第8話 人族の説明はやはり間違っていた
さて。
何から聞くかは迷うところだが……まずは、これからいってみようか。
「俺は勇者召喚を受けた直後……『人族は、勢力急拡大する魔族に支配されようとしている』と聞いた。これは事実なのか?」
召喚された際、国王の従者は「魔族の勢力が急拡大したため、人族が魔族の支配下に置かれるのを防ぐため勇者召喚をした」といっていた。
しかし門番の言い方だと、勇者召喚は古来から行われ、そして勇者は時にはかなり汚い手を使ってまで魔王城を攻めていたようだ。
これは完全に矛盾している。
人族側の主張にボロがあるとすれば、ここを突けば何か出てくるだろう。
「いや、それは全く違うな」
などと考察していると、魔王はそう否定した。
やはりあれは、人族側に都合のいい作り話だったか。
「どう違うんだ?」
まあ魔王側が嘘をつく可能性だって大いにあり得るが、その辺は話を聞いた後、じっくり状況証拠集めをすればいい。
とりあえず俺は、魔族側の言い分を言うよう促した。
「何もかもが違うな。まず魔族の勢力は、ここ数百年大きく変化していない。というか、ゆるやかに減少の一途を辿っているくらいだ。それに我々魔族は、人族を支配下に置こうなどと考えてはいない。むしろ人族の方が、我々に不利な条約を突き付けてきているくらいだ」
すると魔王はそう言って、巻物を一つ俺に手渡した。
開いてみると、それは人族——魔族間の条約が書かれていたものだった。
見知らぬ個人に条約調書の原本を渡すとは、相当本気で俺を味方につけたいらしいな。
契約魔法陣からも微かに国王の魔力が感じられるので、偽物ということもないだろう。
内容を読んでみると……「人族が魔族領内で魔族に対して犯罪を犯した場合、人族の法に基づいて裁く」「人族領にいる魔族の身に何が起きても責任は取らない」などを始めとし、様々な不平等な条項が並んでいた。
最初の二つだけでも、例えば人族の法において魔族の誘拐が無罪なら、いくらでも魔族を奴隷にできてしまうことになる。
これが不平等な内容なのは明らかだ。
ここまで、魔王の証言に偽りはない。
「なぜこんな条約を結んだんだ?」
しかし、よほど特殊な事情がなければ、こんな条約を結ぶ羽目にはならないはずだ。
戦争に負けたとか、そのレベルのことが起きたのは明らかだろう。
それが何なのか聞くために、俺はそう質問した。
すると魔王は、こう返した。
「先々代の魔王が、勇者に殺されたのだ。魔族の掟では、最強の魔族が魔王となる決まりになっている。それゆえ先々代の魔王が殺された時点で、魔族側に勇者に勝てる者がいないのは明らか。勇者に『この条約を呑まなければ即位と同時に魔王を殺し続ける』と言われ、条約を呑まざるを得なくなったのだ」
なるほど、予想はおおかた当たりだな。
一騎打ちも、立派な戦争の一形態だし。
集団戦で勇者を倒すって手もあったのではという気もするが、まあ仮に魔族が総戦力を結集して俺を倒せるかといえば不可能だし、勇者の強さ次第ではその選択肢がなかったとも十分考えられるだろう。
だが……疑問は残る。
そんな強い勇者がいるならなぜ、女神は俺たちを召喚したのか?
もしその勇者が死んでいるなら、不平等条約をそのままにしておくはずなどない。
だからその勇者は、今も尚生きているはずなのだ。
だがそんなリーサルウェポンがあるなら、人族側にとって今回召喚した勇者は不要なはずだ。
「勇者が死ぬたびに定期的に召喚している」という説もなくはないが、だとしたら今回の召喚勇者は俺以外全員魔王以下の実力なので、今が条約の再締結どきとなるのだが。
「その勇者は、今も生きているんだな」
「ああ。でなければとっくに条約の再締結を迫っている」
一応確認してみると、勇者定期補充説はあっさり否定された。
これでますます、俺が召喚された理由が分からなくなったな。
まあこれとばかりは、魔王に聞いたところで答えようがないだろうが。
「じゃあなんで俺は勇者召喚されたんだ?」
と思いつつも、何か知っている可能性もゼロではないので、俺はダメもとでそう質問した。
すると……魔王はこう聞き返してきた。
「ああ、そのことなんだが。お主……勇者召喚された後追放されたといったな?」
「……そうだが。それがどうかしたか?」
唐突にそんなことを聞き返して、一体なんだと言うのか。
疑問に思っていると、魔王は微笑みつつこう言った。
「それは不幸中の幸いだな。お主、命拾いしておるぞ」
「……命拾い?」
訳が分からない。
なぜ追放されたことで、俺は命拾いしたことになるのだろうか。
というかそもそも、この話は俺が勇者召喚された理由と関係があるのだろうか。
魔王にとって不都合な理由なら「知らない」と言えばいいだけだし、はぐらかそうとしているとも思えないが。
などと思考を巡らせていると、魔王はこう続けた。
「そもそも召喚勇者は……魔族に対抗する戦力として呼ばれているわけではない。より強力な勇者を”合成”するための生贄として呼ばれているのだ」
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