表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/69

騎士の考察

「えっ……あのさ、お姉さん。俺と友達になってくれない?」

「……え?」


 ジョーは、困ったように笑いながらエヴァ王女に手を差し出しました。


「孤児院の事――あとスノウアシスタントの事。これ以上貴族の人に利用されたら困るってんで、先生から話しちゃダメって言われてんスけど……何かお姉さん良い人っぽいし、「友達」相手にならちょっとくらい話したって、罰は当たんねえかなって」

「わ、わたくしと、お、お、お友達に――! それに、スノウアシスタント先生のお話もして下さると……!? ジョー、貴方って人は……!」


 エヴァ王女は青い瞳をこれでもかと輝かせて、白い頬を紅潮させながらジョーの手を取ろうとしました。

 ――しかし、寸でのところでぴたりと動きを止めると、眉尻を下げてジョーを見上げます。


「……今、「これ以上 貴族に利用されると困る」と仰いました? もしかして今、スノウアシスタント先生にとって何か不都合が起きているという事ですの?」

「ん~……何て言うか、利権問題で揉めてるっぽくて、まあ色々――有名になれば面倒事も増えるッスよ。プラムダリア孤児院はスノウアシスタントの金で散々いい思いしてきた訳だし、しゃーない、しゃーない」


 軽く手を振ってへらりと笑うジョーを見て、エヴァ王女はますます眉尻を下げました。


「そんな……。――分かりましたわ、ではジョー、わたくしとお友達になりましょう。ただ、お友達になってくださるだけで結構ですわ……スノウアシスタント先生のお話は気になりますけれど、ご迷惑をお掛けしたい訳ではありませんの。これからもいち読者として、応援するだけに留めますわ」

「えっ。でもソレ、お姉さんにメリットなくねえッスか? 俺こんなだし、貴族っつってもたぶん、おじさんの家も継がせてもらえねえし――てか俺、急な事でまだ家名も知らねえのに、仲良くしたって毒にも薬にもなんないッスよ。……いや、毒になるかもよ」

「家名も知らない――? ……いえ、メリットがないのは貴方も同じではなくって?」


 王女は言いながらジョーの手を取り、ぎゅうっと強く握手なさいました。

 ジョーは幾度か瞬きをしたのち、破顔します。その表情は甘く蕩けるようで、見ているこちらまで幸せになるような笑みでございます。


「――美人なお姉さんの友達が出来るとか、これ以上ないメリットなんスけど? 訳も分からず、言われるがまま王女様とダチになるより、ずっと良い……なあお姉さん、名前は? 友達になるなら教えてよ」

「えっ? え、ええ、そうね、名前――そうですわよね」


 ――出来る事ならば、今貴方が握手している女性が正にその「エヴァンシュカ王女様」なのですよ、と教えて差し上げたい。


 エヴァ王女は恐らく、ご自身の素性を明かさぬおつもりなのでしょう。

 いくら人の悪意に疎いとは言え、聡明な王女の事。ジョーの家庭環境を耳にして、「おかしい」と思った点はいくつかあったはずです。


 例えば「つい最近 貴族の養子になったばかり」「養父は貴族のマナーもルールも教示する事なく、ジョーを王宮へ送り込んだ」「右も左も分からぬジョーに、エヴァンシュカ王女と懇意になれと命じた」「養父はジョーに家督を継がせるつもりがない」「ジョーは自身を引き取った家の家名すら聞かされていない」――他にも気になる点はありますが、大きいところで言えばこの5点でしょうか。


 まず家督を継がせるつもりがないという事は、他に正当な後継者が存在するという事です。

 にも関わらず、養父はわざわざ孤児院からジョーを引き取った。


 彼に何かしら光る才能があれば話は別ですが、その才能を利用するためならば普通、最低限のマナーやルールの教育くらいするでしょう。

 常識を知らぬまま王宮へ送り込んだ上に王女に近付けなど、「不敬を働いて死んで来い」と命じるようなものでございます。


 明確な目的は分からずとも、もしかするとジョーの養父は、何も知らない彼を利用してエヴァ王女に近付こうとしたのではないでしょうか。

 もしくは何らかの意図があり、ジョーを亡き者にしたかったのか。


 王女もその事には勘付いているはずです。

 きっと、ご自身が王女であると告げればジョーの養父が――彼に対して愛情の欠片もなさそうな養父が、しゃしゃり出てくるのではないかと。


 人の悪意云々は置いておいて、これは政治的な面倒事に繋がるリスクも高い訳です。

 であれば、王女ではなく貴族子女であると誤魔化して軽くお付き合いするのが賢いでしょう。

 ……少々、誠意には欠けると思いますがね。


 ――それにしても、テオ陛下が招待状を送ったのは素行不良の貴族子息女だったはず。

 ジョーは確かに貴族としては「素行不良」に該当いたしますが、しかしどうにもきな臭い。

 招待されたのはジョーではなく、養父の家の実子だったのではないでしょうか。


 王家からの「招待状」とは言っても、余程の事がなければ不参加は認められません。

 招待と言いながら、ほとんど強制徴収のようなものです。


 もし養父に後ろ暗い事があり、今回の招待状を見て何事かに勘付いたのだとすれば――実子を王宮へ送らぬため……「代わりの息子」を王宮へ送ろうと、慌てて孤児院からジョーを引き取ったのではないでしょうか。


 ――だとすれば、ジョーの養父と実子は要注意人物に当たります。


 もしもジョーが王女に不敬を働き、何かしらの罰を受けるとなれば、養父も王宮へ呼び出されます。

 養父としてエヴァ王女に罰の減刑を望む嘆願をする事もあるでしょう。そうして、王女と直接接点をもつことが目的なのかも知れません。


 実子ならば話は別ですが、孤児院出身のジョーなら最悪どうなっても構わないでしょうし――嘆願に失敗したところで、痛くも痒くもないはず。言うなればジョーは捨て駒のようなものです。


 取り急ぎ、ジョーの養父が誰なのか調べておいた方が良いかも知れませんね。彼は中身を見なかったのでしょうが、招待状には家名が書かれていて当然ですから。


 できれば、ジョー本人からも色々と話を聞きたいところですが――わたくしがちらりと庭園を覗くと、ちょうどエヴァ王女が意を決したようにお顔を上げられたところでした。


「――わっ、わたくしの名はアデルよ! ただのアデル!」

「アデル? そっか、俺はただのジョー、よろしくアデル。キレーでいい名前ッスね!」

「ええ、ええ、そうでしょう! わたくし、とっても気に入っておりますのよ! アデルとお呼びくださいませ、何度でも! ――あっ、で、でも、人前では呼ばないで? ええと……お、「お嬢」とでも呼んでもらえないかしら? 格好いいでしょう?」

「お嬢? ははっ、確かにアデルお嬢っぽい! 良いッスよお嬢、で、2人の時はアデルな!」


 ――すぐ上の姉の名を無断で拝借されたエヴァ王女に、わたくしは何とも言えない複雑な気持ちになりました。


 偽名などいくらでもあるでしょうに、何故わざわざ近しい者の名を借りるのか。あとで面倒な事にならないのでしょうか、アレ。


 ……とは言え、姉の名を褒められて誇らしげに胸を張っておられる王女が可愛らしかったので、特別に見なかった事にいたしましょう。


 何はともあれ王女にご友人第一号ができたようで、大変安心いたしました。

 裏で糸引く養父は気になりますが……ジョーについては問題ないでしょうからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ