄幸は重い体を鞭打つようにして、その日も会社へと出社した。


 薄幸の勤めるのは都内の中小のシステム管理会社で、個人商店の商品管理、レジ決済の中央管理システムなどの保守点検整備や企業の空調管理システムなどを手掛けていた。

 それなりに顧客がおり、ソフト開発、保守点検、営業とセクションを分けて活動している名目だが、少ない人員で大抵の作業を全員で行っている。

 ソフト開発だけは専任がいるものの、ほぼデスマーチに追われる姿に憧れはない。かくいう、営業である自分も保守点検整備を兼任しながら、日々お客様からの罵倒と、会社からの、無能の声に耐えてやっている。

 オフィスビルのワンフロアを借りて少ない従業員で回している業務はもう限界に近かった、誰が倒れてもおかしくない、一番年かさの上の自分が言うべきだ。

 フロアにいつもの時間に現れるのは社長の合津 偉晴(ごうつ いばる)だ。

 「おら、馬車馬のように働け、お前ら無能を雇ってやってる俺のためにな」


 昔はこんな奴じゃなかったはずだった。この会社を立ち上げた当初からの仲間はほぼ辞めて、残ってるのは形だけ幹部の俺と社長のこいつだけ、若い従業員を引き留め、何度か俺はいいから、若い奴の待遇改善と、お前の給料を下げて人を増やさないかと話して見るも、無能が、と蔑まれるばかり、退職届は破られたままだ。

 

 もう、無理だ、誰か助けてくれと叫び上げそうになった瞬間、フロアが光に包まれた。



 「その叫び、このう○ちくんが確かに受け取ったよ」


 ぼよよーん、とコミカルな音とともに、何もなかった俺と社長のディスクのあいだの空間におよそ1.5mほどの手足の生えた三段とぐろのう○ちが黄金の光を放ちながら現れた。


 「ヤバい。ついに妄想がみえてる」


 「う○ち、光るう○ち…あ…あ」


 「う○ちとかどうでもいいよ、早く終わらして帰るんだ」


 フロアに動揺が拡がる、一部、デスマーチに心が壊されている奴がいる、見るに堪えない、もう帰ったほうがいいと思うが、う○ちだ、こいつはなにもんなんだ。そう思っていると、合津社長が声を荒げる。


 「俺のオフィスになに勝手に現れてんだ。う○この分際でよ」

 

 いや、そこじゃないだろ、確かに不法侵入だが、そこじゃない。


 「僕はう○ちくん、猫の奴隷神様から、この世界で不条理に嘆く人を救うために遣わされた、怒りと悲しみに覚醒する正義のヒーローさ!!」


 うん、キャパオーバーだ。奴隷神ってなんだ、奴隷の神って、だから俺たちの味方なのか、頼りになるのか、ならんのか、さっぱりだぞ。

 なんなら、合津社長の側で思いっきり搾取しそうでもあるぞ。

 まあ、そこはいい、良くないがいい。怒りと悲しみに覚醒する正義のヒーローがフォルムう○ちってどういうことだ。ネーミングう○ちくんって、猫の奴隷とか言ってたが、まさか、純度100%猫糞(ねこばば)製とか言わないよな(真理)


 「猫の糞神だか、排泄と銀バエに覚醒する変態だか知らねーが、不法侵入だろーが」


 合津社長のディスりがパない。う○ちくんが少し涙目だ、強すぎじゃないか合津社長、頑張れう○ちくん


 「ま、負けるなう○ちくん、そのごうつく野郎に一発かましてくれ!!」


 デスマーチ組が声をあげた。あートリップ寸前で夢だと思っているっぽい。

 だが、そのテンションが伝播し感染する。

 

 「そうだ、う○ちくん、やっちまえ!!」

 「う○ちくん負けるな!!」

 「う○ちくんかわいい!!」


 何か、女子社員から変な声援が、かわいいか、あれ。しかし、社員たちの声援にう○ちくんが勢いづく


 「人を人と思わずに自分が儲けるための部品みたいに扱って、使えなくなればポイ捨て、お前はカチカチの真っ黒う○こだ。お腹の中で宿便になって、痛い重い辛いの三重奏で攻めてくる、最低野郎だ。今すぐこのブラックな体制を見直して、支えてくれた盟友とホワイトな企業を目指すんだ」


 ドヤ顔のう○ちくん、しかし合津は堪えない。


 「ふん、無能を有効利用してやって何が悪い。むしろ感謝されたいくらいだ」


 「なんて、ひどいやつだ」


 するとう○ちくんが光だす、眩い光でオフィスが包まれ、光がおさまると可愛らしい2足歩行の小学生サイズくらいの猫がいた。黄金の毛並みに金眼銀眼のオッドアイ、ふっさふさの毛並みはメインクーンのようだ。

 

 「う○ちくん怒りの覚醒、お説教モード!!」


 いや、猫にお説教されても怖くない、というかもうう○ち要素がない。さっき、かわいい!!言ってた女子がスマホで撮影し始めた。めっちゃかわいい!!叫んでる。大丈夫だろうか、病んでるんだな。


 「猫畜生が偉そうなんだよ!!」


 そして、合津、そこじゃないだろ、そこじゃ。

 だが、う○ちくんは負けなかった。


 「お前がやってることは労働基準法違反だ、僕の知り合い猫又弁護士事務所や、検察、警察の猫好きネットワークで、追いつめてやることも出来るんだぞ」


 めっちゃ他力本願だ。しかもなんて悪役ムーヴなセリフ、いいのか正義のヒーロー、たが、合津に今日一効いている、切ない。心なしかう○ちくんも気まずそうだ、尻尾と耳が垂れている、切ない。



 「ええい、うるさいウルサイ、俺がここの法律なんだよ」


 「くそ、言っても聞かないなら」


 う○ちくんが爪を剥き出し、襲いかかろうとした瞬間、またしても光に包まれたオフィス。

 

 「待つのじゃ、怒りのお説教モードのまま、暴力に訴えてはならん」


 やたらダンディーな声が木霊して、う○ちくんの横に若かかりし日のアーノ○ド シュワルツ○ッガーに顎髭を足したような、筋肉ましましな男が現れた。

 

 「猫の奴隷神様!!」


 う○ちくんが叫ぶも、こっちも叫びたい、こんな奴隷いてたまるか、奴隷主を殴り殺して脱走しそうなデンジャーな見た目してんだろ。


 「う○ちくん、怒りのお説教モードはその可愛らしい見た目で相手をメロメロにするんじゃ、殴りかかって、爪が割れたら大変じゃろ」


 うん、猫の奴隷だ、そして理由が大概ひどい。


 「お前らふざけてんのかーっ!!」


 どうしよう、合津に合意したい、変な韻ふんでしまった。


 「う○ちくん、彼は本来の姿を失っておる。見ていなさい」


 そういうと、猫の奴隷神とやらは腕を横に水平に肩まで持ち上げ力こぶをつくる。

 

 「すごい猫の奴隷神様、ダブルバイセップスのポーズきれてます。よっ肩にチョモランマ乗ってるね」


 う○ちくんがコールを入れるとチョモランマと呼ばれた力こぶから合津に向かって光線が放たれた。


 「破っー」

 

 「な、なんだおい、……くそ、…あれ」


 光線を浴びた合津は倒れ、その体から1mほどのツンツン頭につり目尖り耳、コウモリ羽を生やしてちょっとメタボなデフォルト悪魔みたいな奴がでてきた。


 「お前は! ボンノウドン!!」


 う○ちくんが叫ぶも、西郷どんのイントネーションで叫ばれてしまって微妙な空気だ。


 「また、お前はアクセント位置に悪意あるだろ!」


 「猫の奴隷神様、執行モードお願いします」


 「無視するなよ」


 う○ちくんはなにやら、ポーズを取り始める、猫の奴隷神の横に浅黒い肌の黒髪オリエンタル美女がオペレーター姿で、何故かモニターとキーボードと共に出現した。すると、猫の奴隷神は拳を握りあわせて真上に振り上げる、猫の奴隷神の前にはでんじゃーとひらがな書きされた黄色と黒のストライプが目をひくスイッチが現れた。


 「猫の奴隷神様、う○ちくん、怒りと悲しみと正義の魂の共鳴率100%越えました、行けます!!」


 「うむっっ、う○ちくん執行モードっ! 承認っ!!」


 振り上げた逞しすぎる両腕を振り下ろしスイッチを粉砕する神様。


 「いや、スイッチの意味っ!!」


 う○ちくんが光に包まれて肉体が巨大化していく、2m近くなったあたりで光がやむと、アメコミのボディスーツのようなものに身を包んだムキムキハンサムな金髪オッドアイのイケメンがやたらゴテゴテと装飾のついた分厚い本を持って現れた。


 「う○ちくん執行モード、これから、お前に裁きを下すよ」


 いや、う○ち要素よ、てかなんで悪役って律儀に待つかね。


 「くそ、逃げるしかない」


 「もう遅い」


 ホントに遅い(^-^;


 う○ちくんが構えると分厚い本を中心に風が巻き起こる、ボンノウドンと呼ばれた悪魔が吸い寄せられる


 「くそー、やめろーっ!!」



 「くらえ、必殺辞書の角っ(えいゆうの)て痛いよね(いちげき)


 いや、名前!!


 脳天に分厚い本の角を食らったボンノウドンは


 「覚えてろよ~」


 の捨て台詞とともに消え、う○ちくんたちも去っていた。



 その後、意識を取り戻した合津は人が変わったように優しくなった、今までのことを謝罪し、人事や運営を見直していき、これまで搾取した分も保障すると言ってきた。


 何故か、猫又支援グループなるところから、支援もあり、業績を伸ばしながらホワイト企業へと変貌するなかでかつての創始メンバーも戻ってきた。


 「只野、お前はいつまでも俺を支えてくれた。お前が社長になるべきだ、俺は会社を去るよ」


 「何をいってんだよ合津、会社にだって老廃物はあるさ、それを溜め込んで、処理してくれたんだろ。立派に生まれ変わった会社にお前がいなくてどうする」


 「只野、すまん、ありがとう」



 あー、う○ちくん、本当にありがとう!





 

 どういたしまして、

 今日もう○ちくんは誰かのために戦います!

感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ