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絶体絶命の騎士

「――ねえ、なんでもっと甘い感じでエスコートしてくれないのよ! 今日のハイドは私のパートナーでしょ! やたらと機械的すぎない!? エヴァの時と全然違うじゃん! ねえ、ハイドったら!」

「カレンデュラ伯爵令嬢、いつも思っていたのですが声が大きすぎますよ。公式の場でそのようなはしたない行いをする方は、わたくしのタイプではございません」

「うぐっ……!」

「エヴァ王女は、公式の場ではそれはそれはおしとやかな猫を被るのですよ。言いましたよね? わたくしの好みは、エヴァ王女のような聡明な方だと」

「うぐぐっ……!」

「そもそも、狙われている自覚はあるのですか? わたくしのエスコートなどで浮かれている場合ではありませんよ、気を引き締めていただかねば困ります」

「――ご、ごめんなさい……」


 翡翠宮までカレンデュラ伯爵令嬢をお迎えにあがったわたくしは、終始騒がしい彼女を連れてパーティ会場へ足を踏み入れました。


 ――エヴァ王女専属の護衛騎士が、どこぞのご令嬢をエスコートしているとのことで……既に会場入りされていた方々には、かなり好奇の目で見られましたね。

 まあ、隣のご令嬢がずっと騒ぎ続けていて悪目立ちしているのも、理由の一つでしょうけれど。


 しかし、こうして彼女が悪目立ちしてくれればエヴァ王女に対する注目が減るので――そう考えればまあ、メリットが全くない訳ではありません。

 それでもさすがに気が散ります。カレンデュラ伯爵令嬢は面白い方なのですが、やはり職務中は気持ちを切り替えたいですよね。


 注意を受けてしょんぼりと意気消沈されたご令嬢は、いじいじと手遊びをしていらっしゃいます。

 わたくしは近場のテーブルから小皿を1枚拝借して、若い娘さんが好みそうな一口サイズのケーキを数個取りました。

 それをご令嬢に手渡せば、ぱあと表情を明るくさせてケーキを頬張ります。


 本当にこの方、どうして大人しく黙っていられないのでしょうね。おしとやかにしていれば引く手あまたでしょうに……。


 ――そうこうしていると、入り口の扉が開かれて騎士が「エヴァンシュカ・リアイス・トゥルーデル・フォン・ハイドランジア王女のご入場です!」と宣言しました。

 ジョーに手を引かれながら会場入りしたのは、やはり怪しげな占い師――ことエヴァンシュカ王女です。

 あえて入口近くのテーブルを選びましたので、入場するお2人の姿がよく見えますね。

 彼の立ち居振る舞いはわたくしが教示した通りに、「どこか芝居がかったキザな紳士」として完成しています。王女好みで大変素晴らしいですよ。


 会場に集められた貴族子息女は、ジョーを目にして「彼は誰だ、何者だ、王女とどういう関係だ」とざわついておられます。

 ご自分達が王女と顔合わせもままならない状態で、彼だけがご友人――どころか、最早エスコートするような関係にまでなっているのですから……それは驚きですよね。


 王女とジョーはざわつく会場内を進み、玉座で待つテオ陛下のもとまで行きました。

 何やら、陛下が笑顔でジョーにブチ切れていらっしゃるような気配を感じましたよ。全く大人げないお爺ちゃんです。

 そしてそのまま、王女と陛下の挨拶が始まります。挨拶が終わると同時にパーティのスタートですね。


「ねえ、あの2人って……結局上手く行きそうなの?」

「カレンデュラ伯爵令嬢、そういった繊細なお話は人の居ない所でいたしましょうね」

「あ、そ、そっか、ごめんなさい。でも気になって――だってあの2人が上手く行ったなら、ハイドは私が貰っても良いでしょう?」

「さあ、それはどうでしょう。カレンデュラ伯爵令嬢は面白い方ですが、エヴァ王女とかなり違いますからね」

「ううっ……。――ねえ、前から気になってたんだけど、「ハイド」って本当の名前?」

「ええ、そうですよ。何故そのような事をお聞きになられるのですか?」

「いや……私てっきり、ハイドって元は孤児か何かで、名前がなかったんじゃないかと思って。――でもあまりにも優秀だったから国王あたりが引き取って、「ハイドランジア」からとった名前をつけてあげたのかな~って……」

「――面白い発想ですね」


 わたくしが笑みを零せば、カレンデュラ伯爵令嬢は「だってそうでなきゃ、ただの平民がここまで王族に優遇される意味が分かんないもの」とぼやかれました。

 彼女はそのまま僅かに声を潜めると、どこか勝ち誇ったような顔をされます。――何やら面倒くさそうな気配を感じますね。


「ねえねえ、私の名推理、聞きたい? ハイドの正体ってさ、噂の「スノウアシスタント」なんじゃない? 表舞台に出ないから顔は知られてないって言うし」

「……わたくしがですか? それはまた――何故そうお考えになられたのですか」

「だって、優秀すぎるもの! ハイドは明らかに、この世界にはない知識を知ってる……まるで転生者みたいにね。だから、スノウアシスタントみたいに日本にあった商品を製品化するなんて、お茶の子さいさいだったんじゃないかなって。エヴァがあんなに賢くなったのも、全部ハイドのせいでしょ?」

「……そうですね、ご令嬢はわたくしの事を買いかぶり過ぎのような気がいたします」

「ふふん、図星ね? 隠したいなら隠しててあげても良いわよ、だってエヴァも知らない事でしょう? そのかわり隠していて欲しかったら、私の旦那になりなさ――」

「伯爵令嬢」


 会場入り口の扉――その向こうから、複数人の荒々しい足音が聞こえました。

 わたくしカレンデュラ伯爵令嬢と会話している最中にも、しっかり「地獄耳」で周囲の警戒を怠りませんでしたよ。


 腰に下げた剣の柄に手を掛けて扉を見やれば、カレンデュラ伯爵令嬢も異変に気付いたのかごくりと生唾を飲み込む音が聞こえました。


 足音からして、相手は10名以上でしょうか?

 扉の外で争うような物音が聞こえないのは、もしかすると既に見張りの騎士が追い払われてしまっているのかも知れません。

 彼らは王族に雇われているものですから、上から命令を受ければ遂行するしかないのですよね。

 もし彼らの家族を人質にとられて、危害をくわえられでもしたら大変な事ですから――お気持ちはよく分かります。


 下手に抵抗して無駄死にするよりよほど好感がもてますよ、どうせテオ陛下は諸悪の根源の王子、王女を「メッ」で済ませてしまいますし。

 命大事に、ですね。


 しかし、人目につかぬ路地裏ならばまだしも――まさかこれだけ大勢の招待客が集まる中で、こんなにも大胆不敵に「暴漢」を送り込まれるとは思いませんでした。あのナントカ王女、さすがに阿呆すぎます。


 今までテオ陛下が「メッ」で済ませられていたのは、城の身内以外に目撃者が居なかったからです。

 それを衆人環視のもとでやってのけられるとは……誰にも真似のできない愚行――そこに痺れも憧れもしません。タンスの角で思いきり足の小指を打ち付けて頂きたい。


 やがてバン! と派手な音を立てて扉が開かれました。

 武装したいかにも「ならず者」といった風貌の侵入者達を目にして、会場のあちらこちらから悲鳴が上がります。

 いくら素行不良の貴族子息女でも、やはり見知らぬならず者は恐ろしいのですね。


 ちらと玉座の方を見やれば、テオ陛下とエヴァ王女を囲むようにして「影」が護衛についています。

 あれならば王女は安心でしょう……しかし、どうせならジョーも一緒に囲いの中に入れて差し上げて欲しかったですね。

 きっとお爺ちゃん陛下が意地悪をなさったのでしょうが――ジョーはどこに居るのでしょうか。


 逃げ惑う招待客のせいで彼の姿が見えず、少し心配です。


「――は、ハイド! 大丈夫なの、これ!? 凄い人数居るけど!」


 わたくしの背後で、悲鳴混じりの声を上げるカレンデュラ伯爵令嬢。

 ご自分がスキル「決議者(レギュラー)」もちである事を少しは考えて頂きたいですね……侵入者達は弾かれるようにご令嬢に目を向けました。

「決議者」は発言に力が籠り、際立ってしまいます。恐らくこの阿鼻叫喚の会場の中で、彼女の声は一際目立つ事でしょう。


 同じ「決議者」もちのエヴァ王女は黙ってじっとしていらっしゃるので、カレンデュラ伯爵令嬢が喚けば喚くほど、王女の存在感は薄れて安全になるのですが――実はわたくし、そんなに腕っぷしに自信がある訳ではないんですよね。


 エヴァ王女より弱い時点で実力はお察しですけれど……生前も殺陣(たて)やアクションは苦手だったんです。


 果たしてこれだけの数の敵を相手に、ご令嬢を守りながら上手く立ち回れるのでしょうか……いや、でもまあ、最悪わたくしの身に何かあっても「影」が何とかしてくれるでしょう。気楽に参りましょうか、気楽に。


 わたくしは鞘から剣を引き抜くと、突進してきた暴漢に向かって振り下ろしました。

 華やかなパーティが血なまぐさいパーティになるのは辛いですが、これも全て阿呆のナントカ王女様のせいです。テオ陛下にはどうか「メッ」以外のお言葉を期待したいですね。

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