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第61話 量子魔法陣の同時刻印

 収納魔法から、調理用加熱魔道具を作るのにちょうど良さげな魔石を百個ほど取り出す。

 量子魔法陣の同時刻印など、もちろん今まで一度もやったことないのだが……果たしてうまくいくだろうか。


 何度か深呼吸して集中力を上げてから魔法を発動し、限界まで繊細な魔法制御を試みる。

 あまり時間はかからず、百個の魔石への魔法陣の刻印が完了した。

 見た感じうまくいってるっぽいが……果たして本当に全部ちゃんと作動するだろうか。


 全ての魔道具を起動してみると……残念なことに、うち24個は初期不良となってしまっていた。

 うーん、ちょっと難しいみたいだな。

 慣れれば全然もっと沢山の個数を同時にやれそうなんだが、そこに辿り着くには少し時間がかかりそうだ。

 何回かは、八十個くらいに魔石の量を減らして同時刻印を反復練習する必要がありそうだ。


 などと思っていると、隣からこんな声が聞こえてきた。


「ライゼルどの、それ、もしかして……」


「どうした?」


「量子魔法陣を……同時刻印したのか?」


 ふと見てみると、メルシャは目が点になっている。


「そりゃ、そうしないと魔族領に必要な個数が行き渡らないからな。一個ずつ作っていたら、それだけで何年かかるか分からないだろう?」


「そ、それはそうだが……たった今開発した魔法陣だろう!? それも、今までの比にならない難易度の!」


 ……そんなに驚くことだろうか。


「魔法陣の同時刻印って、一個ずつ彫るのに比べてかなり難易度が上がるはずなんだが……それをぶっつけ本番で成功させた……?」


 ああ、メルシャ、これを成功だと思ったのか。


「いや、失敗してるぞ。見ての通り、百個中二十四個も初期不良だ」


「それは……失敗……なのか……? 我が初めてライゼルどのから魔法陣の同時刻印を習った時なんて、五個くらいの同時刻印で頭ヘトヘトになったんだが……」


 そういえばそうだったな。

 しかしそれは、そもそも同時刻印という技術に触れるのが初めてだったからというのが大きいだろう。

 俺の場合、もっと簡単な魔法陣でなら山ほど同時刻印をやっていて感覚自体は分かっているのだから、新種の魔法陣だからというのはあまり失敗の言い訳にならない。


「これだけ一緒にいてもなお、ライゼルどのには格の違いを見せつけられてばかりだな……。しかし、思ったより早くシシルに会いに行けそうなのはありがたい」


 メルシャは初期不良を起こさなかった七十六個の魔道具に視線を落とし、満足げにそう言った。

 だが俺は、この程度の同時刻印数で満足するつもりはない。

 しばらくは八十個ずつくらいでやっていくが、慣れればもっと一回あたりの個数を増やすつもりだ。

 そんなことを心に決めつつ、俺は何度か収納魔法から魔石を取り出しては同時刻印を繰り返していった。

 最初は八十個でなんとか初期不良を起こさずに済む感じだったが、最後の方には千個ずつの同時刻印もできるようになった。

 これなら十分習熟したといえるだろうし、魔道具の累計個数もそろそろ納品に足る感じになった。


「一旦、これくらいの個数でどうだ? もっと必要ってなったら、適宜その時に増産はできるしな」


「あ、あっという間だったな……。ライゼルどのの同時刻印数の増え方、凄まじすぎて寒気すらしたぞ」


「流石にそれは言い過ぎだろう。で、個数はこれで大丈夫か?」


「あ、ああ……もちろんだ」


 じゃあ、転移するか。

 作った魔道具を全部メルシャが収納したのを確認すると、俺は異世界転移を発動しようとした。


 が、その時のこと。

 気体型諜報魔道具から、緊急の通知が入った。

 どうやら「脱獄者の楽園」の残党が、ガルミア王国の王宮に到着したようだ。


「すまない、シシルに会いに行くのは一旦保留だ。とはいえ、すぐ終わらせるがな。『脱獄者の楽園』の残党の件だけ済ませてから行こう」


「それくらいならもちろん構わん。もともと、こんなに早く大量の加熱調理用魔道具を持っていけるとは思っておらんかったからな」


 メルシャの合意も取れたので、まずはこちらを片付けることに。

 いいタイミングで乱入できるよう、俺は気体型諜報魔道具の転送情報に意識を向けた。


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