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現役作曲家が語る、サビ頭の3音だけで「パクリ」呼ばわりされることの虚しさ

 以前、「シングル表題曲」の採用をいただいた時のこと。


 シングル表題に決まると嬉しい反面、プレッシャーや世間の反応なども大きくなる。


 新曲披露後に某掲示板を覗いてみると案の定、「クソ曲」「パッとしない」「オワコン」などとボロクソに書かれていた。


 まあこれはいわば「恒例行事」のようなものなのだけど、その中で自分の目を一際引いた書き込みがあった。それは、


「OO(曲名)のパクリ」


 というものだ。


 おいおい、OOとどこが似てんのよ……?


 もしかしてこれのことか?と思ったのは、サビ頭の3音が一緒なこと。


 確かにテンポや雰囲気は似ているものの、Keyも違うし譜割も違う。さらに、4音めからの展開は全然違う。


 いやいや、これをパクリと言われたらもう曲作れませんよ……と今では思うけど、当時の自分にはショックだったのを、今でもよく覚えている。




 さて、「パクリ」については様々な分野のクリエイターにとって厄介で、あまり関わりたくない問題だと思うが今回は一つ、自分の「パクリ」への所感についてちらほらと書いてみたい。


 まず、パクリには大きく3つあると思う。



 1. ナチュラルパクリ


 2. 正しいパクリ


 3. 盗作



 まず1の「ナチュラルパクリ」だが、これは本人が全く意図せず、たまたま既存作品と似通ってしまった場合のことだ。悪気はないし、被った既存作品のことを知らない場合も多い。


 しかし自分の場合、悪気はなくてもナチュラルパクリは避けなければいけない。楽曲を提供する場合、提供先のアーティストの評判にも関わるからだ。


 なので「弾いちゃお検索」という、メロディを入力して楽曲を検索するアプリ(以前はwebサービスだった)などを使用し、既存曲と極力似ないように努めている。


 冒頭のエピソードの場合ナチュラルパクリに近いが、徹底的に既存曲との類似性をチェックして送り出したし、正直あれがパクリなら何でもパクリになってしまうレベルなので、リリース後も含めてパクリだと言われたことは以後、一度もなかった。



 次に2の「正しいパクリ」について。


 要は「テクニックとしてのパクリ」のことで、プロの世界では至って当たり前に使われている、いわば「道具」の一つだ。


 例えば「残酷な天使のテーゼ」などを作詞された大作詞家の及川眠子先生は、著書「夢の印税生活者~~作詞家になって年収を200倍にする!!~~」の中で、作詞での「正しいパクり方」を披露している。


(ちなみにこの本、年収200倍になるかはさておき、及川先生の出世物語や業界のあれこれが赤裸々に書かれていてめちゃくちゃ面白いので、もしどこかの古本屋等で見かけたら手に取ってみることをお勧めします)


 及川先生の仰るところの「正しいパクリ」とは、「ひとつのものを見て聴いてインスパイアされ、別のものを生み出す」ことで、これを行うにはテクニックやストック(引き出し)などが絶対的に必要になってくる。


 正しいパクリのやり方として作曲の場合で一つ例を出すと、「テトリス」というゲームのBGMに使われていた、ロシア民謡の「コロブチカ」という曲がある。


 あの曲のメロのリズム、「♪タータタタータタター……」、このリズムをサビ頭のメロで使っている某女性ロック歌手の曲があるが、「テトリスのパクリだ!」と言われることはまずない。

 

 ジャンルや音程、テンポなどは全然違うからだ。


 だが、テトリスによって広く知られ、聞き馴染みのいい「コロブチカ」のリズムに乗せたサビ頭は、すごくキャッチーに聞こえるというわけだ。


 実は作曲の場合、「譜割りやリズム(簡単に言えば音符の横の配置)」をパクるというのはよく使われていて、ジャンルやテンポやコードが変わっていたりすると実際ほとんどわからない。


 どちらかというと音程(簡単に言えば音符の縦の配置)の方が気づかれやすい。


 そして、この「正しいパクリ」を行う際に守らなければならない鉄則がある。それは、


 ・バレないようにやること


 ・オリジナルを超えること


 これを守らないと本当にかっこ悪いし、単にリスクを負っただけで何の意味もない。


 譜割りだけではなく音程も、さらにはコード進行やテンポまで全てパクってしまうと、それは「盗作」とほとんど変わりない。


 あくまで、何かインスピレーションを受けたものをテクニックによって、「全く別のもの」に作り変えることが出来てこその「正しいパクリ」。


 プロとして作り続けなければいけない以上、及川先生もこのようなテクニックを駆使しないとやっていけないと断言しているし、歴代売り上げ上位の作曲家の方々も正しいパクリを含め、楽曲を量産できる「システム」を持っていることが多い。


 それはすなわち「理論」や「ストック&データベースからの組み合わせ」、もしくはその両方を使うので、曲作りにはあまり悩まないとか。


 つまり、プロの世界では「テクニックとしてのパクリ」が存在しているのは確かだ。



 そして最後に3の「盗作」についてだが、これは絶対にやめるべきだ。


 必ずバレるし、もし一時の名声を得たとしても、いつかオセロのように白黒ひっくり返り汚名へと変わってしまう。


(盗作に似たものに「オマージュ」というものもあるが、自分は「オマージュはしないように」と指導されており縁がないので、今回は言及は避けておく)


 例えば作曲家がコンペをどうしても勝ちたくて、あまり知られていない既存曲をパクって提出し、採用されたとする。


 しかしパクったことがバレれば賠償請求の可能性すらあるし、事務所などに所属しているとその組織にも多大な迷惑がかかる(事務所ごとコンペ出禁になるなど)。


 バレるかバレないかの賭けをしている時点で、自分は負けだと思う。


 特に悪質なのは、未発表の他者の作品をモロパクリして世に出してしまうことだ。


 未発表なら世間には知られていない、だから「自分が作りました!」と先に名乗り出てしまえばいいと考える輩がいる。


 しかし、このような考え方は断罪されるべきだし、パクられた本当の作者も黙ってはいないだろうから、どこかでボロが出ていずれ落ちぶれる。


 絶対に盗作はしてはいけない。


 作品は作者の魂の化身であるべきもの。その魂を盗んではいけない。


 一時の名声のために、自分の魂を悪魔に売り渡してはいけない。




 さて、これまでいくつかのパターンを見てきたが、3の意図的な盗作はさておき、実は創作を始めた当初はついつい、「モロパクリ作品」を作ってしまう人が多いのではないだろうか?


 正直なところ自分もそうだったし、及川先生も同様だったそうで、詞を書き出した当時の作品を見返したらパクリだらけでビックリし、慌てて捨てたとか。


 そもそも創作とは、「作者がそれまでに触れてきた作品や体験した出来事を自身の中で混ぜ合わせ、組み上げ、アレンジしてアウトプットしたもの」とも言える。


 考えてみてほしい、生まれてこのかた一冊の漫画も本も読んだことありません、テレビも映画も見たこともありません、音楽を一曲も聞いたことがありません、そんな人が存在するだろうか?


 誰しも、これまでの人生で「インプット」されたものを元に、作品を作り上げている。


 だから作品を作り始めで未熟な頃は、自分が好きな作品のモロパクリを作ってしまいがちだが、「最初」はそれでもいいと思う。


 しかし、それはパクリ(真似事)だと誰かに指摘されたり自分で気づいたりして、自身のオリジナリティーというものを探し、技術を磨き成長していくものだ。


(そういった意味で「盗作」は、「創作レベルが低い」と言い換えても過言はないと思う)


 そして自身の創作レベルが上がっても、あくまでこれまでのインプットから吐き出しているのだから、作品のごく一部が「これ、何かに似てるな」などと感じるのは当たり前のことであり、それをいちいち「パクリ」と批判されていては、もはや何も生み出せなくなる。


 だから、サビの3音だけで「パクリ」と書かれ落ち込んだあの日の自分よ、全っ然、気にすることはないのだ。


 締め切りまで徹夜続きでイントロからアウトロまで120%の力で作り切り、自分にしか生み出せない「オリジナル」と胸を張って送り出せたのだから、それが認められたことを誇ればいい。


 このエッセイをお読みの方の中にも、些細なことで「パクリ」だと言われ落ち込んだ経験がある方や、自分はまだ「誰かの真似事」から抜け出せていないと悩んでいる方もいらっしゃるかもしれない。


 断言する。


 作品の「枝葉」の部分について「何かに似ている!」と指摘されても、作品全体で描く「森」に、既存作品にないオリジナル性を確信できるのであれば、全くもって気にする必要はない。


(ただ、枝葉があまりにもあれこれ似ているのはマズイかと......)


 そしてクリエイターにとって、自分にしか作り得ない「オリジナル」は、自身の中に必ず眠っている。


 そのオリジナルとの「出会い方」を知った時、「誰かの真似事」ではない、もう一段二段上の創作レベルに、きっと入っているはずだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  興味深いお話をありがとうございました。  作中の、そもそも創作とは、からの文章や、盗作を戒める例えに、本当にそうだと思いました。    インプット無くしてアウトプットはできません。この創作…
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