第62話 ガルミア王国王宮に乱入
「脱獄者の楽園」の残党のうち、ノーライフキングのみが謁見の間へと入る。
国王の前で、彼は跪いてからこう口にした。
「大変申し訳ございません、陛下。例のダンジョン占拠計画ですが……失敗に終わりました。作戦は中断とし、我々は撤退とさせていただきます」
「な……何ぃ!?」
ガルミア王国の国王はそれを聞いて、額に青筋を浮かべる。
「貴様……言っている意味が分かっておるのか。もし失敗したら、二度と貴様らが活動できんくらいまで違約金を搾り取ってやると言ったはすだ! 嫌なら死に物狂いで完遂させやがれ!」
国王はそう続け、ノーライフキングをビシッと指した。
どうやら相当お怒りのようだ。
だがそんな国王に対し、ノーライフキングは冷静に交渉を続ける。
「いえ、できればその違約金も無しで」
「何を甘えたことを言っておる! そんなこと、ライゼルが邪魔しにきたでもなければ認めるわけ――」
「そのライゼルが攻めて来たのです!」
国王の口から俺の名が出るや否や、ノーライフキングは水を得た魚のごとく勢いづいて国王の言葉を遮った。
まるで「言質は取った」とでも言わんばかりだ。
「これをご覧ください」
ノーライフキングは玉座まで歩いて近づき、ダンジョンでの戦いの際撮影部隊の構成員が使っていた魔道具を手渡す。
ノーライフキングが再生ボタンを押すと……俺がデスプロテクトを使って敵を次々と粉砕するシーンがばっちり映し出された。
「な……。こ、この技は……!」
国王は映像に目が釘付けになったまま、わなわなと震えだす。
「この証拠映像を撮影するのにすら、我々は人員の大半を失う羽目になってしまいました。これ以上の続行はどう足掻いても不可能です」
ノーライフキングは再度深々と頭を下げ、作戦中断の許可を請願した。
……さて、と。
様子見はこのあたりでいいか。
「脱獄者の楽園」とガルミア王国が繋がってることは今までの会話だけでも明白だし、今までの会話は気体型諜報魔道具で録画済みだ。
そろそろ転移して、「脱獄者の楽園」の残党退治及び第三の狂乱がいるダンジョンのボス攻略許可交渉に入るとしよう。
俺は転移魔法を発動しようとした。
が、その時、俺は一個良いことを思いついた。
「メルシャ。そろそろ敵の居場所に転移しようと思うんだが……転移魔法、お前が使ってみないか?」
そう。俺ではなく、謁見の間への転移をメルシャにやってもらうのだ。
理由は一つ。
「思えば俺たちの出会いは、俺が魔王城の転移阻害をすり抜けて転移したところから始まった。だがあの時とは、俺もメルシャも見違えるほど実力が大きく変わった。そこで、だ。ここは一つ、区切りとして……メルシャもそろそろ人の王宮の転移阻害をすり抜けてみないか?」
出会った当初は雲の上の存在に感じてたであろう、「当初の俺」に追いついた。
その実感を持ってもらうのにちょうどいいと思ったのだ。
今のメルシャは、出会った当時の俺なら倒せるくらいには強くなっているのだが……おそらくメルシャには、その自覚は無いだろう。
自信を持ってもらうのにちょうどいいと思ったので、あえてメルシャにガルミア王国王宮の転移阻害を破って転移してもらおうと思ったのである。
「転移阻害のすり抜け、か。ついに我がすり抜ける側になるのだな……」
「気負うことはない。今のメルシャなら余裕でできるさ」
「ライゼルどのがそう言うのであれば……やってみる」
メルシャはそう返事すると、転移魔法に術式を組み始めた。
「……こんなところで、どうだ?」
メルシャが組み上げた魔法陣を見て、俺は何を言うでもなくただコクリと頷く。
次の瞬間、視界が一変した。
「な……!?」
「は……!?」
転移先には、口をあんぐりと開けて驚くノーライフキングとガルミア国王の姿が。
無事、転移阻害を超えて目的地に転移できたようだ。
念のため王宮に展開してある転移阻害結界を解析してみるも、ダメージは特に入っていない様子。
「実はうまくすり抜け切れていなくて、時間差で結界が崩壊する」といったこともなさそうだ。
むしろ――。
「よくやった、完璧にすり抜けられている。ただ……この程度の杜撰な転移阻害が相手なら、あそこまで通過力を求めたすり抜け術式は必要なかったかもな」
少々オーバースペック気味だったくらいだ。
「転移阻害をすり抜けるのは、我は初めてだからな。確実に成功させたかったのだ」
「そうか。まあ、だんだん慣れるさ」
ともかく、無事転移は成功したのだし、ここからは用件の片付けに入らないとな。
ノーライフキングたちの方に視線を向けると……彼らは完全に固まったまま動かなくなっていた。




