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「絵本の騎士」と脇役

 わたくしは「やられる前にやる」の精神で、暴漢と対峙し続けました。

 幸い相手は特別な訓練を受けている訳ではなく、ただ武装しているだけの一般人のようです。

 7人目の暴漢を斬り伏せて、残りは5人。刃についた血脂を払うために一度剣を打ちおろしてから、構え直します。


 まあいくら阿呆の王女様でも、さすがにわたくしの息の根まで止めようとは思っていないでしょう。

 ちょっと痛い目に遭えば良いのになあ~ぐらいの意識しかお持ちでないはずですから、ある意味では安心ですね。


「――何が月の女神に愛された騎士だ! あのキレーな顔ズタズタに切り裂いてやる!」

「エヴァンシュカ王女の傍付きなんて妬ましい! 殺せ殺せー!」

「王女は皆の王女なんだぞ! ふざけんなー!」


 ――痛い目……おや? もしかしてコレ、痛い目どころでは済まないのでしょうか?

 おかしいですね、彼らは本当にあの阿呆の王女様が雇った者達なのでしょうか――何やら、犯行理由があまりにも自由すぎる気がいたします。


 ちらと会場を見渡せば、何やら隅の方で怯えたように手を取り合う見慣れぬ父子(おやこ)の姿が目に入りました。……もしかすると、ヴェリタス子爵とその実子かも知れません。


 しかし、元々王宮から子爵の実子宛てに送った招待状はジョーが使用しました。

 招待状なしでこの会場まで入って来られるはずがありません。


 これは昨晩聞かされたのですが、テオ陛下は既に彼らが(くわだ)てていたアレコレの証拠を秘密裏に押収済みのようです。

 その懲罰のために陛下があえて招待し直したか――もしくは、黒幕のナントカ王女が職権乱用で招き入れたのか。

 どちらにせよ、恐らくこの暴漢達を雇い入れたのは王女ではなく、彼女に(そそのか)された彼らなのでしょう。


 思い返せば陛下は、エヴァ王女について今回「命だけでなく「女性」として異性から狙われている恐れがある」なんて仰っていましたね。

 恐らくここに集まった彼らは王女の熱狂的なファンなのでしょう。そのせいで、傍付きのわたくし相手に個人的な恨みがあったのやも知れません。


 ――そうして、思考に(ふけ)りながらよそ見をしていたのが悪かったのでしょうか。

「死ねー!」なんて物騒な事を叫びながら突撃してくる暴漢とわたくしとでは、かなりの対格差があります。

 まともに打ち合っては力で押し負けるので、まず攻撃をいなしてから返り討ちにするため、半身に構えようとしたところ――何者かに足を掴まれて、動きを止めざるを得ませんでした。


 目線を下げれば、どうも傷が浅かったのか……つい先ほど斬り伏せたばかりの男がわたくしの足首を掴んでおります。

 ――ええ、わたくし大ピンチでございますよ。足元の男を追撃する暇はないでしょう、そのような事をしていては、正面から突撃してくる男に切ってくださいと言っているようなものです。


 死にはせずとも、どこかしらに傷を受けるのは間違いありません。

 ……そうなれば、エヴァ王女からもテオ陛下からもお叱りを受けてしまいます。


「――ハイド!!」

「お、お待ちなさいお前達! そこまでの事を許した覚えはありませんわよ!?」


 暴漢の剣がスローモーションでわたくしに迫って参ります。

 後ろでカレンデュラ伯爵令嬢が悲鳴を上げて、会場の外からコソコソと見物でもしておられたのか――昨日渡り廊下でお会いしたナントカ王女が血相を変えて、開きっ放しの扉から飛び込んで来るのが見えました。


 しかし彼女の制止が間に合うはずもありません。

 明らかに顔面狙いの男に、わたくしは何とか剣先だけでも逸らせないかと己の剣を握り直しました。


 ――そうです。わたくし生前は役者でしたから……どうしても顔だけは守りたいのですよ。

 自分で言うのもなんですが今世のわたくし、結構端正だと持て囃されていて気に入っているんです。


 軽く現実逃避しながら、少しでも男の剣を弾こうと構え――たのですが、わたくしの剣と相手の剣がぶつかる事はありませんでした。

 いつの間にやらわたくしと男の間には、ジョーが割って入っていたのです。


「……ジョー!? 何を、危な――!!」


 普段滅多な事では驚かないわたくしですが、これはさすがに動揺しました。

 何という事でしょう、武器を扱う事も出来ないジョーが、わたくしを守るための肉壁になろうとでも言うのでしょうか。

 彼の身に何かあれば、エヴァ王女の幸せはどうなってしまうのか。わたくし、一生をかけても償い切れません。


「――ブベアァッ!?」

「……えっ」


 途端に潰れたような声を上げてを宙を舞った男に、わたくしは困惑してしまいます。


 ジョーの身に男の剣先が到達する事はありませんでした。それよりも先に、彼の「拳」が男を殴り抜いたからです。

 ジョーは、驚愕で硬直したわたくしを振り返ると、いつもの少年のような屈託のない笑みを浮かべながら――わたくしの足首を掴む男の横腹を、蹴り上げました。


 軽く蹴ったようにしか見えませんでしたが、しかし男の手越しに感じたキックの衝撃は相当なものです。

 足元からは「アァー! 肋骨がァー!」という悲鳴が聞こえてきて…‥わたくしの足首を掴むものはなくなりました。


 ――わたくしは今、間抜けにもとんでもなく呆けた顔をしていると思います。

 そんなわたくしを見たジョーは、悪戯っぽく笑って首を傾げました。


「――だから言ったじゃねえッスか、俺のスキルは「武器を持って人に襲い掛かるとお仕置きされるスキル」だって」

「………………つまり?」

「武器が一切使えない代わりに、素手なら最強って事。「素手喧嘩(ステゴロ)」ッスよ、ステゴロ! 超レアスキルらしいッスねえ」

「ははあ、そうきましたか――君は本当に面白いな」


 まだ暴漢は4人残っていると言うのに、わたくしは何やら肩の力が抜けてしまいました。

 絶対絶命を救われた安心感と、ジョーの意外性その面白さに、すっかり毒気を抜かれたような感覚です。


 武器を持っていない状態に発動するスキルなのだろうとは思っていましたが、まさかここまで武闘派だったとは思いませんでした。

 ――つまりジョーは、素手であれば敵なしであるという事。

 流石に弓のような射程の長い武器相手にはなす術がないでしょうが、彼の身のこなしはまるで何かの武術の達人のように完成されていて無駄がありません。

 道理で鍛錬場で彼の素養を調べた時、やたらと身体能力が高かったはずです。


「――ハイドさん、残り俺やっとくんで、アレッサと一緒にどっか安全なトコ行っててくださいよ。ルディに「ハイドを助けてくださいませ」って頼まれちゃって、今超張り切ってんスよ」

「おや、頼もしいですね」

「そりゃあ、ルディと結婚するためには今の内に良いところ見せとかないと! 陛下にも……――それに、ハイドさんにも」

「……ええ、そうですね。それではお言葉に甘えてお任せします。カレンデュラ伯爵令嬢、行きましょうか。足元に気を付けてくださいね」

「えっ、ジョ、ジョーに任せちゃうの? 美味しいところ持ってかれてない!? なんかジョー超派手なスキル持ちだし、まるで主人公みたいな登場だったんだけど!?」

「――それで良いのですよ。やはりエヴァンシュカ王女の「絵本の騎士」はジョーです、これは王女と彼の物語で、わたくしは脇役の「お助けキャラ」……貴女と同じね」


 わたくしの言葉に、伯爵令嬢はてっきり「私は脇役じゃなくてヒロインよ!!」と声を上げるかと思いましたが――しかしぱちくりと目を瞬かせた後、ぱあと花開くように笑いました。


「――何よ、良いわね、ソレ! 脇役同士、最初からくっつく運命だった訳でしょう!!」

「………………あぁ~~、そう来ますか……」

「何でそんな残念そうなのよ! さっさと観念して私の旦那になりなさいってば!」

「わたくし、どうあっても伯爵令嬢の旦那にはなれませんからねえ……」

「うるさい! 納得できる理由を言わない限り諦めないから!! 心に決めた女が居るなら連れてきなさいよ! ボコボコにしてやるんだから!!!」


 ――騒然とするパーティ会場、ジョーの拳によって舞い上がる暴漢達。

「透視」すれば、エヴァ王女はヴェールの下でうっとりと恋する乙女のようにジョーを見ておられますし……その隣のテオ陛下は面白くなさそうな顔をしておられます。

 お2人の前途は多難かも知れませんが、しかし必ず多くの幸福が待っている事でしょう。


 わたくしはワーワーと喚き散らしているカレンデュラ伯爵令嬢を連れて、事が落ち着くまで会場の隅で待機させていただく事にしました。

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