第6話 魔王の元へ到着した
魔王の拠点の城(便宜上、魔王城と呼ぶことにする)の前に着くと……門の前に、槍を持った二人の魔族が立っているのが見えた。
……本当に魔族同士の間に「上司と部下の関係」ができているんだな。
この時点で、この世界の魔族は俺の知ってる魔族じゃないと断定して問題ないだろう。
門を通り過ぎようとすると、そのうち一人が俺を呼び止めた。
「止まれ。人間がこの城に何の用だ」
……単純に魔王とお喋りしたいだけだし、単刀直入に目的を言って構わないか。
「魔王と話がしたくてな。良かったら、案内してくれ」
俺は目的を本心のままに告げた。
だがそうすると、門番の魔族は二人そろって俺に槍先を向けた。
「ふざけるな。人間が、魔王に会いたいから話をさせろだと!?」
どうやら今の言い方だと、門番の気に障ってしまったようだ。
だがまあとりあえず、穏便に交渉を進めてみよう。
「突然訪問するような非常識な真似をして申し訳ない。アポイントをどこで取ればいいか教えてくれ」
そう言って俺は、頭を下げた。
しかしながら門番たちは、俺の発言を聞いて、般若のような形相になってしまった。
「いい加減にしろ! 人間風情が魔王様にお会いするためのアポイントなど取れると思いおって! だいたい貴様、召喚勇者だろ。無害を装って魔王様に近づこうったって、そうはさせんぞ!」
なぜ怒られたのかと思ったら、どうやら門番たちは俺が異世界から来てたのに気づいていたようだった。
だが俺は、召喚勇者ではない。
まずはそこのところの誤解から解いていこうか。
「その召喚をされた挙句、王宮から追放されてしまったんだがな。しかも今朝に至っては、国王に刺客を放たれて危うく殺されるところだった。確かに俺は人間だったが、そんな事情があれば魔王側に寝返ろうとしてもおかしくない。そう思わないか?」
とりあえず俺は、同情を誘えそうなエピソードを並べてみた。
実際に完全に魔族側につくかはまだ未定だが、害意のないことを証明するにはこれくらい言った方がいいはずだ。
召喚されていることは、確かに勇者である容疑をかけられる一因にもなるが……同時に、ただの庶民ではないという証拠にもなる。
これくらいのバックグラウンドが揃えば、むしろ会わせてもらうための交渉材料にすらなるだろう。
……と、思ったのだが。
「ほう? その手で来たか。……そんなことで我々が騙されるなどとは思うなよ。過去にもそうやって『敵の敵は味方』を装う召喚勇者は存在した。もう同じ手は食わん!」
運の悪いことに、どうやら過去には詐欺の手口として同じことを言った召喚勇者がいたようだった。
なんでよりにもよってそんなことした奴がいるんだよ。
完全にとばっちりを食らってしまっているんだが。
というか……門番たちの口ぶりだと、これ以前にも多数召喚勇者の襲撃に遭ってるんだな。
勇者召喚、王宮で受けた説明の印象よりだいぶ多く行われているのかもしれない。
まあ、それは置いといてだ。
流石にこうなってしまうと、もはや八方塞がりだ。
この門番たちを説得して、魔王に合わせてもらうというのはどう足掻いても不可能だろう。
強引な手段も含めれば、洗脳魔法を使って案内させるという手もなくはないが……そんなことをするくらいなら、もはや強行突破の方がまだマシだ。
というわけで、ここは強行突破するとしよう。
どうせ当初は殺害ターゲットだったんだし、必要なら非礼は後で詫びるとして、直接魔王に会うとするか。
そのためには……まず魔王の所在地を確かめなければな。
魔王の身体的特徴に関する情報が皆無な以上、探知魔法だけではどうにもならないので……状況証拠から推定するしかない。
まあその推定自体は実はもうできているのだが、どうせならここは一つ、門番たちを使ってその推定が合ってるか答え合わせするとしよう。
「そうだな。となれば質問を変えるが……あの塔のてっぺん、他より申し訳程度に強力な転移阻害が張られてるんだが。あれって、魔王がそこにいるからそうしているのか?」
俺は該当箇所を指で差しつつ、門番たちにそう尋ねてみた。
すると門番のうち一人が、眉間に皺を寄せこう怒鳴る。
「な……他より申し訳程度に強い、だと? 貴様、魔王様謹製の最強の万能結界を侮辱しおって……!」
しかしそれを聞いて……もう一人の門番は慌てた様子でその門番の脇腹をつつき、小声でこう窘めた。
「おいお前! それを言ったら……」
——確定だな。
これが上手な即興芝居とかでない限り、魔王の居場所は塔のてっぺんだ。
始めから俺は、答えを得ようと思って質問をしたわけではない。
もしかしたらこんな感じでボロを出すのではと思い、尋ねてみたのだ。
これで、下手な推理で当てずっぽうで探し回る手間が省けたというものだ。
「ありがとう。あそこなんだな」
そう言って俺は、一応頭を下げた。
すると門番は眉間に青筋を浮かべながら、鼻をフンと鳴らしてこう吐き捨てる。
「まあいい。あの転移阻害を突破できるというならやってみろ。自信過剰な召喚勇者さんよ?」
……これは許可を取れたと言っていいのか。
ダメだろうが、まあ転移をするという決定を覆すつもりはない。
一応「魔王様謹製」ってことだし……せっかく組み立てたものを壊すと心象が悪いだろうから、すり抜ける方針でいくか。
などと考えつつ、俺は術式を組み立て始めた。
さっきの魔道具は長距離移動用だし、転移阻害のすり抜けをする時には魔法のカスタマイズが必要なこともあるので、今回は魔道具ではなく魔法で転移する。
魔法は無事発動し、瞬きした次の瞬間には、俺は豪華な装飾がなされた部屋の中にいた。
転移成功、転移阻害結界への損傷もゼロだ。
魔法で視界をサテライト視点に切り替えると、さっきの門番たちがあたふたしているのが見て取れた。
……彼らには少し申し訳ないことをしてしまったな。
一応魔王には、彼らを罰しないようにと伝えることにしよう。
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